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第13話 武田英里子の思い(英里子目線)

 夕方、動植物園からのバスに乗って駅へ向かう途中、武田は、彼には言えないこれまでのことを思い返していた。

 彼に話しづらいと言ったのだが、話しかけづらかったのは彼のせいではない。自分の気持ちの問題だった。昔から女の子でも男の子でも分け隔て無く話すことが出来た。それが、菊池に話しかけようとすると、心にストップがかかった。嫌いだからではない。逆だった。嫌われたくないから。話しかけても、あの日のことを覚えていないかも知れない。彼から「誰?」と言われただけで、一週間は立ち直れない自信があった。彼の姿を見る度に話しかけたい気持ちになるのだが、いつもドキドキして結局声をかけられないでいた。この気持ちが何なのか武田には分からなかった。こんな気持ちを相談できる相手もいなかった。彼女が現れるまでは。


 彼女の名前は黒柳月子。

 まるでお人形のようなその姿に武田は一目で心を奪われた。自分が理想とする女の子の姿だった。

 そんな彼女の方から話しかけてきたのだから、断る理由がなかった。すぐに携帯の番号とメールアドレスを交換して、毎晩のように色々な話をした。彼女との話は楽しく、どんな話をしても親身に聞いてくれる。そんな彼女だからこそ、武田は彼に対するよく分からない気持ちを打ち明けたのだった。それに対する彼女の答えはこうだった。


『私は英里ちゃんが恋をしてるんだと思うの。でも、本当にそうなのかは英里ちゃんがもう一度菊池君と話してみて、確認してみたらどう? そのための手伝いはしてあげるから。ちょうど、今度のカラオケの時にデートに誘ってみたらどう? お礼だって言って』


 そんなに上手く彼と話が出来る機会などあるのかと思っていたが、驚くほどあっさりとその機会はやって来た。そして、彼が自分の名前を覚えていてくれていたと知ったときは、心臓が口から飛び出るかと思うほど嬉しかった。デートにも月子のアシストで上手く誘えたのだった。

 服やメイク、それにお弁当に至るまで彼女が手助けをしてくれて助かった。月子がいなければ、ずっと悶々とした気持ちを持ったまま、高校を卒業していただろう。そう考えると彼女には感謝をしてもしたりないくらいだった。

 そして彼が楽しんでくれるか不安だったけれど、決して退屈をしているようには見えなくてホッとした。

 特に、ランチを終えて植物園に入ってからの彼は生き生きとしていた。楽しそうに植物を見て話をしてくれる彼を見ているだけで自分も嬉しくなるのを感じる。もう、自分の気持ちを確認するまでもなかった。

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