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第12話 僕と彼女の植物園

「そう、菊池君の言葉で、ボクは吹っ切れたんだ。他人の目じゃなくて自分の心に素直になろうって。あれから、タイムを追うんじゃなく、自分の理想の走りを追うようになったら、タイムも伸びてプレッシャーに潰されるようなこともなくなったんだよ」


 彼女が秋の大会では優秀な成績を収めて、全校生徒の前で表彰されていたのを思い出した。


「もしかして、お礼って熱中症になりかかっていたのを助けたから? それなら、お礼を言ってくれたじゃない。だいたい、具合が悪い人を助けるのって当たり前の事じゃないか」

「そうじゃないんだけど。それもあるんだけど、まあ良いか。まあ、覚えてくれてたんだね。嬉しい。あれから、何度か話しかけようと思ったんだけど、なんだか話しかけづらい雰囲気だったから、同じクラスになれて良かった」

「そんなに話しづらいかな。まあ、よく言われるけど」

「だって、菊池君、クラスでは必要なことしか話さないよね。カラオケだって、月子がああ言わなかったら来る気なかったでしょう」

「まあね」


 図星だが、それは恐らく黒柳から聞いたのだろう。

 しかし、確かに僕はクラスであまり話さない方だ。あの日、黒柳が僕にカラオケ参加を迫ったのはクラスのみんなが見ていたから、当然彼女も知っていることだけれど、もしかして武田は普段からこの話をするために、僕の様子をうかがっていたのだろうか。あんな事を気にしていたのかと思うと、申し訳ない気持ちになった。

 それでも、彼女の目的が分かってすっきりした。そうであれば、律儀な彼女に後ろめたい気持ちがなくなるよう、しっかり”お礼”を受け取っておこう。

 憂いのなくなった僕は、楽しみにしていた植物園へと入った。

 春の陽気に誘われるように植物園は様々な花々に満ちあふれていた。


「スゴイね。ボク、植物園って初めて来た気がする。いつも動物だけ見て帰ってたから」

「まあ、結構、そう人が多いだろうからね。だいたい植物園なんかに来るのは僕みたいな変わり者か、年を取った人だろうね」


 子供は動きのある動物の方が楽しいだろう。花なんかを見ても退屈だろう。そう考えていた、僕の両親もここに連れて来てくれたときは、動物園を回るのに時間を使って、植物園を見る時間がほとんど無くなった。当然、植物園の方を楽しみにしていた僕は大声で泣いて両親を困らせたらしい。


「ねえ、菊池君。あの花、綺麗。なんていう花かな?」

「どれ?」


 今は春、花はいくらでも咲いている。その無数の花の中で、彼女は僕に身体ぴったり寄せて、目線を合わせるように指さした。


「ほら、あそこで咲いてる赤と白い花。なんか茎も紫になってて綺麗じゃない?」

「ああ、あれはリナリアだね。日本だと姫金魚草って言って、花が小さな金魚に似てるからそう名付けられたみたいなんだ。可愛い花だよね」

「流石、菊池君」

「ちなみに花言葉は『幻想』とあと一つあった気がしたんだけどな。思い出せないや。赤や白以外にもピンクや黄色、紫にオレンジなんか色々な種類がある花なんだよ」

「同じ種類なのに、そんなに色の種類があるの? 全部揃ったら、それこそ、幻想的ね。ちなみに菊池君はどの花が好き?」

「基本的にどんな植物でも好きなんだけど、イベリスは綺麗だと思うよ。ほら、そこの白い花かあるでしょう。小さい花がいくつもついて、一つの花になってる」

「あっ! すごく綺麗。何これ本物? なんかお菓子が生えてるみたい」

「そうなんだ。砂糖菓子に例えられることから、キャンディタフトって呼ばれることもあるんだよ」


 確か、花言葉は『初恋の思い出』。初恋がまだの僕には皮肉にしか聞こえないが、なぜかこの花に惹かれてしまう。まだ、クロユリの『恋』『呪い』の方がしっくりくるのだけれど、こればかりは感覚的なものなのでどうしようもなかった。 

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