これこそ絶体絶命
「で、でかいな…」
「…そうだね」
いざ傍に来てみると、それは予想以上に巨大だった。
しかし、その代わりなのかどうにも動きは鈍そうだ。
現に、真下に走ってきた二人の姿を捕らえることもままならないようで、ボスはただ彼らをじーっと見つめている。
威圧感はあるのだが、さすがに視線で人は殺せない。
少しびくりとしながらも、クシナは大剣を振り上げた。
「でっりゃああぁ!」
掛け声と共に、風を切る音がブォンとする。
それに合わせて、レイが目を閉じ呪文を呟き始めた。
どうやら狙いは足のようだ。
バランスを崩す作戦なのだろう。
ガッキーン。
痛そうな鈍い音がした。
だが…。
「え?」
「あれ?」
ボス、びくともせず。
太い足をじろりと睨むと、首をかしげてぽりぽりと掻いた。
痛くはないが、痒くはあるらしい。
しかし、ダメージが限りなく0に近いことに変わりはない。
しかも、先ほどの攻撃は一撃で仕留めるつもりでやったのだ。
クシナの剣技とレイの魔法を組み合わせた、即席の割りには一応今の実力をフルに出した攻撃だった。
つまり、この攻撃でどうしようもないということは。
「む、無理だ…」
クシナが脂汗を流して呟く。
こくりと、レイが同意する。
その時、ボスが腕を振り上げた。
「え!? ちょっと待て! 攻撃してくるのか!」
「み、みたいだね。早く逃げ……」
られなかった。
今の攻撃(全くダメージなしだが)に怒ったらしく、ボスが動きだした。
動きはのろいものの体が大きいから、すぐに捕まってしまいそうだ。
まさに、これこそ絶体絶命。
さー、と二人の血の気が引いた。
ボスが牙を剥く。
二人は、足が竦んで動けない。
なんだかんだで、魔物を見るのは初めてな上に、正直言って実戦も初めてなのだ。
おまけにまだ年も若い。
巨大なボスに狙われて、機敏に反応出来るわけはない。
勿論、そんな状態を察してくれるはずもない。
ボスはにたりと笑い、右手の斧を力一杯振り落とし………。
「うがあああああっ」
倒れた。
きょとんとする二人の目の前で、ボスは力なく地面に伏していく。
その顔に生気は宿っていない。
ばたり、とボスは倒れて数秒もすると、ふしゅうーっと気化していった。
跡形もなく。
後ろの方から
「ほら、言ったとおりでしょっ?」
「まじかよー!」
そんな感じの声が聞こえてきた。
緊張感も何もないようなその会話に、気が抜けてくる。
へたりと、レイが座り込み、クシナが剣に寄り掛かった。
「なぁーんだよ、もう」
「腰、抜けた…」
どうにか、危機脱出の様で。
「ね、ねぇ。あれヤバいんじゃないの?」
「ん…そうだな」
遠くの方で、剣を振るい魔法を使うクシナとレイが見える。
しかし、様子がおかしい。
一回攻撃した後、二人の動きが止まり、代わりにボスが手を挙げた。
右手には、斧が握られているのだ。
あの腕力なら掠めただけでもただでは済まないだろう。
しかも、二人に逃げる様子はない。
「大変だよっ! チサヤ! どうにかしなきゃ」
慌ててナナギはがくがくとチサヤの肩を揺り動かす。
「分かってら、そんなこと。でもどうすればいいんだよ、あいつの剣で駄目なのに、銃位でどうにかなるかよ…」
がくがくと上下に揺られながら、チサヤは悔しそうに言う。
「やってみなきゃ、分かんないでしょ?」
「そんなの分かってんだよ! でも、どこ狙えって言う……」
「眉間!!!」
「またかよ」
「お願い、信じて!」
げんなりとするチサヤだが、半泣きで懇願するナナギに、諦めたように銃を構えた。
「撃つからな」
その言葉に、ナナギは涙ながらも、少し嬉しそうに笑う。
「うん。外さないでね」
「はっ、俺様を誰だと思ってんだか」
出会ってまだ一日なのに、誰だもないだろ。
なんて捻くれた事を考えたわけでもなく、ナナギはもう一度ボスの眉間を見つめた。
確かに、金色の球が輝いている。
大丈夫。
大丈夫。
心のなかでそう繰り返し、ナナギは祈るように手を組んだ。
ボスの手が振り下ろされると同時に、チサヤは引き金を引いた。
ズギュンッ。
小さな弾丸は、ぶれることなく真っ直ぐと進み、見事眉間のど真ん中を射ぬく。
瞬間、ボスが揺れる。
ナナギが目を開いたときには、もうボスは地に伏しゆっくりと消えていっていた。
「ほら、言ったとおりでしょっ?」
「まじかよー!」
二人がそんな和やかな会話を交わしだすと同時に、辺りを一瞬闇が覆った。
こんにちは。
椎名です。
今回は対ボス戦です。
お分かりのように、ナナギは少し変わった子のようです。
次話は、ついに(?)ナナギと魔界のあの人たちが対面しまーす。
では。
瑞夏