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ガタンゴトン、ガタンゴトン……なんだかんだと時間が過ぎていく。
最初の一時間くらいは割と楽しめていたが、やはりじっとするのは飽きる。
綾姉に話しかけようとしたら心労のせいかすぐ寝てしまった…割と急に予定が決まったからな、仕方あるまい。
俺と綾姉以外に乗客は無く、辺りがガラんと少し寂しい。だから俺と綾姉以外の人間、つまり運転手に話しかけようとする。
「あのー……ちょっと大丈夫っすか?」
「は!はい!?如何なさいましたか!?」
恐ろしく挙動不審な態度で返答を返してきた…ええぇ?…。
「あ、いや……暇なんで少し雑談でもしませんか?っと言いたかったんっすけど……やっぱり話しかけちゃ集中できませんよね?」
「いえいえ!!どんどん話しかけて下さい!えぇ!どんどん」
何やらちょっと変な人だが、悪い人ではないらしい。やはりあの教科書に書いていた女性像は間違っているのでは?
「いやぁ、俺田舎から引っ越していくんですけど…都会ってどんなもんか分からなくて……お姉さん、よかったら俺に都会を教えてくれない?そこの綾姉の説明だけじゃ分からなくて」
「えっと…都会?……あぁ!行き先の事ですか?今この汽車が目指している場所は神林町って場所で、そうですねぇ…人口で言えば大体二百万人程度住んでいますから、まぁ都会といえば都会ですね」
神林町……俺がこれから住む場所……ん?二百万人!!
「え!二百万人!!そんなに人間いたらぎゅうぎゅうで済まないんじゃないの?」
俺が住んでいた所は五十人にも満たない人数しかいないのに、あんなに土地を使っていたんだ…きっとこれから住む場所は狭いんだな!
俺が言っていた事がおかしいかどうかは分からないが、お姉さんがフフッと少し笑った。
「ぎゅうぎゅうって、んもうー!可愛い!!まだこんな絶滅危惧種みたいな男の人がいるなんて!……こほん、えっとね?多分君は分からないと思うけど、その神林町って場所はとっても広いの、君が住んでいた場所よりもずーっとね」
「ずーっと広いってどんくらい?十倍くらい?」
「んーー……君が住んでいた場所の広さを知らないからあんまり分からないけど…多分百倍くらいじゃないかな?」
百倍!!大き過ぎて想像できない。
「なぁなぁお姉さん、都会ってどんな所なんだ?俺の近くにいる人達はみんなあんまり住みたそうにはしてなかったからさ、いろんな人の話が聞きたいんだ」
そう聞くと、お姉さんはうーんと考える素振りをする。
「そうですね……確かに私達女性にとっては少し住みにくいかも知れませんが、君みたいな男性なら話は別です」
続けてお姉さんは言う。
「ありとあらゆる権利が保障され、ある程度の義務はありますが、それでも余りある自由を約束されますから、君にとって住みやすいと思いますよ」
んー……君にとって住みやすいか……だったらお姉さんはどうなんだ?
「私?私ですか!?えっとですね……住みやすいというか、生きていくだけなら誰だって生きていけます。ですが幸福かどうかは生活する環境によって変わっていきまね」
「幸福?生活する環境?」
「はい、今の時代、生の男の人と結婚やら性行為などが出来るのは希少ですからね、私達下級階級の市民は人工授精などで妊娠したりします、ですから欲求不満になったりと色々と大変なので、幸福になるというのは難しいのですよ」
「うーん…あんまり分かんない言葉が出てきてよく理解できなかったけど…やっぱり都会ってのはめんどくさいんだな」
「いえいえ、それは私達女だけの条件です、さっきも言った通り、君にとっては住みやすいと思いますよ」
今の話を聞くに、やはり教科書を見るだけでは見えない部分がある、そこに住んでる人の話を聞いたりするのは大事だと気付かされた。
お姉さんは、おそらく地図?を見ると、寂しげな表情をする。
「おっと、つい話し込んでしまいましたね…本当に!ほんっとーーに!!残念ですけどもうすぐ目的地に到着致しますので、お席にお着席下さい」
「あっと、最後に質問……お姉さんって今幸福?」
俺に色々と教えてくれた、言わば第二の先生とも言える人だ、何かお礼がしたい。
するとお姉さんは何故か満面の笑顔になり、応えてくれる。
「ええ、私は今人生で一番幸せだと確信してます」
「??なんでだ?さっきまで幸福になりにくいって言っていたのに…」
疑問を感じ、首を傾けてしまう。そうしたらまたお姉さんはニコッと笑い、言う。
「はい!だって君に会えましたから、それだけで生きてて良かったと思えます。君はとても純朴で優しくて…暖かい…完璧に推しになりました、あぁ…結婚してく………」
推し?
