では、勇者を募りましょうか
『厳正なる審査の結果。アヴェロン国主催勇者選抜による我が国の勇者は………ナナギ・グローラ様です!』
わあっ。
この日一番の歓声が、広い会場を包み込んだ。
そもそも。
事の発端は、あの主要国首脳会談だったのだ。
「最近、国と国を繋ぐ道に、魔物が出るそうです」
静まり返った会議堂に、その若き国王の声はよく響いた。
「それは、うちでも問題になっていますな」
最年長の国王が、低いバリトンの声で続ける。
白髪混じりというよりも、黒髪混じりといった方が正しいような頭をしている。
しかし、その顔と立ち振る舞いには、古株らしい威厳と慈愛に満たされ、見るものに敬愛の意を示させるほどだった。
「ほぅ。確かにそれは由々しき事態でありますの。では、解決案を話し合うとしましょうか」
小太りの、人のよさそうな国王も言う。
ちなみに、虫も殺せないような顔つきをしているくせに、趣味は戦争だったりする。
そんな国王の言葉に、会議堂が静まり返った。
ろくでもないこと言い出すに違いない。
混沌とした思いが伝わったのだろうか、小太り国王は苦笑いすると、禿げあがった頭を掻いた。
「いやはや、何とも…」
「私は、やはり大本を倒してしまうのが良策だと思いますよ。無駄な殺生は、後味も悪いですし」
ハナからそう話を持っていくつもりだったのか、若王は淀むことなく言ってのけた。
それと同時に、ざわめきが広がる。
数秒の後、控えめに細い手が挙がった。
「しかし、誰を向かわせるのです? 兵士達で、魔物の親玉があっさり倒されてくれるとは、にわかには信じがたいのですが…」
この場にはいささか不釣り合いな、若い女声だった。
マルク国は先代の王の跡を継ぐものがおらず、未亡人となった女王が引き継いだのだ。
ちなみに、彼女の名はエリザベータ。
豪奢な名前に、劣ることなく女性的に美しい人だ。
谷間の深い胸を張りながら、エリザベータは宣言してみせる。
「残念ながら、わたくしの国には、魔物の親玉を倒せるような屈強な兵士はいません!」
…少し天然のようだ。
またもざわめきが広がり、その後にまた手が挙がった。
「では、勇者を募りましょうか」
老若男女、職業、生い立ち、性格、外見一切問わず。やる気と勇気さえあれば大歓迎。
それは、全世界の人間という人間に配られたものだった。
各国ごとに一名。
勇者を選び、全世界の魔物を退治させるという計画らしい。
ちなみに、出場しただけで参加賞として、賞金が渡される。
ということで、かなりの参加者が集まっていた。
ナナギ・グローラ。
小柄で華奢な身体に、沈みゆく夕陽を切り取ったような深い茜の薄くウェーブのかかった髪をツインテールに縛っている。
お世辞にも、屈強な肉体も鋼の精神も備えているとは思えない。
ちまたで流行している、生花の花びらを縫い付けたレースを、裾にあしらったふわりとしたシフォンのワンピースを身に纏い、周りの熱気に怯えたように、小さな身体を殊更縮こまらせている。
「なんであたしが書類審査に受かったのか、ナゾだよな~…ナゾ……っ!?」
独り言を言っている最中に、誰かの野性的な咆哮が轟いた事に驚き、ナナギは顔を青白くした。
二次選考は、知能テストだった。
八割方勘で書いたと言うのに、何故か通ってしまった。
三次選考は体力テスト。
どこからか飛んでくる槍やら何やらの、危険物から身を守るという内容だったのだが、持ち前のヘタレ精神が功を制したのか、合格してしまった。
そして、今に至る。
これが最終選考。
アピールテストというもので、つい先刻前に全員の選考が終わったという。
「ま。選ばれるわけはないしなー。あの受け答えじゃ、耳の端にも引っ掛かるわけもないし…」
何を聞かれても、頭に入らず何を答えたかも覚えていない。
まさしく、どうにもならない。
遠くから、アナウンスの声が聞こえてくる。
ナナギはぼんやりとその響きを聞きながら、腕に掛けた金の細いブレスレットをいじりながら、ため息をついた。
「大体姉ちゃんがいけないんだよー。お小遣いピンチだからって、あたしを参加賞金目当てで、選考に応募するなんて」
そう、ぶつぶつと愚痴を溢すナナギの耳にねじり込まれた内容は
『厳正なる審査の結果。アヴェロン国主催勇者選抜による我が国の勇者は………ナナギ・グローラ様です!』
お久しぶりです。
椎名です。
今回はファンタジーに挑戦です!
とりあえず、十話ほど書き溜めているので、それが無くなるまでは二日に一話位のペースで更新します。
無くなったら、またいつものごとくのんびりペースで更新します!
勇者もの!
一回書いてみたかったんです!
戦闘シーンを書くのは苦手なんですけど、どうにか頑張りますんで、応援よろしくお願いします!
それでは!
瑞夏