後編
◆異世界転生前
── ……と思ったら、気が付くと”私”は白い空間にいた。
そこに、銀色の靄みたいなものが、人型を象って立っている? どうやら”私”に先ほどから話しかけていたのはこの靄? ……”管理人”というか神様みたいなモノのようだ。
【それほど死にたいなら、またせめてその命を救いを求める者たちのために役立てるために転生しないか。】
と提案してきた。
”私”は暫し考え……。
『前世の記憶とか残してもらえますか?』
【フム? なるほど、…… 容貌や能力など、できる限りご希望に沿うようにしよう。但し、世界観以外の環境や家族構成などは既に決められている世界なので、考えているチートについては無理だけどね……。
ああ、でも、…… 君には過酷な運命を背負わせてしまうから、せめて痛みや苦しみを感じない加護を授けておくね。】
”管理人”は嫌味でなく優しく笑いかけているようだ。
こうして気が付くと、”管理人”が管理している一つのある異世界のある星のサンフラワーという名前の国で、英雄伯爵家の令嬢……アイリス・ボトルゴードとして転生していた。
結果、…… 冒頭へ戻ることになる。──
◆異世界(歴史)
── 1000年前。魔獣が闊歩し、未だ周辺国との動乱に暮れていた大国になる前の小さな国に、国の行く末を憂いた一人の勇気ある”サン”という名の若者が立ち上がった。
しかし彼一人では国を守り切ることができず、半ば諦めかけていた時、何処からか黒髪黒目の勇者・イサムと聖女・スミレが現れ、若者と意気投合しともに背を預け合って戦い、国に平穏を与えることができた。
この国を建ち上げた、国の平和の礎となった若者”サン”は、国民から望まれて王位につき出身地からモーニンググローリーの姓を名乗る。
一方、元居た世界への帰還方法がわからず、結局この世界に骨を埋める覚悟で留まることになった勇者と聖女は、”サン”からそれぞれボトルゴードとジャンシェンの家名を授かった。
当時はこの国を守り続けるためだけにその能力を使いたいと、真心から発生した”血の契約”のはずだった。
子孫たちは、当時は未だ国外に自由に出ることもできたが、できる限りこの国を守るために英雄家の邸を中心とした土地から離れ過ぎないように、また、常人とはあり得ない膨大な魔力を受け継ぐだろうために、国を守る防衛結界として役立てるように、自ら命を断つことをできないようにもと……。
……こうして最初の王家モーニンググローリーと英雄家ボトルゴードとの”血の契約”が行われた。
が……長すぎた平和と、歴代の国王にも好意的な王や友好的な王だけでなく、暗愚王が立つようになり、”血の契約”は歪められ、能力を妬んだ王家にとって都合のいいように利用されるようにいつしか変わっていった。
そのせいで本来国に恩恵をもたらすべきはずの勇者と聖女の子孫で、英雄家の血筋を引いた者たち親族一同もれなく、国に拘束され、自害すら許されず、自由に国外にすら出られなくなった。
更に、子孫が一人生まれる毎に、勇者と聖女の子孫ならではの生まれながらにしてその膨大な魔力を半ば一方的強制的に奪われ、この国の結界を張るためだけに利用され続けた。
1人につき、事故や病気で死ぬか人生を全うして大往生した時にだけ、結界が1枚消滅するだけだったので、ほとんどの国民が、結界が常にそこにあることを当たり前のように思い込み、誰がいつ何のために結界を張っているのか、張ったのか考慮することすらなくなった……。
やむを得ぬ事情で国外追放されたり、周辺諸国へ結婚のため国外に出るなどする場合は、勇者の子孫ではなくなる誓約や約定、2度と国内に踏み入れない魔法契約などで永久に国外追放される。
その代わりのリスクとして、持って生まれた膨大な魔力を全て失わせられる上、子孫を残せない一代限りの身体にされるので、婚姻のために国外へ出る場合は、養子をとるか、子孫を残さなくてもお互いがいればよいという条件に納得した相手としか婚姻できなかった。
しかしそれらの条件は、庶民ですら生活魔法程度あって細々と生きていられるこの世界において、その場で死んだ方がましだと思えるくらい過酷な条件だった。
そのような条件でも、”血の契約”から逃れたいと切望する者のみが、この国に結界を張り続けるという拘束から脱することができたのだ。
元来、良識ある代々の国王たちは、”血の契約”の内容が英雄家にとってはあまりにも屈辱的で禍々しいものであるが故、力を持たれては困る貴族や、ましてや国民には秘され、王族には国王だけが知りうる口伝でのみ教えられた。
但し、王太子を決定する時に、密かに国王と立太子と”英雄家”の当主との3人の名のもと、その都度新たに”血の契約”が更新されるのみだった。
ところが、前国王であった現国王の兄王フォルスバインドウィードは、病気がちで身体も弱く、後継ぎにも恵まれず、おそらく病気の為に子ができない障害を患っていた模様である。
そのため急遽、将来現国王となる当時の王弟クレイプマートルを王太子に擁立しようと準備していた。更に王弟には、器量の良い息子、甥の王子クレマティアスが生まれていたので、甥の王子が成人するまでの繋ぎにもなると考えた。
そのように当時のフォルスバインドウィード国王が、王弟クレイプマートルを立太子させようとした矢先、日ごろの不摂生が祟ったためか様態が悪化した。
そのまま急病死したため、新たな”血の契約”が更新されず、当然口伝の内容も教える暇もなかった。
……実は……
当時、現国王となる王弟クレイプマートルはあまり賢くないくせにプライドと欲望だけが人一倍強く、兄王フォルスバインドウィードを妬んでいた。
兄王フォルスバインドウィードが王族にしては人を信用しやすく優しいだけの性格なのをいいことに、また、王弟クレイプマートルに言葉巧みにすり寄った臣下たちにも唆され、王弟クレイプマートルは王位を簒奪したのだ。
本来、代々の国王たちに受け継がれて行くはずだった”血の契約”について引き継がれる前に、病気にしか見えない症状を起こし、死亡時には検出されない毒を毎日少しづつ摂取させて毒殺し、王弟クレイプマートルはまんまと国王の座に就いた。
結果、現国王クレイプマートルは血の契約の口伝の内容も新たに更新しなおすことも全く知らないまま国王になってしまったのだから……。──
◆ビターエンド?
