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第三章. 煌びやかなパーティー会場

2008/04/03 15:30 桜花ホテルパーティー会場


 豪華絢爛とはまさにこれのことをいうのだろう。


 パーティー会場というだけで、煌びやかに思えるだろうが、それ以上に参加者たちがキラキラとしていて、シャンデリアがそれを照らす。


 まだ、パーティーは始まっていないというのに、大勢の参加者が集まっていた。

 そこには記者たちも例外ではなく、カメラが何台もセットされていた。


 「社長?」


 園咲霞はここではないどこかを目を細めて眺めている隣の男性に問いかけた。


 「いや、思ったよりは大丈夫そうかと思ったところだ。だが、あの2人では不足するかもしれないな。」


 フォーマルなスーツに身を包んだ龍崎美琴だ。

 エスコートしている霞の頭を優しく撫でた。


 「…そういうことは別の女の子にでもしてください。それで、不足とは?」


 「想定外にも要人警護社の2人がいたんだ。あれは、糸瀬と凩だね。」


 龍崎は会社を立ち上げたばかりで、とてもこのような会場に呼ばれるような身分ではない。

 だからこそ、国の非公式の組織、『特殊夜間諜報情報局』の諜報を担う彼としては、何らかの裏を考えるのは当然であろう。

 龍崎は当然その上層部に確認した上で、有事の戦力としての期待も込めて送り込まれているのだ。


 ーそれはきっと深和さんの妨害目的だろうね。深和さんが邪魔したとわかると都合が悪いだろうし、涼あたりが君らに目をつけたんじゃない?


 ある男の言葉もある。

 このパーティーは裏社会の未来も左右しうるということだ。


 「そもそも、私は龍崎さんを詮索しない、ということで雇われているのでは?」


 「ん?それは霞を信じているから?」


 (この人は本当に何を言っているの?)


 「…私が敵が送り込んだスパイならハニートラップ成功ですよ?」


 龍崎は軽く笑った。


 「冗談が面白いね。霞がそんなことするわけないでしょ? わざと自分を悪く見せなくてもいいのに、かわいいなあ。」


 「そっちこそ冗談はその辺にしてください。」


 「ごめんごめん。糸瀬や凩は強いよ。有能だし、代わりがいないってのも納得だ。でも、それはこの世界での話なんだ。彼らの力は別の世界に干渉できるようなものではない。だから、敵がそういう系統なら彼らには不向きだ。」


 「そんなものが関わってると?」


 龍崎は笑って誤魔化した。


 「八百万の神とはよく言ったものだけど、付喪神なんて、こんなに歴史があれば、存在してもおかしくはないよね?」


 窓から見える、巨大な桜の木ーここでは桜花と呼ばれていたか。


 散りゆく桜は儚く、儚いからこそ美しい。



 (さて、俺がやらなきゃいけないことは…。)




 「さて、ひいちゃん、僕の格好はおかしくないかな?」


 「うん、大丈夫。」


 緋彩は金髪に染めた髪に合わせてか、黄色いドレスに綿の白衣を羽織っている。

 白衣はパーティーで着ても悪目立ちしないように特注した。


 糸瀬はスーツを着用しているが、これもまた特注で動きやすいようになっている。


 「悠は向こうですかね。」


 「僕らといたら、僕らも動きにくいし、怪しまれてしまうからね。」


 2人の視線の先には両親と思しき人たちに頭を下げる悠がいた。




 「智博、そこらへんにしろ。」


 「親父、…また悠を甘やかして、だめに育ったらどう責任を取れるんだ?」


 智博はパーティー会場であることも考えて、周りの目を気にしてはいたが、お粗末と言わざるを得ない。


 「少なくとも今すべきことではないだろう。瀬川の家のものというだけで注目は集まっているのだぞ。」


 智博は顔を顰めた。

 正論であったことと、また悠ではなく自分が怒られたことに。


 「そもそも、悠には仕事を任せていた。理由もなく遅れたわけではないし、それが仕事であれば、問題は皆無だ。」


 「は? 4歳児に仕事? やっぱり親父はどうかしてる。ガキの遊び場じゃないんだ。」


 「このあとも悠は仕事が残っている。パーティーが始まったらそちらに行きなさい。」


 悠は無言で頭を下げた。


 (相変わらず気味の悪い餓鬼だ。俺の息子なら俺のいうことを聞けばいいものを…。)


 俊蔵は悠を見て微笑んだ。


 (いい場所なのかもしれないな。)


 悠は泣きそうに顔を歪めた。



 「お父さま、挨拶に参りました!!」


 「お久しぶりですお義父さま、幸子も挨拶しなさい。」


 「おひさしぶりです、おじーさま。さちこです。」


 そこに割り込んできたのは豊川家族だ。

 豊川えみ子は俊蔵の長女であり、豊川家というこれまた由緒正しき家に政略結婚の一環として嫁いだのだ。


 これでもか、というくらい煌びやかな飾りを身体中に身につけているのは娘の幸子も同じである。

 幸子はひらひらとしているドレスが楽しいのか、意味もなくクルクルと回っている。


 幸子はもう6歳で、今度から小学校に通うことになる。


 「キラキラすごいでしょ?もっとキラキラしたい!!」


 無邪気な笑顔で俊蔵に話しかけるのを両親は止めるどころか応援しているようだった。


 (どいつもこいつも、悠を特別扱いしているからか、幼児で懐柔しようとする手が多いのが困る。そんなことで気にいるわけもないし、それによって社を傾ける気もないが。)


 笑顔の裏にはドロドロとした汚いものが渦巻いているように思えて、俊蔵は反吐が出た。


 えみ子は俊蔵も手を焼いた浪費家なのだ。


 「ねぇ、ゆーも、きれいでしょ?ゆーはじみでくらくてつまんないから、もっときらきらしたのしようよ!」


 幸子は無理に悠の腕を引いた。

 悠は4歳、この年齢では体格差は歴然だ。


 「じみなのはつかれるでしょ?かわいくない。さちこはいとこでおねえちゃんなんだから、いうこときかなきゃだめ。」


 悠は顔をしかめ、どうしようもなくされるがままになっていた。


 (…嫌っているのにベタベタしてきて、でも悪口を。わからない。)


 そして、悠は知ってしまっていた。

 ふと、緋彩が言った言葉を。


 (前からへんな人たちだったけど…。)


 「そろそろパーティーも始まる。そこらへんにせんか。」


 俊蔵がなんとか止めた。


 「悠、お前はトイレにでも行って来い。」


 (お祖父様がトイレに行けなんて言ったことない …。)


 悠が突然の発言に驚いていると、俊蔵は優しく骨張った手で頭を撫でた。


 「大丈夫だ。必ずお前を認める奴は現れる。お前は自分の道を信じろ。彼らは、いい人だったんだろう?」


 悠にだけ聞こえる声で静かに言いながら、小さな紙を手渡した。


 「さて、パーティーが始まる、挨拶回りもある程度済んでいるだろうが、再度確認だ。」


 後ろで俊蔵が家族たちを仕切る中で、悠は紙に書かれた通り、静かにあの2人の元へ向かった。

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