お年頃ですから
四方八方を剣に囲まれたナナギ達。
まさに絶体絶命。
その数は優に三十を超えていて、到底避けてかわせる数ではない。
「面倒くせーなー」
舌打ちしながらクリスが眉をひそめた。
その様子に焦りは見られない。
見た目は可愛い少女でも、かなりの時を生きてきた彼だ。
越えた修羅場の数も相当なものなのだろう。
「どうするの~っ? こんなの避けれないよ!」
早くも諦めモードなナナギは、泣き言を言う。
いつ自分に向かって落ちてくるか分からない剣に、鼻を啜る。
「誰も避けろなんて言ってねーよ」
「ちょっと無理があるよね」
「だな」
「…どういうこと?」
脳内をハテナマークで埋め尽くしながらナナギは首をかしげた。
にこにこと、レイは楽しそうに笑っている。
さすが通称『魔王』。
こんな時でも焦るどころか笑顔とは。
侮れませんね。
「避けらんねーなら」
指を鳴らしながら、クリスが不敵に口角を上げた。
天使のような容貌にはいささか不釣り合いなはずのその表情だが、ミスマッチさが敢えていいのか、目を見張る程に美しい。
「倒すまでだろ?」
「倒せばいいでしょ?」
ぴったりと重なった二つの声に、一同は覚悟を決めたのだった。
「無理無理無理…絶対無理…」
約一名のヘタレを除いて。
一本目の剣が落ちてくるのを合図に、各々は武器を構えた。
全員揃っての戦闘は久しぶりというか初めてなので、ここでちょっと武器の説明をば。
ナナギはルラの店で貰った玻璃の扇。
これはまあ知っての通りですね。
クシナは大剣、ついさっきもこれで頑張ってましたね。
チサヤは銃。
一番最初のボスらしきものを倒したやつですね。
シャオロンはレイピア、貴族的な見た目がいい感じです。
レイとリィーリアは魔法要員なので、似たようなロッドを装備しています。
最後にクリス。
彼は素手です。
精霊ですしね、ちょっと痛そうですけど大丈夫なのでしょう。
「よっ」
小さく声を漏らしてクリスが背を仰け反らせた。
直後、垂直に剣が横切る。尋常じゃない動体視力を以てして、クリスは正確に柄の部分を細い足で蹴り飛ばした。
見かけこそ華奢だがその威力は凄まじく、鉄で出来た剣はいとも簡単に真っ二つに折れた。
柄を蹴ったのに何故刃先が折れるのかは分からないが、やはり不思議な波動でも有るのだろうか?
「烈火よ環を成して魔を焼き払え!」
「黒き闇の力よ主の元へ集いなさい」
同時にレイとリィーリアが叫んだ。
レイのロッドからは紅き炎が。
リィーリアの指先からは闇の波動が。
それぞれ実体を持って形を作る。
「行け」
「行きなさい!」
合図を送ると、それらは勢いをつけて解き放たれた。
各々魔力を発しながら、落下してくる剣を包み込む。
炎に巻かれた剣はどろりと形を失い、鉄の塊となり。
闇の波動に襲われた剣は強い魔力に耐え切れず、音を立てて弾ける。
「意外と呆気ないのな」
拍子抜け、とばかりにクリスが肩を竦めた。
横で剣をいなしては叩き落としながら、クシナが苦笑する。
「何で残念そうなんだよ」
「…お年頃ですから」
「危機を回避して残念がるなんてどんな年頃だ?」
「ピンチを楽しむお年頃」
妖艶に微笑みながら、幼女の姿をした精霊は唇を細い指でなぞった。
大方の剣は破壊し尽くしただろうか、という頃。
事態は急変した。
それは、ナナギの可愛くない悲鳴から始まった。
「ぎゃあああっ!」
耳の痛くなるような声に、一同は顔を一瞬しかめてからナナギを見た。
「…どうしたんだよ」
刃先の部分だけを銃で正確に狙い続けるという、何とも神経の疲れる作業で疲れ切ったチサヤが、さも面倒くさそうに尋ねた。
「あ、あれ…」
ぱくぱくと、金魚のように口を開閉させるナナギに、チサヤは焦れたように舌打ちをする。
「どれだよ……よ!?」
ナナギの指差す方向を見て、チサヤは目を見開いた。
最後のよ、は自分への確認だろうか。
「「………」」
事態を飲み込んだナナギとチサヤだけが顔を青くし、瞬間黙り込んだ。
飲み込めていない他の五人はきょとんとした顔で首を傾げる。
「「うわああああっ!」」
今度は二人揃って大絶叫だ。
盛大な声に残りのメンバーが周りを確認した。
さーっ、と音がしそうなほど顔が白くなっていった。