旅の手引き
「銃者のチサヤ・マリア」
「特に役職なしのナナギ・グローラ」
ぶっすー、っとした表情のままナナギは金髪の少年を睨み付ける。
同じように、チサヤも目の前の茜色の髪の少女を眉根を寄せて見ていた。
二人の間に漂う剣呑な雰囲気を打ち払うように、クシナは手を打った。
「ほら! 四人目の奴が来るぞ。な?」
何が、な?
なのかはイマイチ分からないが、四人目の勇者が来たのは本当のようだ。
足音よりかは、衣擦れの音を響かせる、優雅な歩みにナナギは振り返る。
そして、息を呑んだ。
「び、美少女…っ」
「あ。僕男ですから」
そんなナナギの言葉を全否定する声と共に、その勇者は現われた。
海を思わせる深い碧の瞳に、ダイヤモンドの銀を映した艶めく髪。
無駄な肉が一つもないなだらかな肢体は、一見すると少女のようにも思える。
ナナギ達とは種族が違うのだろうか。
銀髪の間から、僅かに覗く白い額には、翠の宝石が光っている。
埋め込まれたというよりは、元からあったと言うほうが納得が行くほど、ごく自然に彼の額を彩っていた。
「レイズン・シャーロンです。性別は、男です」
念を押すように、柔らかな声でそう言うと美少女ことレイズンは微笑を浮かべた。
女神降臨…!
思わず手を合わせて拝みたくなる衝動を何とか押さえると、ナナギは気持ちを落ち着けようと深呼吸を繰り返した。
「何やってんだよ、役職なし女」
「…は!?」
ぼそりと言ったチサヤの声を見逃さず、ナナギは不満の音をあげた。
「別にー」
頭の後ろで手を組んですっとぼけるチサヤ。
ナナギは、まだ納得は行かないようだが、放っておこうとそっぽを向いた。
「えーっと、レイズンさんはどんな役職ですか?」
眉間に寄った皺を手で伸ばしながら、ナナギは愛想良く笑った。
事の次第は見ていたはずなのに、レイズンは戸惑うことなく笑みを返した。
「僕はそうだね、基本は僧侶だけど、少しなら攻撃魔法も使えるよ」
そう言って、レイズンは白い手のひらを前に出すと、その微か上空にルビーの色をした珠を浮かべてみせる。
ちょっとしたご挨拶のつもりなのだろうか。
その輝く珠を、レイズンはナナギに手渡した。
「うわー、綺麗~」
感嘆の声を上げたナナギに、またも余計な一言を放つ。
「馬鹿は光るものが好き」
「ちょっと、チサヤっ!」
「まーまー、ナナギも押さえて。ほら、チサヤも謝れって」
またも言い争いが始まりそうな気配に、クシナが焦ったように仲立ちした。
まだ不満の残るナナギだったが、クシナがそう言うなら、と膨れっ面のまま小さく頷いた。
「まぁいいや。でさ、レイはどこ出身なんだ?」
「レイ…?」
「あー、レイズンじゃ長いからな。別にいいだろ?」
「うん、構わないけど。えーっと、僕はシルバーナからの代表だね」
「シルバーナ!」
レイズンもとい、レイの言葉に、ナナギが驚いたような声を上げた。
「あ、知ってる?」
「勿論、女の子なら常識だよぉ」
ぱちぱちと、小さな白い手を叩いてナナギは胸を張る。
シルバーナ。
宝石の産地としても有名な、ファッションの最先端を行く国だ。
ちなみに、女の子なら、一度は行ってみたい国ナンバーワンだったりする。
「この前レースだけで作ったスカートが出たよね! あれ、可愛いよねぇ」
「そうだね。あのふわふわした質感がいいね」
「そうなのー! コーディネートも色々あるよね」
「ジーンズ生地の上着と合わせると、甘くなりすぎなくて可愛いと思うんだ」
「確かに! あー早くアヴェロンにも入荷しないかなぁ~」
「買ってこようか?」
「本当っ?」
きゃっきゃっ、と華やかな空気の流れるナナギとレイの会話を聞きながら、チサヤは渋い顔をして、げんなりと呟いた。
「……なんで話が分かるんだ?」
「姉が、ショップ店員をやってるから」
「聞こえたのかよ」
「レースカート、一番乗りだぁー」
「話題が脱線しすぎだ…」
なんだか、まとまりのないメンバーだ。
必然的にリーダーになってしまいそうなクシナは、頭を抱える。
「…ほらほら! もう交友を深めるのは後にするぞ。さっき貰った紙に、概要が書いてるから」
「はぁーい」
「おー」
「了解」
三者三様の返事に、クシナはにこりと笑い、三人が盛り上がっていた時に渡された紙をひらりとテーブルに乗せた。
「概要って何の?」
「んー、とりあえず旅の。かな」
「ふぅん」
曖昧に返事を返しながら、ナナギは紙を覗き込む。
<旅の手引き>
なんかネーミングセンスないなー。
遠足のしおりみたいだ、とナナギはぼんやりと思いながら、何の気なしに紙の一番下を見た。
―出発日 4月8日―
………ん?
「ねぇ、今日って何月何日だっけ?」
「あ?4月8日だろ」
チサヤからの答えに、ナナギは眉を寄せると、ごしごしと目を擦ってからもう一度確認をした。
―出発日 4月8日―
「………ん?」
今度は口に出た。
「どうした? 何か心配事でもあったか?」
黙り込んでしまったナナギを心配そうに覗き見ながら、クシナが声を掛けた。
「あのさ……」
この一時間弱で、ナナギが分かったこと。
チサヤとは、どうもソリが合わないということ。
クシナは、世話焼きで優しいこと。
レイは、美少女な顔をした男だけど、服にも詳しいこと。
そして……。
「今から出発ぅっ!?」
こんにちは。
なんとなく気分が乗ってしまったので、本日二度目の更新です!
次は明日更新します!
次話は、ちょっぴり家族モノ。
・・・・なのでしょうか?
ナナギのちょっと暗い過去が見えるような、見えないような・・・?
では、また。
瑞夏




