まともな町
「着~いた~!」
にゅーっと、変な声を出しながらナナギは大きく伸びをした。
茜色の髪が、ふわりと揺れてなびく。
「『セルフィオネにようこそおいでませ(笑)精一杯のおもてなしをしないこともないこともないです(笑)よい旅を(笑)』」
怪訝な顔つきで、クシナが道に立ててあった看板を読んだ。
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
沈黙が六人を包む。
「……なんだろうね、このどうしようもない不安感は…」
ぼそりとレイが呟いた。
「(笑)ってのが、余計に不安を煽るよな」
「果たして此処はまともな町なのでしょうか…」
「わたくし、頭痛がしてきたわ」
頭を押さえるリィーリア。その横で、ナナギが先ほどまでの爽快な気分は萎えてしまったのか、微妙な表情をしている。
「もー、とりあえず宿屋に行こうよ…疲れた」
「そう…だな」
「メシ食おうぜ、メシ」
「僕はもう寝たいな」
「私、道具を買い揃えたいのですが」
「…この町には、エステはあるかしら」
思い思いの言葉を口にしながら、六人は重い足で町に入った。
宿屋の大部屋を借りた六人は、ひとまず計画を立てるべく、卓を囲う様にして座っていた。
男女で部屋を分けなかったのは、とりあえずまだ金を手に入れる当てがないので、当分節約しようと決めたからだ。
リィーリアは、こんな狭い部屋に!
と文句を言い掛けたが、シャオロンの煩わしげな視線に、あっさりと口をつぐんだ。
この二人の上下関係は、イマイチ掴めない。
「じゃあ、これからどうするか話し合おう」
リーダーの威厳たっぷりに、クシナは卓を叩いた。
「しなきゃいけない事ってある?」
「情報収集だろ、装備も整えたいな。休養とるのも大事だし…」
「あーもうっ! めんどくせぇ! 何手かに分かれて役割分担しようぜ」
指折り数え始めたクシナを遮って、チサヤが声を上げた。
反論が出る前にチサヤは矢継ぎ早に続ける。
「俺とチサヤは情報収集。レイとそこの女は…」
そう言って、チサヤはちらりと二人を見た。
「ん……」
「すぴー、すぴー」
寝てる。
「レイとそこの女は休養とれ。っていうか、もうとってるが」
「あたしとシャオロンはー?」
挙手して首をかしげたナナギに、チサヤは視線を向けて少し考えこんだ。
「……ナナギとシャオロンは装備を整えてきな」
「私、もう装備は整えていますが?」
「あー、ならナナギの見立ててやってくれや。どうせ、こいつ何も分かってねぇから」
「し、失礼な!」
ナナギはチサヤの言い草に、眉を吊り上げた。
しかし、チサヤはどうでもよさそうに一瞥だけくれると
「本当のことだろ」
「う、ぐぐぐぐ…!」
悔しいが言い返せない。
確かに、ナナギが何も分からないのは真実だ。
一人で行ったところで、訳の分からないものを選ぶに違いない。
チサヤが言っているのは正論なのだ。
「分かったわよ! シャオロン、行こう?」
「はい、構いません」
全く表情を動かさず、シャオロンは控えめに頷いた。
「予算は、常識の範囲内ならいいからな」
クシナがどこから取り出したのか、電卓をぱちぱちと叩きながら言った。
「らじゃ」
「では、行きましょうか」
こんにちは~。
椎名です。
一応、前回の話で第一章完結のつもりです。
今話からは、第二章~セルフィオネ編~となっておりまーす!
キーワードは『猫』でございます。
初めてたどり着いた町で、ナナギ達はどんなトラブルに巻き込まれていくのでしょうか・・・?
では。
瑞夏