じゃあ、目指すは
「やっと追い付いたか。ほら、危ないからそんなに急ぐな」
ぱたぱたと響いてきた二つの足音に向かって、クシナは優しく声をかけた。
別に理由を聞くつもりもないし、そんな必要はないだろう。
だんだん近づいてくるナナギの表情は明るい。
先ほどのナナギの様子は誰から見ても明らかにおかしかった。
チサヤが名乗り出なかったら、他の誰かが行っただろう。
そう信用できるという意味では、このパーティはなかなかの物だとクシナは密かに自負している。
「んで? さっきからとにかく進んでるけど、何かあてでもあるのか?」
一人頷くクシナに不審そうな視線を向けながら、クリスがかったるそうに言った。
細い腕は頭の後ろで組まれている。
「ああ。いや、確信はないんだがどうも最上階が外から見た時怪しかったんだ」
「怪しい?」
クシナの返答に、今度はレイが首をかしげた。
「それはわたくしも思ってよ。変だわ、あんな高い所に鳥が飛んでいるなんて」
ぽむ、と手を叩いて同調したリィーリアの言葉に、一同は苦汁を飲んだような顔をした。
シャオロンに至っては、何言ってんだこの年増は、みたいな顔をしている。
「何仰っているんですか、これだから年は、取りたくないですね」
訂正。
シャオロンはもっと厳しかった。
微妙に言い得ているところが、余計にぐさりとくる。
案の定、リィーリアは切れ長の瞳を潤ませ始めた。
「いいですか? リィーリア様。これを御覧下さい」
先ほどよりも随分と優しい声音でシャオロンは語り掛けると、リィーリアを覗き込んだ。
手にはどこから取り出したのか、空を飛ぶ鳥と地面を歩く鳥の描かれた紙を持っている。
「なによ?」
「いいですか。鳥は本来空を舞う生物なのですよ。飛べないのはペンギンや鶏など、ごくごく一部の種別なんです」
「……ええっ!?」
シャオロンの丁寧な説明に驚きおののくリィーリア。
その瞳には、驚愕の二文字がはっきりと浮かんでいる。
「し、知らなかったの?」
ナナギがリィーリアを覗き込んでそう言った。
「ま、ま、ま、まさか!このわたくしが知らないはずはないでしょう!」
「知らなかったんだな」
「お、お黙りっ!」
クリスの言葉に分かりやすく動揺して、リィーリアは声を張り上げ首を振る。
「知らないことは恥ずかしいことではありませんよ」
「シャオロン! そう言われると虚しさが増すわ!」
「存じております」
「まさかの確信犯!?」
「いえ。どちらかと言えば快楽犯ですね」
「んまぁっ! 人を玩具にしないでちょうだい!」
「おや、違ったんですか」
「シャオロンッ!」
コントみたいな口論を繰り広げる二人に、クシナはため息をつき、それからもう一度口を開いた。
「二人共それくらいにしてくれ。俺が言いたかったのは…」
「オーラがまがまがしかった、ってことだろ?そーだな、確かにあれは妖しかった」
クシナの言いたいことを先読み、クリスは続ける。
漢字違いの妖しいに、皆は少し首をかしげた。
「要するに、だ。ボスがいるとしたら、そこが可能性高いって言ってんの」
「そうなんだ~」
「じゃあ、目指すは最上階なんだな!」
「よし。そうと決まったのなら、さあレッツゴーよ!」
泣いていたはずのリィーリアの声高な宣言と共に、一同は歩速を速めた。
こんにちは。
このお話昨日投稿するつもりだったんですけど、ちょっと諸事情がありまして…。
このごろリィーリアが確実に初めよりも、幼児化しつつある気がしてなりません。
それに比例するようにシャオロンも、口が悪くなってるような…。
では。
感想とかもらえたらうれしいです。
瑞夏