── 英雄家の邸にたどり着いた王太子と婚約者ローズは、”私”や父母たちがわざと噂で流した
『英雄家が代々王家から優遇されてきたのには、勇者と聖女の血筋でしか守れない高価な秘宝があるかららしい。
その証拠に、英雄家の者たちは邸周辺から離れたがらないだろう? 入手するためには、英雄家の血筋を絶やすしかないそうだ。』
という話を鵜吞みにし、邸を全て破壊しつくして撤去までしてまっさらな土地を探索し、邸の跡地の地下に埋められ隠されていたらしい特殊な入口と扉を発見したのだが……。
「は、はい。ここに仕掛けがあるようです。では開けますから、地盤が崩れやすくなっているのでお気を付けください。」
魔術騎士団長のジーニアが封印を開けた扉の中は、四畳半程度の狭くて小さな正方形の室内だった。
アッシュやジーニアを始めとする魔術騎士数人がご用心をと先導切って、王太子やオーキッドやローズたちと室内に入ると、室内はシンと静まり返り、特殊な保存魔法でも掛けられていたようで埃の一つも見当たらない。
しかしやがて、入口の階段から体面の壁にだけ神棚みたいな場所に納められている書類などを発見。王太子が期待に胸を膨らませて室内に置いてある書類と古い小さな日記? だかメモを書き付けたかのような書物? を手に取ると……。
「……なんだこれは!? ……どういうことだ!!」
「なになあ~にい? 何があったのクレマティアスゥ~? ……何よこれ?」
どちらも既に亡くなっていた先々代国王フォーオクロックと王兄フォルスバインドウィードが王太子だった時の刻印がつけられ、処刑された英雄家当主リンデン・ボトルゴードとで交わされた血の契約書の控えと、口伝の内容が記された古い書物の内容を知り、王太子たちは愕然と絶望に震えた……。
即ち、
『”血の契約”の効力は、勇者と聖女の血を受け継ぐ子々孫々と王家との契約が更新し続けられる限り、これを履行する。
但し、新たに立った国王、および王太子、現当主の名において契約が更新されず、この国に拘束され続けた血筋のみが途絶えた場合、この契約は直ちに無効となり、この国のみならず、世界からも解放される。』
王太子が契約書の内容を読み終え、ヒロインのはずだったローズも書物を手に取ろうとすると、まるで彼らを嘲笑うかのように保存魔法の効果が切れ、契約書も書物もボロボロと塵に変わって崩れ散った。
そしてこの国の終焉へと破滅と崩壊が始まった……。──
◆メリーバッドエンド?
── こうして、転生した自称ヒロイン・ローズ・カクタスに冤罪の濡れ衣を着せられ無残に殺された”私”だったはずだが、……実はそれこそが願った結果だった。
乙女ゲームの世界観にとても良く似た世界。望んだ結果のある意味自死。
わざと、英雄伯爵家の長女だったけど、冤罪を被りすべての証拠あるなしの罪も享受したのは、英雄家の血筋親族全ての悲願だったから。
『私の命がこれで少しでも役に立ったのかしら? ねえ管理人さん。』
”私”が気が付くと、転生する前の白い空間に漂っていて、側に薄ぼんやりと銀色に光り輝く”管理人”らしき人型が立っているのへ向けて言った。
【ええ。十分ですよ。わたしがあの世界の創成時に未熟だったがために、迷惑をかけた貴方の国の他の時代のお二方がわたしの世界に間違って転移してしまったせいでね……。
貴方に無理を言ってこちらの世界に来ていただいたかいがありましたとも。
貴方は本当にとても賢く立ち回っていただいた。ああほら、彼らも満足しているようですよ?】
”私”が”管理人”に指し示されたらしい方向を見やると、あの世界で”私”の親族や、父母、弟だった人達の魂らしいものだけでなく、どうやらあの世界に拘束され続けていた礎の勇と菫らしい魂もが”私”に感謝し礼を言ってるように感じた。
”私”が挨拶を返すと、彼らは光る生命の川のようなモノに喜び勇んで飛び込んでいくのが視えた。
【さてと……では、私のわがままで望む通りの結末を迎えていただいたのですから、天命を終えた貴方の魂を、次の輪廻の輪に乗せますね。
ただ……申し訳ありませんが、知恵ある生物に生まれ変わるには時間がかかるかもしれませんが……】
『ん~ ……そうね。あまり命を脅かされる生き方をせずに済むなら、スローライフおくれる生物には生まれ変わりたいかな?
