青い紋章
「無理無理無理無理…」
うわごとのように呟き続けるナナギ。
丸い瞳に映るのは、銀に煌めく物体。
「マジかよ…」
げんなりとクリスも呟いた。
彼らの周りを取り囲むのは、たった今叩きのめしたはずの剣達。
ため息もつきたくなる。
だって、へし折ったはずの刃先すらまたも自分たちを狙っているのだから。
「キリがねぇ…」
「そういう問題じゃないけどねー」
さすがのレイも今度は苦笑を浮かべ、頭を抱えるクリスの肩を叩いた。
「これは…」
ひくり、とクシナは頬を引きつらせる。
「…どうすんだよ」
「ドアは開きませんよね」
「開くかよ」
シャオロンですら、いつもの無表情を崩して困り顔だ。
それもそのはず。
宙に浮かぶ剣の欠片達は、見事なまでのチームワークを見せ付けるように、ナナギ達を取り囲み円を描いているのだ。
先ほどまでとは明らかに違う団結っぷりは、とてつもなく嫌なことを予感させる。
「これって…あれよね?」
「あれで分かるはずがないでしょう。貴方は物忘れの激しい中年ですか。ついに身も心も年増ですね」
「ちょっと!」
苛立ちからか、シャオロンの毒舌も二割増しだ。
「一気にドバーッて来る奴だよね!? わーって、ごーって」
涙目になりながら、ナナギはまくしたてる。
身振り手振り必死だが、擬音語だらけなので大変分かりにくい。
つまり、ナナギの言葉を訳すとこういうことだ。
『これって一斉に落ちてくるフラグだよね!? 勢い良く』
ナナギの言葉に、微妙な表情でクシナが頷いたその時だった。
一本の剣がゆらり、揺らめく。
それを合図にするかのように、他の全ても小さく震えた。
七人の顔が蒼白に染まる。
怖いくらいに美しく銀が輝き、狙いを定めるかの如く切っ先がナナギに向いた。
最早誰も何も言えず、ナナギががくりと膝を折った。
瞬間、風を切る音が微かにした。
キィン…ッ。
頭上で響いた金属音に、ナナギはうっすらと目を開けた。
予想された衝撃はなく、どうやら血も出ていないようだ。
直後、ガチャンと目の前に剣が落ちてくる。
「…へ?」
間の抜けた声と共にナナギは顔を上げた。
つられるように他の者も視線を上げる。
そこには、ナナギ達を守るように掲げられた、大きな盾があった。
青い紋章の刻まれたその盾には、傷一つ付いていない。
固く重そうなそれに、ナナギが目を丸くした。
「え? なんで…」
性懲りもなくナナギが安易に触れようとした瞬間、部屋中に高い声が反響した。
『レイク! どうして!? 何故私の邪魔をするの!』
あまりにきんとしたその声に、クリスが分かりやすく顔をしかめた。
「は? 誰…」
チサヤが惚けたように零す。
『ソフィア。邪魔をしたわけじゃないんだ』
『私はただあれを盗んだ泥棒を懲らしめたいだけなの!』
『落ち着くんだ。彼等が犯人だとはまだ分からないだろ?』
『でも…っ!』
自分達を無視して繰り広げられる会話に、七人は困惑する。
一つは女声、もう一つは男の物のようだ。
どうしよう、とおろおろするナナギの横で、クシナが控えめに声を上げた。
「あの…もしかしてあなた方は…」