サンタパニック
『サンタパニック』
クリスマスの日。サンタクロースの家ではプレゼント配りの準備の為に大忙しだった。右を向いてもプレゼントの山、左を向いてもプレゼントの山。どこを向いてもプレゼントだらけ。
白い髭に赤い服に帽子を被ったサンタクロースがトナカイの名前を呼ぶ。
「ダッシャー、ダンサー、プランサー、ビクセン、コメット、キューピット、ブリッツェン。全員、手綱は繋いだかい?」
「はい。繋ぎました」
サンタクロースは袋一杯にプレゼントを詰め込み、トナカイに鞭を打つ。
空を駆けるそり。地上には家々の光。空には星の光。似て非なる物がどちらにも輝いていた。
煙突のある家にそりを着ける。袋を担ぎ煙突に向かうサンタクロース。民家は寝静まっていた。
「よいしょ。」
と煙突の中に片足を入れて…。
「えっ?やばいっ!」
お腹の辺りになってそこから先が入らない。左右に体を揺する。でも、入らない。
「しまった!ケーキの食べすぎだ!」
子供達がサンタクロースのために用意したお菓子をこのサンタクロースは律儀に一つ一つ食べていたのだ。その為、ウエスト周りが111㎝になってしまった。袋も煙突の入り口で詰まっている。
」「おーい。トナカイ達、助けてくれっ!」
トナカイ八頭は二足歩行で立ち上がり、手綱を外す。煙突の周りに集まり、中を覗き込む一頭のトナカイが言う。
「取り合えず、手を引っ張ってみよう」
ぐっとサンタクロースの手を掴み、上に力を籠める。
「ぐうぅ」
「痛い、痛い!」
と叫ぶサンタクロース。
「綱で引き上げよう」
サンタクロースの手に綱を巻き付けて引っ張る。が、びくともしない。八頭全員、首を縦に振る。
「仕方がない。蹴ろう」
八頭は屋根を蹴り、飛び上がる。
「エイヤ!」
という掛け声とともに、煙突に向かってトナカイキックを決める。すると、ズゴッと物凄い音がしてサンタクロースが煙突の中を通っていく。
屋根の上ではトナカイ達がふぅっと息をついていた。サンタクロースは煙突を抜けて、暖炉に落ちた。そこには火が炊かれていて、民家は眠る前の一時を過ごしていた。そこに突然、髭面のおじいさんが煙突から現れたのだ。
皆、驚いて当然だ。キャロリンは不審者の姿を見て。
「あっ。サンタクロースだ」
と指さした。サンタクロースときたら、お尻に火がつき。
「あちちっ」
と家中を走り回る。そして、サンタクロースの袋が火の消えた暖炉にボンッと落ちてきた。
「お水よ。お水を頂戴」
メラメラ燃えるお尻の火。キャロリンの両親が桶に入った水を持ってきた。そして、サンタクロースに向けてかける。じゅぅと火が消えて、サンタクロースは尻もちをつく。キャロリンはコップに一杯の水を入れて、サンタクロースに渡す。
「ありがとう。キャロリン」
サンタクロースは豊かな顎鬚を水につけて飲み干す。
「ふう」
と息をつくサンタクロース。お尻は焦げ付き、火傷している。サンタクロースは暖炉の袋から塗り薬を取り出して、お尻に塗る。すると、火傷が治る。続いて、ズボンを取り出して履き替える。身なりを整えてからキャロリン一家を振り返る。
「静かな夜を乱して申し訳ない。私はサンタクロース」
「本物?」
サンタクロースはニコッと笑う。
「勿論だ。キャロリン」
「どうして、私の名前を知っているの?」
「良い子の事は神様から教えてもらうんだ。さぁ、キャロリン、プレゼントは何がいい?」
キャロリンはうーんと悩みながら、家族を見つめる。
「決めた。家族の健康が欲しいわ」
サンタクロースア満足げに頷き、白い袋から光る玉を取り出す。それにふぅと息を吹きかけると光が蝶のように飛び交う。
「わぁ。綺麗!」
見とれるキャロリン。
「これは神様の光だ。この一家には健康が与えられる」
キャロリンは嬉しそうに家中を飛び交う光に手を伸ばす。すると、光はキスでもするようにキャロリンの指先に触れる。
「綺麗ね」
サンタクロースはキャロリンの無邪気な姿を見つめて微笑む。腰を上げて袋を担ぐ。
「さて。お暇するかね」
キャロリンは頬を膨らませる。
「えーっ。もう行っちゃうの?ケーキとクッキーを用意してるのに。食べていって、サンタのおじいちゃん」
サンタクロースは腹をポンと一回殴る。たるんと波打つ。
「いやぁ。これ以上、太るわけにはいかないから、すまないね。それと、もう夜も遅い。
おやすみ、キャロリン」
光が家を囲む。すると、突然の眠気に襲われる。そのまま、眠ってしまう。
サンタクロースは家を出てトナカイ達を呼ぶ。袋を積むと走り出してしまった。
「待て。待ってくれ!私がまだ、乗っていないっ!」
最後までサンタクロースはパニックな一日だった。