感動の再会
『なんだよ、あいつ』
「よ、良かったぁ~…」
拍子抜けしたように肩を竦めるクリスは、何故か物足りなさそうだ。
その横でナナギは安堵のため息をつき、それからガクッとへたり込んだ。
一拍遅れて、茜色の髪が波を打つ。
『どうした?腰でも抜けたか』
目だけでナナギを見下ろしながら、クリスは笑った。
「当たりー…」
うるうると瞳を輝かせて、ナナギが何度も頷く。
その様子に、クリスは少し面食らったように瞬きを繰り返した。
『あ………』
何か言い掛けて、口をつぐむ。
『……あのさ』
もう一度言い直そうとしたその声は、激しい爆発音にかき消された。
「ナナギ!」
「無事か!?」
「シャオロン~ッ!」
「あ、いたね」
同時に、四つの叫び声も。
声に覚えのあるナナギはパアッと顔を輝かせると、暗くてどうせ見えないのに手を大きく振った。
「無事だよー!ここにいるー!」
『お仲間さんか?』
「うんっ」
満面の笑みを浮かべて答えるナナギに、クリスはそうか、と小さく相槌を返す。
数秒もすると、次第に足音が近づいてきた。
「ナナギ!」
足音が止まると同時に、耳元で聞こえた声に、またナナギは顔を綻ばせる。
「クシナー!」
「なんだよ、ぴんぴんしてやんの」
「ちょっとチサヤ、それどういう意味よ!」
「そのままの意味」
しれっと言われて、ナナギは眉をひそめた。
懐かしい黄金の髪も、一瞬にして憎らしく思える。
「またそんなこと言う!」
「言われるほうが悪ぃんだよ」
「んな訳ないでしょー!」
お決まりの口論を始めた二人を余所に、隣でも感動の再会が果たされていた。
「シャオロン、シャオロン! 大丈夫!?」
大声で名を呼ぶ主に、シャオロンの瞼がぴくりと動いた。
「ん……。リィーリア…様…?」
微かに漏れた声に、リィーリアの瞳が潤む。
「シャオロン! 気付いて? 体は痛くなくって? あぁ、一体何が起きてたのかしら? 説明なさい」
「リィーリア、一個ずつ聞いたほうがいいよ」
一気に質問を並べ立てるリィーリアの肩を、レイが苦笑しながら叩いた。
「大丈夫です、答えられますから」
その光景をぼんやり眺めながら、シャオロンがいつもの無表情で言う。
「リィーリア様。気付きました。体は痛くはありません。少し怠いですけど。何があったのかは、後でゆっくり説明するので、少し待って下さいね。それと、涙が落ちてますよ」
「…泣いてなどいなくってよ!」
ぐしゃぐしゃの泣き顔でそんなことを言われても、説得力がまるで感じられない。
そんなリィーリアを眺めながら、シャオロンは何を思ったのか微笑を浮かべた。
「そうですね。それは、汁なんでしたっけ。得体の知れない」
「そ、そそそそうよ! 何かいけないかしら!?」
半ば癇癪を起こしながら、リィーリアは浮かんだ涙をこすった。
「馬鹿チビライオン!」
「黙れノーコン人参頭!」
「こら、チサヤもナナギもやめろ!」
ぎゃあぎゃあと傍で聞こえてきたわめき声に、レイは曖昧な笑みを浮かべる。
「クシナは大変そうだねー……」
「あー、ナナギ。良かったらチサヤと喧嘩する前に、状況説明をしてもらいたいんだが」
がしがしと頭を掻きながら、クシナがため息混じりにそう呟く。
すると、その言葉に我に返ったのか、ナナギはもう一度チサヤを睨むとにこやかに笑った。
「うん。分かった~。あのね、すごいんだよ! 見て見て! 扇の精霊がね…」
所在なさげにたたずむクリスを指さし、ナナギは嬉しそうに顔を綻ばせる。
そんなナナギに、メンバーは不思議顔だ。
『ばーか。見えるわけないだろ』
「え? そうなの?」
『当たり前だろ。まぁ、お前の能力が上がれば話は別だがな』
「それって難しい?」
『さあな。人それぞれじゃねえのか? ジジイは最初っから出来てたし』
遠い目をするクリスが見ているのは、目の前にいるナナギではなく、きっと過去なのだろう。
それが何となく悔しくて、ナナギはむぅ、と眉をひそめた。
「なら、あたしもやってみるから教えてよ」
「お、おいナナギ。誰と話してるんだよ?」
おそるおそる、という感じにクシナがナナギを覗き込んだ。
それを無視して、ナナギはクリスに詰め寄る。
『あー、分かった分かった。教えてやるから、好きにしな』
お手上げポーズのクリスはナナギから一方下がって、ため息をついた。
『簡単だよ。……やり方はな。オレの媒体に魔力を注ぎ込むんだ』
「媒体?」
『今は頭のリボンだよ』
とんとん、とクリスは頭上の派手なリボンを指す。
『注ぎ方は、自分で掴みな。教えてもらうような、あまちゃんには出来っこないから』
その言い方に、むかっときた。
ナナギは挑戦的に片眉を上げるクリスを睨むように見ると、顎を上げた。
「見てなさい。見事にやってのけるから」
言いながら、リボンをむんずと掴む。
クリスが顔をしかめたのは、無視の方向で。
「魔力を注げばいいのよね。よーし…」
きつく目を瞑り、空いた手で握りこぶしを作る。
魔力魔力魔力魔力魔力…。
脳内でその二文字を思い描き、ナナギはイメージを膨らませた。
「いっけぇ~っ!」
お久しぶりです。
椎名です。
予告どおり、帰って来れました~。
良かったです。
ルラに勝ったので(?)セルフィオネ編終わり!
と言いたい所なのですが、もう何話か続いちゃったりします。
クリス君とメンバーの顔合わせですっ。
別にどきどきの展開とかはありませんが、ほのぼのと進められたらいいな~、なんて思ってます。
では。
また明日。
瑞夏