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ロールキャベツを堪能して、少し暇になった。いつもなら隣の家にいる綾姉のところに行って勉強を教えてもらうが、さっき綾姉が大事な話があると言い、婆ちゃんを加えて三人で話をしたいと言った。
やはりあの黒服のせいなのだろうか……もしかして、綾ねえがどこかに行ってしまうのでは?
そう思うと、悲しい思いが押し寄せてくる。うーん嫌だなぁ。
「それで?どうしたの?急に話があるなんて…」
婆ちゃんが心配そうな声で聞く、婆ちゃんは俺も、綾姉も自分の孫?のように接している。だから急に話があるなんて聞いて心配になるのも分かる。
「ええ……剛君のこれからについてです」
「え?俺の事?」
突然俺の名前が出されて驚いた。俺はてっきり黒服のやつの話しになるかと…。
「えぇ…本当にごめんなさい!!私があなた達の幸せを壊してしまったの…」
泣きそうな声で言われる。だが話が見えてこない?どうして俺達の生活が壊れてしまうんだ?
「それって家の前にいた人達が関係しているのかい?」
「そうでもあるのですが……実は私、結構有名な会社の娘でい、なんというか…取り敢えず権力を持っている家の娘なんです」
「ほうけ…で?それが剛君に関係があるのかい?」
「いいえ、それ自体は関係が無いのですが……その実家の者たちが私を探していて、それでその者たちが剛君の事を見てしまったのです」
そう言うと婆ちゃんは神妙な顔になり、その後に寂しげな表情になった。
「そうかい……見つかってしまったのかい…この子がいてくれた十五年間…短かったような長かったような…なんとも不思議な気分だねぇ…」
婆ちゃんは少し黙ると、俺の方へ向いた、顔付きは真剣で、これまでのようなほにゃっとした様子は見られない。
「剛君……本当に今までありがとうね…剛君がいてくれたこの数年間はかけがえの無いない日々だったよ…」
「な、なんだよ婆ちゃん!こんな別れの言葉みたいな事…俺はこっから離れるつもりなんかないからな!畑仕事も楽しいし、伐採のコツもようやく分かってきた所なんだ!それに、ここには年寄りしかいないだろ?若い俺がいた方が良いはずだ!」
「でもね剛君、政府によって男は中央都市近辺にいなくちゃならないんだよ、むしろ剛君の存在を隠していた私達の方がダメなんだよ?」
「ダメも良いもあるかよ!俺がここにいたいんだ!ここじゃないと俺は生きていけないんだ!」
俺は都会なんて物は知らない、俺にとって世界とは、この自然溢れた村と、生きていくための狩猟、農業、それだけで俺の世界は完結しているんだ。
「剛君…ごめんね?本当に……私がもっと足取りを隠していたら…ううん…そもそも私がここに来てしまったから…」
「別に綾姉が謝る必要はないだろ!……どうして綾姉がここに来たかは知らないけど、元いた所に戻りたくないって事は分かった、だからここに来たんだろ?」
「………そうね…本当に息の詰まる場所だった…何もかもを投げ出して逃げ出したくなるほど…でもその結果がこれよ」
綾姉は続けて言う。
「本当に幸せだった…ずっとここにいたいって思えるほど……でもやっぱり幸せは長く続かないのね…」
「いいんだよ綾ちゃん…遅かれ早かれこうなるって事は実は分かっていたんだ」
婆ちゃんは本当に…本当に穏やかな声で言う。
「今世界で男性というものがどれだけ重要視されているか分からないほど年寄りじゃない…いつか政府の調査か何かで剛君の存在を知られるって事は予想できていたんだよ…まぁ予想はしていたけれど、中々バレなかったもんだから、このまま一緒に暮らせるんじゃないかって思い始めてもいたけどね」
「おばあさん……」
「でもね?剛君が行ってしまうにしても心配事がある…この子はここの暮らししか知らない。綾ちゃん以外の若い子との関わり方なんて物は分からないだろうし、それに今のこの世界の状況を理解できていない節がある」
むむむ…そんな事知ってラァ!と言いたいところだが実際問題分からないしな…知ってはいるがそれを体験してないから本質的なところは分かっていないというわけだ。
「それに都会ってもんは色々と手続きやらなんやらがあるだろう?それをこの子一人で出来るとは思えない」
そこでと婆ちゃんは継ぎ足すように言う。
「都会での生活を…剛君の世話を綾ちゃんに任せたいんだ…無理にとは言わない。綾ちゃんは都会の生活が嫌になってここに来たっていうのも理解できるんだけどね…そこを承知でお願いしたい」
婆ちゃんが頭を下げる…こんなに真剣な婆ちゃんは生まれて初めてだ。
「おばあさん……はい!任せてください。これからの人生、全て剛君に捧げると誓います!」
「別にそこまでお願いはしていないけど…まぁよろしく頼むよ」
婆ちゃんがこっちの方へ向く。
「剛君?これから剛君はこの土地を離れ都会に行きます。これはもう変えられない事実だ、受け入れなさい。でもね?これが今生の別ってわけでもない。あまり政府が許してくれるとは思わないが辛くなったらここに来なさい?後引っ越した後には住所を教える事!野菜……送れないからね」
「婆ちゃん……うん、多分これがどうしようもないって事が分かった…でも頑張ってみるよ、それに婆ちゃんたちが作った野菜があれば元気を出せるよ!」
空元気だ、でもこうでもしないと別れが辛くなる。婆ちゃんたちにもう覚悟ができてるってんなら俺もするしかない。
「そうかい…そういえば剛君の年って十五歳だったよね?学校はどうするんだい?」
「学校?あぁ、綾姉んとこでやる勉強の事?都会でも綾姉が教えてくれればいいんじゃないの?」
「そこも分かっとらんのか…あのね?剛君、学校ってのは本来多人数でやるもんなんだよ?ここには若い子が剛君以外にいないから一人だったけど、本来の学校ってもんはもっと大勢でやるもんだ」
「ふーん…それもせいぜい数十人ぐらいだろ?余裕!余裕!」
「……はぁ……前途多難だね…ちょっとは都会に関心持たせた方がよかったかもしれないねぇ」
「はい…ここまでとは…」
「綾ちゃん?本当に頼んだよ?」
「お任せください!」
???二人はなんでそんな呆れるような目でこっちを見るんだ?