あ、……でも前世の記憶はなくてもいいわよ。』
【できる限りご要望にお応えするように、転生先の管理人に融通するように伝えておきましょう。】
そう言うと、”管理人”は優しく微笑んだ気がした。そして、”私”の魂を光り輝く生命の川らしき流れの中へ乗せて見送ってくれた……。──
◆エピローグ(トゥルーエンド)
──”私”が拘束された牢屋の中で、英雄家の血筋、親族が一人づつ殺される度に結界が消失するガラスの砕け散るような音が、遥か遠い空の彼方や国の周辺から聞こえていた。
幼少ながらも弟が喜んで毒を煽ったのも、母が酷い目に合わされながらも甘んじて首吊りを受け入れたのも、首だけになった父の顔が心なしか微笑んでいたように見えたのも、”私”達が”英雄家の秘宝”の噂を流したのも、全て今日この日のための布石。
前国王フォルスバインドウィードが病に斃れ、現国王クレイプマートルが擁立し、幼い王子クレマティアスが立太子した時に、新たな”血の契約”の更新がなされなかった機会を、父である英雄伯爵リンデンが見逃さないわけはなかったのだから。
家族、親族、そろって綿密に計略を巡らせた。
先ず、父の代では叶わなかったが、”私”が生まれた時点で”噂”を流し、権力があり強欲でもある親がいるか子息がいれば、”噂”目的の政略で婚約者に据えてもらうようにすること。
野心のある低位貴族の令嬢で王太子好みの女性を近づけさせるように仕向けること。
権力を持った婚約者または親をわざと怒らせ、流した”噂”を利用し、親族末端に至るまで根絶やしにさせるように仕向けること。
まさしく……”血の契約”こそがある意味、”英雄家の秘宝”そのものだったのだから。
こうして”私”の火刑後、サンフラワー王国を護っていた最後の結界が消失し、天候の悪化・砂漠化・大洪水・地割れが頻発。
異常気象により農作物は不作。餓死者の放置による疫病が蔓延。国民の暴動。英雄家を根絶やしにした結果次は自分たちの番かもと王家に不信感を持った貴族たちのテロによる内乱まで勃発。
魔獣に攻め込まれ、周辺諸国への守護防衛壁が消失したことで侵略戦争も起きた。
”私”の死ぬ間際まで味方であり庇い続けてくれた王妃メアリーゴールドは、最初は国民たちの為に宰相たちと共に国内の天災や領民たちの生活を守ろうと政策を行ったり、内乱にも真摯に対応したが、隣国から同盟の為に嫁いできていたため、愚王との仲と荒れ続けるサンフラワー王国内の実情を心配した祖国の国王や兄弟たちに救い出され、離婚後無事に祖国へ帰国。
強欲で愚かな国王クレイプマートルは、天災と内乱と周辺諸国からの侵略から我先に逃げ出そうとし、洪水と地割れにのまれて溺死。
宰相の息子オーキッド・ナルキソスは、伝染病にかかり苦しみぬいた末に死亡。
騎士アッシュ・ホーソーンは、暴動する国民や貴族たちに囲まれたが、愚王やアホ王太子でも王族を守るために盾になったが、どこからか飛んできた毒矢に射殺された。
魔術師ジーニア・ペリウィンクルは、王都まで入り込んだ魔獣たちの討伐に奔走して、魔法の効かない魔獣の毒爪に倒れた。
王太子クレマティアスは、戦争の最中愚王の父の愚か者に相応しい最期を見ていたので最後の王族としてそれなりに孤軍奮闘したが、死なない程度に身体中メッタ刺しにされたうえ、最後の国の責任者として公開火刑に処せられた。
ヒロインだと思い込んでいたローズ・カクタス子爵令嬢を始め、ピアニー侯爵令嬢、デイジー辺境伯令嬢、教育係リリー、侍女ポピーたちは、攻め込んだ周辺国の兵士たちに凌辱された後斬り殺されたり、絞殺されたり、戦火にまきこまれて焼死した。
「どうしてなの? 私は主人公なのよ! ヒロインなのに、おかしいわよこんな世界……」
と、ローズは最後まで頭お花畑なまま、ゲームと現実世界の違いを理解してなかったとか……。
英雄家の処刑を見世物にして馬鹿にして嘲笑っていた残った国民たちも、長き平和に慣れ過ぎていたがために、一方的に蹂躙され尽くした国とともに一人残らず、一か月で滅ぼされた。──
END
m(_ _)m 拙い架空話を最期までお読みいただき本当にありがとうございました。




