道中会話
「リィーリアさんって魔物なんですよね?」
つつつ、と擦り寄りながらナナギはリィーリアを覗き込んだ。
目標の町は近く、道もなだらかなので六人は思い思いの相手と道中会話を楽しんでいた。
「ええ。一応ね」
口を窄める様にして笑むリィーリアは、正直言ってかなり美しい。
女としてのプライドを、軽くなくしながら、ナナギはリィーリアをじっと見つめた。
妖艶な美女。
まさにそんな言葉がぴったりだ。
ずがーん、と落ち込んだナナギのためか、自分のためか、シャオロンはふいに呟いた。
「リィーリア様は、三百歳超えてますよ。婆さんですよ」
「ちょっ、シャオロン!? 何言って…」
「あ、すみません。つい口が滑りました」
全くの棒読みで謝るシャオロンに、リィーリアは眉を吊り上げる。
「全く! わたくしは魔物なんだから、人間でいえばまだぴちぴちなのよ」
「若いんですか?」
「若いのよ!」
「…ナナギさんと同じくらい?」
「もちあたぼーよ!」
その言葉が古い。
だが、シャオロンはリィーリアの答えを聞くと、満足そうに笑んだ。
その笑顔は、漆黒の夜に浮かぶ細い三日月のように、神秘的で蠱惑的だ。
「そうですか。なら、ナナギさんもため口で構いませんよね?」
「へ?」
「同い年なら、敬語はおかしくないですか?」
「え、ええ……」
何かおかしいと感じながらも、世にも珍しいシャオロンの笑顔につられてリィーリアは曖昧に頷く。
美しさは人を操る。
そんな言葉がぴったりだ。
「だそうです。ナナギさん、リィーリア様に敬語など使わなくても良いですからね」
「え?」
急に話を振られたナナギは間抜けな声を出して、首をかしげた。
横にいたチサヤが、肩をすくめた。
「…策士」
「チサヤもあれくらい頭を使えたら、いいんだがな」
「クシナ!」
ぼそりと呟いたクシナをぎろりと睨んで、チサヤは鼻を鳴らす。
「なら、シャオロンもあたし達に敬語なんか使わなくていいよー」
「これは癖みたいなものですから…」
ナナギの提案に、一瞬表情を曇らせるように俯いてから、シャオロンはまた微笑んだ。
三日月ではない、今にも崩れそうに儚げなその笑顔に、何故だかナナギは胸が痛くなる。
「だから気にしないでください」
ナナギの表情を読んだのか、シャオロンは素っ気なく付け加えてからそっぽを向いた。
無表情の仮面の下にある感情は、たまに顔を出しては心を映す。
弱い心を見せると、人は同情の瞳を向ける。
それが堪らなく嫌で。
仮面を被った。
「そっか。ならいいけど、せめて名前は呼び捨ててね。さん付けなんて、よそよそしすぎるもん!」
にっこりと、ナナギは言った。
純粋な、自分には持ち得ない笑顔にシャオロンは微かに動揺して。
微かに顔を赤くした。
「はい、分かりました」
町は、もうすぐ。