お礼の品々
「ふぅー。お布団気持ちいい~」
敷かれたばかりの布団にダイブして、ナナギは頬を緩ませた。
あの後、ルラの巣窟から町へと帰った七人を待っていたのは、町人達からの熱烈な感謝だった。
行方不明になっていた人は、皆無事に戻ってきたらしく、涙を流して喜ばれた。
「これ、何かしら」
卓上に並べ立てられたお礼の品々を物色していたリィーリアが、その中の一つを摘み、言った。
「…」
残念ながら、返答は返ってこない。
昼寝をしていたリィーリアとは違って、他の人はそれなりに働いていたのだ。
質問に答えてあげる気力はなかった。
しかし、それで引き下がるようなリィーリアではない。
「ねえっ、シャオロン! 答えなさい!」
ぐったりと寝転んでいるシャオロンに、はた迷惑にも詰め寄り、例の物を突き出す。
たぷん、と液体が波打つような音がした。
「…あー、林檎じゃないんですかー…?」
「見もしないで何を言うの! ていうか、林檎くらいならわたくしでも分かってよ!」
「そうでしたか。林檎と石ころの判断もつかないかと思っていました」
「シャオロン!?」
顔も上げずに答えたシャオロンにリィーリアは甲高い声を上げた。
どうやらリラックス時間を妨げられた怒りは、思いの外深いらしい。
いつも三割増しほど、毒が強い気がする。
疲れている他の人も、助け船を出すことなく二人のやり取りを聞いている。
「ちょっと! シャオロン! 聞いていて!?」
「年増の五月蝿さは耳につきますね。少し黙っていて下さい。もしくは樹海で肝試ししてきて下さい」
「死ねってこと!?」
「違いますよ。一年程飲まず食わずで彷徨っていてほしいだけです」
「それを死ぬと言うのよっ!」
欝陶しげに、しかも静かに言うシャオロンに、リィーリアは余計に声を荒げる。
「はぁ…。喧しい方ですねぇ。どれですか?」
喧しくさせたのはシャオロンなのだが、彼は悪怯れることなく言い、目線だけリィーリアに向けた。
深いため息のおまけ付きで。
見るや否や、あぁと小さく頷く。
「酒、というものですよ。魔界ではあまり見られませんからね」
「さ、け?」
「酒っ!?」
「ええ。アルコールの入った飲み物です。貴女とうに成人しているのだから、飲んでみたらどうです?」
不思議そうに目を丸くするリィーリアの後方には、まだまだたくさんの酒が置かれている。
ちなみに嬉しそうな声を上げたのはクリスだ。
どうやら見た目はともかく実年齢はけっこういっているらしい。
七人で飲んでも一晩なら、優に楽しめる量だ。
「酒……」
二三度首を傾げた後、リィーリアは妖艶に唇を曲げた。
「決めたわ。皆でこれを飲みましょう!」
「嫌ですよ。寝てたい…」
「ちなみに、反対意見は認めなくってよ」