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第15話 武田英里子の勇気(英里子目線)
「それじゃあ、武田さん。今日は楽しかったよ。ありがとう」
菊池がそう、さよならの言葉を口にした。
せっかくのチャンスが終わってしまう。
それでも、彼との仲は劇的に近づいた。
今日は、”友達”になれただけで良いのではないか? 去年の夏から今まで、一度話しただけの”他人”だったのが、連絡先も知って、二人で出かける事もした仲の良い友人。チャンスはこれからもあるのではないだろうか? しかし、どう言って誘う? 半年以上、彼から話しかけてくる様子もなかった。
最初で最後のチャンスかも知れない。
勇気を。好きな事を好きと言える勇気を。心の中で呪文のように唱えた。心臓の音が走り終わった時よりも大きく響く。決勝戦のスタート前よりも緊張しているのが分かる。
『大丈夫。勇気を出して』
どこからか、背中を優しく押す声が聞こえてきた。大きくひとつ息を吸うと、ずっと秘めていた想いを吐き出した。
「あのね……」