怖くないっ! 怖くないからな!
おどろおどろしい暗雲がかった三角屋根。
元は城だったと予測される壁は、灰色で埃や蜘蛛の巣が一面に見られる。
頭上にはぎゃーす、と非常に可愛くない鳴き声を上げるのは、これまた薄汚れた烏と……何だろう。
選別不可能な奇妙な鳥だ。
そう、ホラーポイントを忠実に押さえたこの建物こそ、今回の目的地。
「すごいな。お化け屋敷みたいだ」
「ひいいいいっ」
「怖くないっ! 怖くないからな!」
「懐かしい感じですね、リィーリア様」
「わたくしの家はもっと趣味が良くてよ」
「おおっ! わくわくするな」
「すごいね。まがまがしい…」
各々好き勝手感想を言いながら、一歩また一歩と城に近づいて…。
「やだぁっ!あたしここで待ってる!」
「お、俺は別に怖いわけじゃねぇけど、ナナギ一人残すのは心配だから、一緒に残っててやる!」
……いくのはこの二人以外。
ナナギとチサヤは、がたがたと震えながら縮こまっている。
なんかもう、情けなさ爆発ですね。
「何言ってるんだ。ここに残ってても、出るときは出るんだから、一緒にいた方が心強いだろ?」
な?
と優しく声をかけて手を差し伸べるクシナに、ナナギの瞳が潤む。
「ううう…」
おそるおそるも、その手を掴むナナギの横で、裏切り者!とチサヤが喚いている。
「チサヤ…」
困ったように眉を下げるクシナに、クリスが小さくため息をついた。
こっそりと目配せをして、口を開く。
「ほら、ガキもびびってないでさっさと行くぞ!」
「ガキってなんだよ、ゴスロリめ」
「見たまんまだよ、ばーか」
「あだ名ですか? ぴったりだと思いますよ」
「そうか。ちなみにお前は毒舌男だ」
「まぁ。シャオロンにぴったりだわ!」
「…リィーリア様?」
「……ごめんなさい」
「僕魔王だったよ?」
いきなり騒がしくなってきた。
悪態をつきながら、つかつかと歩き始めたクリスに、チサヤが顔をしかめたままついていく。
ぎゃあぎゃあと言い返すことに気を取られているのか、先ほどまで拒んでいたことも忘れているようだ。
「鳥頭め」
「あ? 何か言ったか!」
「…何でもねーよ」
「その訳知り顔が鼻に付くんだよ!」
「そりゃあ、すみませんねぇ」
ひょいと肩を竦めてみせるクリスに、チサヤは更に苛立ちを募らせる。
この二人はどうも反りが合わないらしい。
「うっうっ。クシナ~レイ~シャオロン~…服掴んでてもいい~?」
「はいはい」
「いいよ」
「どうぞ、ご勝手に」
「だっ、駄目よ! シャオロンはわたくしの傍についてなさい!」
ナナギの頼みを受けるシャオロンに、リィーリアが慌てたように声をあげた。
「はぁ? いい年して何を仰っているんですか」
「口答えなんて生意気よ! シャオロンは黙って傍にいればいいの!」
「年増のツンデレは可愛くないですよ。見苦しい」
「んまぁっ!」
「し、シャオロン。いいよ、リィーリアさんについててあげなよ…」
半泣きで唇を噛むリィーリアを見兼ねたように、ナナギは苦笑を浮かべた。
「そうですか。気を遣わせてしまってすみません」
「ううん、気にしないで。よく考えたらシャオロンはリィーリアさんの付き人だしね」
「全くの不本意ながら」
「シャオロン~っ!」
おいおい、と口を挟み掛けるクシナの耳に、前方から
「ちくしょうオカマ野郎め!」
「…ぎゃんぎゃん吠えるのは弱い証拠だぞ?」
「俺は犬じゃねぇっ!」
そんな会話が聞こえてきて、彼は頭を抱える。
また胃痛が増えそうだ。
ぎゃーす、と可愛くない鳴き声にかき消される程小さい声で、クシナは呟く。
「何でこんなやつばっかなんだろ…」