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汽車から降りてしばらく歩くと、そこには見たこともない光景があった。
数えきれないほどの人達、首を真上にしないと天井が見えないほど高い塔…これがビルか………!
「すっっげええぇぇ…」
そんな稚拙な感想しか出ないほど、俺はこの場所に圧倒されていた。
「それじゃあ剛君?ちょっと切符買ってくるからちょっと待っててね?いい!!知らない人にはついて行かない、ここから動かない!」
「分かったよ綾姉、それで切符って何?」
「うーん……やっぱり一緒に行こうか、心配だし」
そう言うと綾姉は俺の手を引いていく、そんなに心配せんでもどこにも行かないってのに……心配性だなぁ。
電車で移動している最中に、これからの生活についても説明してくれた。
これから住む場所はマンションという集合住宅らしい、そこで俺は一人暮らしをする、まぁ一人暮らしと言っても隣には綾姉もいるし、俺の護衛?みたいな人も隣に住むという話だ」
最初は護衛ってなんだ?とも思ったが、教科書の内容から読み取るに、多分男が襲われないようにするための処置であると踏んだ、その事を綾姉に言うと『正解!』と褒められた…やったぜ。
「だけど綾姉?俺に護衛なんて必要無いぜ?なんだって俺は強いからな!」
自慢じゃないが俺は村に来る獣達をよく追い払っていた、流石にあの獣達より危険って事はないだろう
「うーん…実は私も大丈夫なんじゃないかなって思っているけど万が一って可能性を考えるとね…後剛君?性欲に飢えた女子達は本当に危険だから気をつけてね……」
「お、おう!」
うーん…それほど男は重要視されているという事か……まぁ、特に害は無さそうだし、なんならその護衛の人と友達になれるかもしれない……そう!友達!
俺は生きてて十五年間人間の友達が居なかった、村には金剛という犬の友達がいたが、人間の友達っていうのに実は憧れていたんだ。
楽しみが増えたと思い、少しウキウキする。
「あ、剛君?ここで降りるわよ」
「ほーい」
電車から降りる、汽車と違ってあんまり音が出ていなかったので、こっちの方が好みかもしれない……でも形は汽車の方が好きだからどっちもどっち、決める事は出来ない…いや、やっぱり汽車の方が良いな!黒いしカッコいい!。
マンションに行く途中も綾姉は色々説明してくれた、この時間を無駄にしない動き……俺も学ばないとな!
綾姉が言うにはこの都会の暮らしは時間配分が大事らしい、なんでも決められた時間に決められた事をするらしい…今までとは違う生活に慣れなければなるまい。
学校も今まで綾姉の暇な時にやってもらった片手間のようなものではなく、ガッツリ!およそ7〜8時間、それに部活?に入るともっと学校で生活するらしい、これがカルチャーショックか…。
「あ、剛君?あれが剛君がこれから通う学校だよ、防犯上電車を使いたくなかったから、学校とこれから暮らすお家は近いよ、徒歩10分くらい」
見えたのは俺の住んでいた村よりも広い建物だった…うおっ!なんだあれ?
見えたのは広場を走っている生徒の姿だ、当然かどうかは分からないがやはり男の姿は見えない。
ずっと見ていた俺の事を察してか、綾姉が色々教えてくれた。
「あれはね、さっき言った部活をしている生徒よ、そっか、あんまり部活について説明してなかったね…部活っていうのは違う学年の生徒との交流場所みたいなものね、上下関係を学ぶ場所とも言えるかも……でもそんな事を考えないでも、これ良いなぁ、とかやりたいなぁみたいな軽い気持ちで始める人もいるわね、大抵の人は、得意な事や、好きな物をしている人が多いいわよ」
ほへー……自分の好きなものか……そう言われると俺の好きなものはなんだろうと思う。
うーん……今まで農作業やら狩りやらが大変だったからな、自分の好きなものと言われても想像がつかない…まぁいいか、これから見つかるだろう。
そのまま部活動をながめていると、走っている生徒達が俺の事を凝視している事に気付いた…なんだなんだ?
