玻璃は水晶、水晶はクリスタル
「これ、どうやって使うのかな?」
首を捻ってナナギは悩む。
七色に光り輝く玻璃の扇は、見てる分には申し分なく美しさを発揮していた。
しかし、戦うとなるとその使用方法は謎に包まれている。
「こう?」
半信半疑に、ブンッと扇いでみる。
「………いやー」
気休め程度に、ささやかに風が吹いた。
お世辞にも、これで魔物が吹っ飛ぶとは思えない。
「もしかして、こう?」
今度はバサリと振ってみた。
「………うーん」
いや、これはないわ。
とナナギは肩を竦める。
「……シャオロン~! これどうやって使うのか教えてよ~っ!」
無茶な話だ。
気を失ったままのシャオロンの肩を掴み、ナナギは懇願する。
眉を下げた情けない表情に、先ほどの自信に満ち溢れたナナギの姿は見られない。
いつものヘタレ全開ナナギに逆戻りだ。
「ねぇ、シャオロンってばーっ!」
もう一度ナナギがシャオロンを揺さ振った瞬間、大地が震えた。
さーっ、と全身から血の気が引いていった。
ナナギの顔色がみるみる青くなっていく。
「ちょっと待ってよー…」
敵さん、お出ましのようで。
「ていっ!」
そよそよ~。
「とうっ!」
そよそよそよ~。
「やあっ!」
そよそよそよそよ~。
「………何これー」
ぐだぐだ感溢れるナナギの攻撃に、魔物も戸惑ったように硬直している。
魔物が現れた瞬間、もしかして。
という一縷の望みをかけて扇を振るったナナギだったが、当然というか残念ながらというか、結果は変わらなかった。
爽やかな風が巻き起こり、場を和ませた。
しかし、魔物とていつまでも待ってくれるつもりはないらしい。
「ううっ」
半泣きになったナナギと仲間を交互に見たあと、頷き合った。
「な、何目と目で通じ合ってんのよぉ~っ」
ナナギの声を合図に、躍り上がった。
手には色とりどりの鎌や斧。
おまけにごつくて不気味な形相をしている。
そして、魔物達の表情に色濃く浮き上がったものは…。
殺意。
「ひいいぃぃいっ!」
…死ぬ。
死ぬ。
死ぬぅっ!
本格的に絶命を覚悟し、ナナギがきつく瞳を閉じたその時だった。
ピカリと、まばゆいばかりの閃光が辺りを包んだ。
「へ……?」
『もう、見てらんね! あんた、どうしてそんなに無知なんだ!』
その声は、耳というより頭に直接響いてくる。
「え。だ、誰…」
『今度の主人どんな方かと思えば、物知らずな小娘だし』
ぱ、と目を開けたナナギの視界に入ったのは…。
「………」
年は…十を越すか越さないかだろうか。
まだその顔つきには幼さが色濃く残っている。
深紅と黒を基調とした、やたらとフリルの多い服。
頭には、これまたど派手なリボンがついている。
足元まである長い髪は、何色ともつかない、不思議な色合いで、華奢な身体を取り纏っている。
大きな吊り目がちの瞳は真珠を思わせ、小さな唇は摘みたての林檎さながらに赤く、瑞々しい。
肌は透き通るように白く、滑らかだ。
腕を組んだ仁王立ちも、何故か可憐に見えてしまうのは、美少女故の特権なのだろうか。
「ゴスロリ美少女…っ」
『誰がゴスロリだっ! ………オレは神聖なる玻璃の扇の精霊だぞ?』
感嘆の声を上げたナナギに、ゴスロリ美少女はすかさず突っ込んだ。
美少女に対しての否定が見られないところを見ると、自分の容姿は理解しているらしい。
『全く、本当に…』
「そ、そんなことよりクリス!」
『は? クリス?』
ナナギの言葉に、ゴスロリ美少女は器用に片眉だけ上げた。
「あぁ。気に入らなかった?」
『気に入るも何も、どういうことだ?』
「クリスはあの扇の精なんでしょ?玻璃は水晶、水晶はクリスタル。だから縮めてクリス!」
自信満々にそう笑ったナナギに、ゴスロリ美少女はぽりぽりと白い額を掻いた。
『ん…まぁ、悪くはないか……』
心なしか頬が赤い。
名前を付けてもらえて、まんざらでもないらしい。
「えへへ。でしょー?」
『そーだな…って、違う! こんな世間話してる場合じゃない!』
へらりと笑んだナナギに、ゴスロリ美少女ことクリスも、つられて顔を緩めるがはっと我に返った。
「クリス、ノリツッコミも出来るんだ」
『まぁな。って、だから呑気に話してる場合じゃねえよ!』
ぎろりとクリスは目を細めて正面を睨む。
その双眸に映っているのは、動きを止めた…魔物。
『…そろそろ限界だな。おい、小娘。…やるぞ』
こんにちは。
椎名です。
また新キャラ登場です。
なんかもう、登場人物多すぎですね・・・。
でも、主要キャラはこの子でラストですから!
では。
瑞夏