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序章. そのとき僕は…

 ーー知っているだけでなにもできないと、僕は分かっているつもりだった。



 いま、壇上のスポットライトに照らされた祖父が崩れ落ちた。


 唖然として動けない僕をどこか冷静に見ている僕がいて、祖父が倒れたというのに何処か冷ややかな僕に落胆した。


 マイクの甲高い音が僕を現実に引き戻した。

 隣に居た2人の人たちは既に祖父の近くに移動していた。

 僕が茫然自失して動けなかったときに彼らは先を見越して動いていたのだ。


 それから数秒経ってから、周りの大人たちは動きだした。

 しかし、統率のとれない集団ではなにかを為すことはできなかった。何人かは救急車を呼んだが、それ以外のものは右往左往するのみで、混沌がその場を包んだ。


 僕もまた、なにもできない人間のひとりだ。

 祖父が今日死ぬつもりであることは理解していた。

 おそらく、祖父は既に…。


 知っていたのにも関わらず、僕はなにもできなかった。

 なにもしなかった。


 僕にはただ突っ立って周りを見ていることしかできなかった。



 しばらく周囲を見ていると、思考がクリアになっていくのを感じた。

 両親を見て、彼らはもう…、僕の知る彼らではないと感じた。

 最も動揺しているのは叔父だ。

 祖母はここには居なかった。


 そして、ふと桜の香りがした。

 それにつられて壇上を見ても、そこにはなにもなく、ただ祖父とその様子を観察する男女のみ。AEDを持ってきた男に首を振ったのが見えた。祖父は死んだと確信した。


 そんなとき、隣を背の高い若い男の人が歩いて、僕の少し前で止まった。

 彼が宙を睨んだ途端に、強い桜の香りがして僕は花を摘んだ。


 「……さんに気づいた?」



 その男の人についていた女の人が何かを呟いていたように聞こえたが、なにを言っていたのかは分からなかった。

 僕には意識を保つのが精一杯だった。

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