「なぁ綾姉、なんであいつらあんなに俺の事を見てるんだ?流石に男が珍しいっていってもそんなに凝視するもんなの?」
「えっとそれはぁ……」
急に声がちっちゃくなる綾姉…そういえば電車の中でも俺の事をよく見てくる人は多かった……そういえば俺以外の男も見かけなかった……何かおかしいぞ…。
教科書には男が狩られまくって絶食系になったとは書いていたが、これがその影響か…こんなにも引きこもっているなんて…。
でもまぁ学校には行っているだろ、なんたって学びっていうのは面白いからな、ちょっと外が怖いっていっても護衛の人がいるらしいし。
「……まぁいいや!さっさとマンションに行こうぜ!俺実はちょっと楽しみなんだよなぁ」
「え!…ええ!!そうね!早く行きましょう」
俺以外の男ってものを見てみたかったがいないのなら仕方ない、学校に行く時への楽しみにしておこう。
綾姉は俺の手を引き駆け足で引っ張っていく、その時も後ろからの視線を感じだが、気にしないでおこう、どうせまた学校で会えるんだし。
後ろからの視線は俺が学校の死角に行くまでずっと…ずーっと続いた…やっぱりちょっと怖いなぁ。
そのあと、普通にマンションに着いた、先程見た学校に近くていい感じだ。
内装はシンプルで何もない、あまりに何も無さすぎて少し寂しいが、まぁこれから変わっていくだろう。
「ふぅ…やっと着いたね、ってもうこんな時間か…何処かに食べに行く?……いや、危ないから出前頼もっか」
「ご飯を食べに行く?………あぁ!!飲食店の事か!俺それは知ってるんだ!」
「おぉ!!偉いねぇ、でもどうして飲食店は知ってるの?教えた事無かったよね?」
「ふふん!ばあちゃんがこっそり教えてくれたんだ!都会にはご飯を食べに行く場所があるって!……思えばあれは都会に対して興味を持って欲しかったんだよな…まぁその時はばあちゃんの飯の方が美味いって言って話を切ったんだけど実はちょっと気になっていたんだよな……よし!行こうぜ!」
「え!行くの!?うーん…結構目立っちゃいそうだけど大丈夫?でもでも危ないし、あ!高級レストランだったら業界の男性も来るし安全かも……」
なんだかぶつぶつ言ってる……綾姉は迷いや葛藤があったりすると口に出るからな、考えている事がわかりやすい。
「高級レストラン?は分からないけど、とりあえずみんなが行ってそうな所に行きたいな、どんなもん食ってるか知りたい」
「うーん…剛君が行きたいって言うなら仕方ないか…でもでも危ないから護衛の人にも頼んで三人で行こっか、確かもう隣に住んでるらしいし、挨拶に行こ?」
ん?もう住んでいるのか……長い付き合いになると思うし、顔は早く知った方が良いよな。
綾姉に着いてき、隣の扉の前に立つ……手…手が震える?…この俺が緊張してるだと………!
思えば他人と挨拶なんて縁遠い生活をして来た…村にいる婆さん達はみんな家族みたいな感じだったし…落ち着け!俺!都会の人と話すのは初めてじゃないんだ!汽車にいたお姉さんと……あ、お姉さんしかいなかった…。
ゴクリと喉が鳴る…この緊張感…熊を追い払った時の感覚に似ている!!
意を決してドアを叩く、『剛君?そこにインターホンあるよ?』え?インターホン?このボタン?
ポチッと押す、するとピンポーンという音が鳴った…おぉ!これで中にいる人に知らせることができるのか…すごいなぁ。
『はーい』
こ…声が出てきた!するとトタトタと足音が聞こえてきた…お、落ち着け俺、こういう時は深呼吸だ……!
すぅー…はぁー…すぅーはあ『はーい、どうなされたん……って穂浪様!』だひゃあぁ!
突然ドアが開いてびっくりしてしまった…び、びびりじゃねーし………。
「ご到着なさっていたんですね…お迎えに向かえず申し訳ございません…」
目の前に出てきたのは俺が今まで見たことのなかった人だった。
眩しいほど輝く少し青みがかった銀髪…容姿は綾姉の様な大人な感じではなく、少し俺みたいな感じで何というか…美人には変わらないが若いって事が分かる。
って髪が銀色!なんで銀色なんだ?………あ、もしかして外国の人…?
「いえいえ、私達さっき着いたばかでご飯を食べようとしているところなの、剛君は貴女の名前を知らないし、自己紹介も兼ねて何処か外で食べに行かない?」
「それは……いえ、その為の私ですね!お任せください!絶対に守り抜いて見せます!」
俺が目の前の銀髪の人に圧倒されていると次々に話が進んでいく……これも時間を無駄にしない動きの一つ…迅速に動いて少しかっこいいぜ……!
「ふふっ剛君?良い人そうで良かったね、それに私から見ても可愛いし」
「可愛い?そうか…可愛いか」
可愛いなんて犬や猫にしか使わないからあんまり馴染みが無かったが、こんな人が俺の護衛をするのか…ちょ、ちょっと緊張するな……。
「それじゃあ行こっか剛君、あ、何が食べたい?何かリクエストがあったら言ってね」
「お、俺の食べた事がないものを食いたいな、外国の料理食べてみたい」
「それなら洋食屋が良いですかね?良い店を知っているのでご案内致します」
またもやドキッとしてしまう…いかんいかん!これじゃあ田舎もんって言われてしまう!
なんとか動揺を隠し、俺は二人の後をトコトコ着いていくのだった。
登場人物の軽いプロフィール
多々良 綾
身長160cm、流石に成長は止まってる
体重……は秘密♡
年齢はさんじゅ………やっぱり秘密で
胸はでかい!腰はちょっと細い、尻はまぁまぁ。
容姿は黒髪のショートヘアー、昔は長かったらしいが農作業の邪魔になるので切った。
村に来た当初はとてつもなく暗い性格だったが、斧剛や村の人と接するうちに明るい性格になった。
斧剛の幼馴染兼先生兼姉のような存在。