平凡…なはずだった
朝のアラーム音が鳴り、莉音は目が覚めた。
「ふあぁ…眠…」
まだ完全に開かない目を動かしつつ、時計を見ると7時55分。
「うわぁぁぁ!!!!!」
ベッドから転げ落ちるように離れ、大急ぎで制服を着替える。ドタドタと騒がしい朝。これが、超平凡女子中学生、久世莉音の日常である。
「姉ちゃん、まーたやってるよ」
そう言いながら靴を履いている、莉音の弟、一樹は自身の姉を遠目に見つつ「置いていくぞー!」と玄関のドアを開ける。それでも待ってくれてるのが毎日という優しい弟である。
「莉音!早くしないと置いていかれるわよ!」
メイク中の母にも追い立てられ、莉音は朝ごはんも食べずに家を出た。
「はーあ、まじで5分待ってもこなかったら置いていこうかと思った」
「ははは…怒り顔で言われると冗談に聞こえない」
一樹はそんな莉音の声を無視し、腕時計を確認する。
「後3分でチャイムなる!走るぞ!」
言うが早いが、一樹は即刻走り出した。
「のぉぉぉぉ!!!!置いていくなぁぁぁ!!!!!」
莉音は猛スピードで走る一樹を追いかけたが、追い付きそうもない。
「はぁ…はぁ…」
苦しくなってつい、立ち止まってしまった。
立ち止まった場所が、良くなかった。
莉音の目の前には、迫りくる自動車があった。咄嗟のことで、莉音は動けなくなってしまった。
「は?お前…」
一樹の声が聞こえ、背中を突き飛ばされる。が、そのせいで二人一緒に車にはね飛ばされた。…はずだった。
そこに、二人の姿はなかった。二人は、突如この国から、いや、この世界から消えてしまったのである。