「おっと、これ以上はいけませんね、危うく結婚して下さいと言ってしまう所でした……」
「結婚?結婚ってどうやって……」
するんだ?と言う前に、そろそろ到着するという声が響いた。
「そろそろ止まるので座って下さい、ちょっと揺れるので危ないですよ」
言われた通りに座って、少し時間が過ぎると、キキィィィ!!という耳が痛くなるほどの音量が響く……え?これ大丈夫?俺死なない?
汽車がどんどんと減速していき、止まった……最初は不安がのしかかったが、案外大丈夫だな。
「はい!到着です!名残惜しい……あぁーやだ、なんでこんなミラクル起きたのにもう離れなくちゃいけないの……時間戻らないかな?」
「お、お姉さん?」
お姉さんの表情が暗くなっている……うーん、なんとか元気になってくれないだろうか。
「はっ!……き、気にしないで?ちょっとというか物凄く気分が沈んだだけだから…うん…大丈夫、きっと、多分…」
「えっと、気分が沈んじまったのか?んーと…多分半年に一回ぐらいしか会えないと思うから今のうちに元気になってほしいんだけど…」
バッと顔を上げるお姉さん、そしてグイッとこっちに近づいてくる、うおっ!近い…近いぜお姉さん。
「え?半年に一回会える?本当?マジ?」
目が真剣みを帯びている、いわゆるガチの目だ、ちょっと怖いな。
「お、おう、半年に一回は実家に戻りたいからな、その時にお姉さんがこの汽車を運転してくれるならまた会えると思うぜ」
そういうとお姉さんは徐に天に顔を仰ぎ泣いていた…え?なんで?
「神よ……この世に救いはあるのですね…」
「お姉さんどうしたの?そんなに急に宗教に目覚めて」
「……感動のあまりつい神に感謝してしまいました、おほん!それだったらもう!毎日元気に過ごせます!本当に…本当に!ありがとうございます!」
「そうか?それなら良かった」
すると、『剛君ー?もういくわよー』という声が聞こえてきた、綾姉先に降りてたんだな。
「それじゃあお姉さん!本当にありがとう、良い事聞けたし、ためになったし、楽しかった」
「えぇ…それならば何よりです、また会える事を楽しみに…ええ!本当に楽しみにしています…でもそれまで辛いなぁ…あ、よろしければおなま………」
やはり、さっき元気は出たと言っていたが、足りないらしいな……ヨシ!もっと元気注入しておくか!
俺はお姉さんを抱きしめる。いわゆるハグだ。
「ヒョッ!!」
ばあちゃん達もこれやったら元気貰えるわぁって言ってたし俺の今できる最大の感謝の証だ、これしか出来なくて申し訳ねぇけど……。
「それじゃあな!お姉さん、また会おうぜ!」
急いで降りる、綾姉を待たせているからな。
「!?♡!?♡!!??♡♡!!??」
後ろの声にならない叫びは、声になっていなかったので聞こえなかった。
主要登場人物の軽いプロフィール
穂浪 斧剛
身長175cm、まだまだ成長途中
体重71kg、結構筋肉質