不可解な現象
「ったりーなー」
「こら、チサヤ。しっかりしろ」
くわぁっと、大きく欠伸をしたチサヤを睨んで、クシナは言った。
まるで父子のようだ。
「だーってよ、レイと女はぐーすか寝てんのに、何で俺は情報収集…」
「お前が決めたんだろ。あと、女じゃなくてリィーリア。仲間なんだから、名前くらい覚えろ」
「俺はまだ仲間だなんて、認めてねぇ。うさんくせえんだよ」
忌々しげに吐き捨てるチサヤの目には、明らかな憎悪の色が現れている。
その瞳から視線を逸らす様にしてクシナは歩速を速めた。
「そーだな。お前、まだ引きずってんの…」
「うるせぇっ!!!」
「そうかっかするなよ。気にすることじゃ」
「だから、黙れっての!」
クシナの一言に、突然キレたチサヤは何故か真っ赤だ。
憤怒の形相で喚きだし、チサヤはずんずん進む。
「お、おい待てよ~。怒るなよー。…別に恋した女の子が実はオッサンだったとか」
「何か言ったか!?」
「いや、全く」
バリッ。
バリン。
「んー。魔物ねぇ~」
音を立てながら、激しく煎餅を咀嚼する女性が頭をボリボリと掻いた。
大雑把に、シニヨンに編み込まれた赤茶けた髪は、所々白髪が目立つ。
でっぷり…否ふくよかな彼女の名前はジュリエットというらしい。
名は体を表さない…。
「ふーぅむ」
首をかしげながら、ジュリエットは何もなかったはずの左手には、現在きっかりとクッキーが握られている。
「そのクッキーどっから出し…! もががっ」
不可解な現象に叫びかけたチサヤの口を、クシナが慌てて塞いだ。
何するんだと睨みを効かせるチサヤに、クシナは首を振る。
「ああ、そうそう! 最近越してきた女の子が、ちょっと噂になってるねぇ」
「女の子…ですか?」
二人のやり取りも、全く気にせずジュリエットはのんびりと言った。
「うん。銀髪の可愛らしい娘でねぇ」
「その子が何か?」
「んんん、よく分かんないんだけどね。ほとんど喋ろうとしないし、何か変わってるんだよねー」
ふーっ、とジュリエットは息をついてお茶を啜る。
「真夜中にね、その子に似た影が墓場でうろうろしてるんだ。それに、あの子が来てから、町の人が何人も行方不明になってるんだよ…」
ジュリエットの声がだんだん小さくなっていく。
「も、もしかして旦那さんも…?」
「いや。あたいは生涯独身派だよ」
即答だった。
「独身派って、出来ねぇだけじゃ…もががっ」
「それで、その女の子はどこに?」
「ああ…」
ジュリエットの答えが返ってくると同時に、二人は駆け出していた。
メリークリスマス!(まだイブですけど)
椎名です。
クリスマスだけど、本編は全くクリスマス仕様ではありません・・・。
だって、無理なんだもん!
では。
瑞夏