ご主人様に負けないように
『………』
「ごめんってばー」
『………』
「だってそんな格好してるんだもん」
がくがくとクリスの肩を揺さぶりながら、ナナギは言い訳を口にする。
先ほどの女発言に、クリスは分かりやすく不機嫌だ。
『この服は、オレの趣味じゃない!』
「なら脱げばいいのに…」
『それが出来たら、とっくに脱いでる!』
「あわわ。そんな叫ばないでよ。頭痛い」
脳内に直接響いてくる声に、慣れはしたものの大きい声を出されると頭痛がする。
「誰が着せたのよ、それ」
ナナギの問いに、クリスが一瞬黙り込んだ。
不自然な沈黙に、ナナギは首をかしげる。
『……前の、扇の持ち主のジジイだよ!』
「前の持ち主?」
『そうだよ。ったく、あいつ野郎じゃ和めないとか勝手言いやがって…』
忌々しく吐き捨てるが、表情は不思議と穏やかだ。
「仲良かったんだね」
昔を思い出し、それを愛でるような顔付きに、思わずナナギは溢す。
『はっ。まさか。こき使われてただけだ』
肩を竦めるクリスの頬に、ナナギは手を伸ばし触れた。
びくっ、と仰け反りかけたクリスを見て、笑う。
「あたしも、前のご主人さんに負けないように、頑張らなきゃ」
目を細めて微笑むナナギを、クリスは眩しそうに見て、それからそっぽを向いた。
『ま、せいぜい頑張んな』
長い髪の間から覗く小さな耳が、ほんのり赤かったのは秘密だ。
そんなほのぼのした空気をぶち壊したのは、この部屋の持ち主だった。
「そろそろ、終わったかなぁ?」
艶のある声で、幼稚な口調を使う少女の再登場に、ナナギは眉をひそめた。
「……来た」
『何がだ?』
「ボス、だよー…」
ボス?
とおうむ返しにクリスが呟いた瞬間、ボスことルラは現れた。
光を反射し輝く銀髪に、エメラルドの瞳。
リィーリアとはまた別に、完璧なプロポーションを持つ彼女は、涼しげな笑みを浮かべている。
「ルラ、女の肉は好きじゃないんだけどねー」
この際我慢、と可愛らしく小首を傾げたルラに、クリスが訝しげな視線を送った。
『なんだ、この女』
「シャオロンを元に戻しなさいよー!」
「へっ? え、ええっ!? なんで生きてるの?」
ナナギの言葉に、ルラは猫目を見開き声を上げた。
『生きてちゃ悪いのか』
「うそ、嘘っ! まさか、あいつら全部倒したの?」
クリスの声は聞こえないのか、ルラは続ける。
『無視しやがった…』
憮然とした表情でクリスは言い、ルラを睨んだ。
「ていうか、ルラと戦うのかな…」
『ふん。こんな馬鹿女敵じゃないね』
「そういう問題じゃないのよー。あたし戦うの嫌いなんだってば…」
「あんた、誰と話してるのよ!?」
ひっ、と顔をしかめながらルラは金切り声を上げる。
それを見て、ナナギは何か思いついたのか、ヒロインらしからぬ笑みを浮かべた。
黒いです。
未だかつてない黒オーラがナナギを取り巻いています。
「あら、見えてないの?」
「な、何がよ!?」
「わたくしの傍にはね…」
「い、いっやああぁぁぁあぁ!!!」
何だかリィーリアが乗り移ったようなナナギの口調に、ルラはすっかり騙されたのか、顔を強ばらせると耳の痛くなる絶叫を響かせた。
「…ふふ。怖かったら、シャオロンを戻して、それから町から出てお行きなさい」
「は、はいぃぃっ」
あっさり落ちました。
土下座をし出しそうな勢いでルラは腰を抜かすと、ぼろぼろと涙を落とした。
「ひっく、っく」
嗚咽をあげながら、ルラはシャオロンに近づくと額に触れた。
シュウ…と音がして、煙が小さく上った。
「こっ、これでっ、もう大丈夫っひくっ」
「あ、ありがとう…」
涙でぐちゃぐちゃなルラに、さすがに罪悪感を感じたのか、ナナギは視線を逸らしながら曖昧に礼を言った。
「うええぇぇん!」
それを聞くや否や、ルラは銀髪を振り乱し、ぱ、と消えてしまった。
『本当に、あいつボスなのか…?』
後に残ったのは、クリスの疑問だけだった。
こんにちは。
椎名です。
突然ですが、ここでちょっと重大発表です。
えっと、私事情によって明日から四日間ほど更新をお休みさせてもらいます。
もし、読んでくださってる方がいたら、本当にすみません。
一月五日に、次話を投稿しますので、その際にはまたぜひ読んでください。
では。
瑞夏