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ドアを開けた先には見たこともない光景が浮かんでいた。
部屋びっしりに詰まった机、それに座る生徒達、所々空きはあるようだが、これ程までに若い人間が集まっているのを見るのは初めてだ。
緊張をなるべく隠し、前を向く…視線が全て俺の方へ向いているのが感じ取れる、さらに瞬き一つすらしない…え、怖。
辺りはしーんと静まっている…外から聞いていた時はもうちょっとざわざわしていた様な気がしたんだが…やはり異物として排除される……!!
ドキドキしながら緊張で何も喋れないでいると、先に教室に入っていた先生が俺達の事を話してくれた。
「あー…お前達、その反応はわかるっちゃわかるが、取り敢えず落ち着いて聞けよ?……ここにいるのは本日転入してきた生徒だ…えっと五十嵐さんと穂浪君、自己紹介をお願いしてもいいかな?」
お、どうやら自己紹介タイムが始まったらしい…最初の掴みは肝心だからな…失敗しない様にしないと…。
「えーっと…本日転入してきた穂浪斧剛です…正直学校なんて初めてなんでよくわかりません…ですので…そのぉ…」
シーーン…静か!静か過ぎるんだけど!?
無言の圧というか何というか…とてつもないプレッシャーを感じる。…あれー?綾姉の漫画ではこういう時ざわざわしていたのに…あまりに静かすぎてやり辛いったらありゃしない…。
「…………えー、…うん、仲良くしてくれると嬉しいなぁって思います…玲!交代!俺この空気無理!」
「交代ですか?わかりました……コホン!本日斧剛さんと共に転入してきました護衛官の五十嵐玲と申します。斧剛さんに不埒な真似をしようとしても無駄ですのでどうかご賢明な判断を…これからよろしくお願いいたします」
おぉ!!最後の方はなんか威嚇をしていたが、概ね綺麗にまとまっている自己紹介だ…また一つ尊敬できる所が増えたな!
俺が感嘆の目で玲を見ていると、続けて先生が色々と事情を話してくれている。
「えー、ここにいる穂浪君は少々特殊な事情があってだな…いわゆる世間一般の男性とは全く違う。多分勝手が違くて戸惑うだろうがそれを表に出すなよ?いいな?あ、あとさっき五十嵐さんが言っていたけれど変な事は考えんなよ、もし実行に起こしたら捻り潰すので…以上!」
え?捻り潰す!?なんかしれっと怖い事言ってきたなこの先生…。
「穂浪君と五十嵐さんの席は窓側の端っこの席とその隣ね、教科書とかは持ってるよね?」
「はい、持ってます」
「よし、なら大丈夫か…それじゃあ一番後ろのあの席に向かってね…それじゃあホームルーム始まるぞー」
言われた通りに席に向かう。俺が歩くたびに他の生徒達の目線がこっちへ向かう…だから怖いって!
席に着き、座る、……あれ?
少し落ち着き、周りを見てみると…男が俺しかいない…WHY?
なぜー?そんな疑問を解消すべく隣の玲に目線を向ける。
そんな俺の慌てた様子を見て、考えを察したのか、玲は「あ、普通の男子は学校にはあまり来ませんよ?」と言った…え゛!!
「今の全国の学校の制度で、男子のみオンライン授業での参加を可としているので…えーと流石に昨今の男性が絶食系となっているのは知ってますよね?」
「うん…知ってるけどさぁ…そこまで引きこもるもんなの?引きこもるって怠くない?」
俺はよく暇になったら森とか山とかに入って散歩をするが、一度大嵐が俺の村の付近で発生した事がある…その時のどこにも行けない閉鎖感はなんとも言い難いほどに不快だった事が強く印象に残っている。
「それよりも女性に会いたくない!という感情が勝っているんだと思いますよ」
「………そんなもんなのか…」
「まぁ、ゲームや小説やら色々と暇を潰せる物は沢山あるのでそこまで辛くはないんじゃないでしょうか?」
「…げーむ?…まぁ、実際来てないんだし…仕方ねぇか…なんだよ…ちぇー、男の友達できるかと思ったのに…」
「あはは…うーん…今の男性と斧剛さんの相性は少し悪い気がするので…どうなるかわかりませんね…あ!でも流石に全員居ない!というわけではないとは思いますので、探してみたらいるかもしれませんよ?」
少し不貞腐れていると、玲さんがフォローをしてくれた…うーん、やはりいい人。
「まぁ、今は玲がいるからいいや…まずは生活に慣れることから始めないとな」
「ん……ふふ、流石に慣れてきましたよ…全く…本当にタラシさんですね…」
……??たまに玲は小声でボソッと言うから聞き取れない場合があるんだよなぁ。
そんなこんなで玲と少し雑談をしていたのだが、周囲の様子がおかしい、……いや、普段の様子がわからないからおかしいかどうかなんてわからないけれど。
先生が何やら色々と報告をしているのに全て聞き流してとある方向を向いている…うん、俺の所ね?
「………………」
全ての視線が集まっている…これはなに?イジメ?
「……おい!お前ら!穂浪君が萎縮しているだろ!さっき言ったをもう忘れたのか?…それと私の話を聞け!聞き逃すな!……あぁ、もう埒があかない」
先生の叱りをものともせずにジーーーっとこちらを見てくる目…何が怖いって全く瞬きしない所なんだよな…。
「穂浪君、ちょっといいかな?」
「え…ッ!あ、はい!なんでしょうか!」
突然呼び掛けられ少しびっくりしてしまい、立ち上がる…くそぅ…俺はこんなキャラじゃないのに…。
「このアホどもが動作不能を起こしてな、本当は別の所でやろうと思っていたんだけど、幸い今日の一限は私の授業だからな…最初の数分だけこいつらに時間をくれないか?」
「あ、はい…具体的に何やれば良いんですか?」
「うーん…答えるられる範囲での質問コーナーとかどうだろうか?」
「それくらいだったら大丈夫です」
「うん、よろしく頼む、よし!お前ら、なんでもじゃないけど取り敢えず知りたい事を質問しとけ、あ、変な質問はするなよ?今の時代厳しいからなぁ…特にセクハラ」
セクハラ…?まぁ、気にしないでおこう。
取り敢えず教卓の前に行く、ちょうど先生の隣だな。
あ、そういえばまだ、先生の名前から知らないんだよな…ちょうどいいし、今聞くか。
「あの…先生?申し訳ないないんすけど…お名前聞いてもいいですか?」
「ん?あぁ、まだ言ってなかったね、私の名前は都築朱音だ、担当する教科は世界史、何か分からないことがあったら、ちゃんと質問したまえよ」
「わかりました!」
「よし!ではどんどん質問いけ!私もするし」
よし!ばっちこい!…と心の中で気合を入れる。………これであの視線をやめて貰えればいいのだが…。
そして、これから地獄の質問攻めが始まるのであった。




