第42話 東京駅ダンジョン (1)
大変ながらくお待たせしました、取り敢えず細々と書き溜めていた続編の投稿です。
ただ、長い事この作品と向き合ってこなかった弊害で、ストーリーやらキャラの性格やら設定が思いだせません。
読み返してみると設定がゆるゆるで、あらが目立つ様に思えてどうしようかと考えた末、改めて改訂版として出品してみようかと思っております。
取り敢えず作品の方向性は変えずに書き上げるつもりでは在りますが、あらかたの道筋が決まれば、現作品は削除するかもしれません、その時はご了承ください。(同じ内容の作品ですし)
一 止
ダンジョンの在り様が劇的に変わって2カ月がたった頃、これ迄傍観していた世界探索者協会が動いた。各国のダンジョンの管理と探索者の統括は各国の裁量が基本では在るが、ダンジョン間移動が世界規模で標準化してくるとそうも言って居られなくなったのだ。
取り敢えず、探索者のダンジョンからダンジョンへの移動の規制は撤廃された、ダンジョンコアを支配下に置く探索者が増えるという事は、ダンジョン間での移動ができる地域が増えるという事と同義なのだ。その対応に追いつけなくなった各国の政府に対して「規制しても無意味だから、あきらめろ」と諭すような通達だった。
それでも国の政府は今までの習慣や考え方を変える事が出来ず、ダンジョンの出入口に国の管理所を建てて密入国や税関の審査を行おうとしていたのだが、早々にさじを投げた。ダンジョンは規模の違いは有れど無数にあるのだ、いちいちダンジョン毎に入国の審査やら持ち物の検査を国が行うには当然無理が在る。
そもそも、それをしているのは探索者協会であって、国政を司る国がやると二度手間に成ってしまうと遅まきながら気が付いた様なのだ。今までの常識だと、空港や港での密入国や密輸を警戒するのは当然の措置だとは思うが、ダンジョンカードを所有している探索者にとって、ダンジョンを使用しての密輸、密入国は自殺行為だと認識しているのだが、ダンジョンカードを取得していない人達にとってその感覚は理解できない事なのだ。
当然、ダンジョンへ入る際はもちろん退室時においても、ダンジョンからの生還の有無を確認するための水晶体に触れなければいけない。その水晶体とダンジョン協会から発行されている探索者カードは連携されていて、ダンジョン内で取得した物を売買する事にも使われるため、必然的にその水晶体に触れる事に為る。
要するに、ダンジョンカード所持者という限定は在るが、探索者カードとそのカードの所持者が本人その人で有るかはすぐ分かる仕組みが確立されていた。この不思議な水晶体の個人認知機能はDNA鑑定より精度が高いと周知されていて、誤魔化す事は不可能なのだ。
密輸に関しても、装備収納や保管倉庫のスキルを使う事の出来る探索者のの感覚として、自分の所有物以外は収納出来ない、ましてや所持している本人が、やましいと感じている物品をダンジョン内に持ち込んだとしたら、どの様な結果になるかは身に染みて分かって居るのだから、保管倉庫を取得した探索者程、不正行為に当たる密輸など出来る訳がないのだ。しかしダンジョンに入った事の無い人達、特にダンジョンカードの不所持者の人達はその不安を拭い去る事が出来ずにいた。
さて我が国日本はと言うと、相も変わらず政党による国政の奪い合いが行われてはいるが、雑賀村はいたって平和である。雫斗達は勉学の合間を縫ってダンジョンでの階層徘徊という素材集めに余念がない。
最近ではダンジョンの各階層や最下層の攻略の依頼を受ける事が多くなってきていた、彼らが周知しているのかは別にして、この国で、いや世界を見渡しても、彼らはトップクラスの探索者であることには違いがない。
彼らは今、東京駅ダンジョンへと来ていた。どこかからの依頼と言う訳では無く、雫斗自身の要望によるものだ。日本で最初に出来たダンジョンに、一度は入ってみたかった事と、その時に雫斗の家族が巻き込まれたダンジョンでもあるので、そういう意味でも彼にとっていわく付きのダンジョンなのである。そのダンジョンにもう一度は入ってみたいと思って居た雫斗の願いに答える形でSDS(雑賀村ダンジョンシーカー)のメンバー全員で来たのだ。
斎賀村のダンジョンから直接都心のダンジョンへと移動したい所なのだが、未だに都心部のダンジョンコアを支配下に置いた探索者はいない。仕方がないので一番都心に近いダンジョンへと飛んで其処からは既存の交通手段である電車を使って移動して来たのだ。
「此処がマスターが最初に入ったダンジョンですか?」と隣で見上げるクルモが聞いてきた、ゴーレム型アンドロイドのクルモは、雫斗の使い魔的な位置づけなのだが、意図せず虚無空間に迷い込んだ事によって今の体を手に入れたのだ、その姿は雫斗の5年前の幼い子供の姿かたちをしていた。その肩にはかつて自分の筐体であった蜘蛛の義体がしがみついている、クルモ自身が操作しているのだが、ダンジョン内では先行させての偵察や、迷路然とした洞窟での経路の把握にと重宝しているのだ。
「入ったというよりも、巻き込まれたという方が正解かな。しかし東京駅来にるのは久しぶりだけど、駅舎自体はあまり変わって無いね。周りは凄い変わりようだけど」と考え深げに言う雫斗、正確には5年前のダンジョン生成のあおりで巻き込まれて以来なのだが、東京駅の建物自体は、ダンジョン化したと言っても何ら変わらない、というより建物自体がダンジョンとして成り立っているので、下手に手を加えると何が有るか分からないのでそのまま放置している状況なのだ。
「ここって、日本で最初に出来たダンジョンなんでしょう?。 確か駅舎の建物がダンジョン化して、その周りにも影響が出ているって聞いたけど、それにしても周りの施設が物々しいんだけど・・・」と桃花が不満げに周りを見回して聞いてきた。東京駅ダンジョン自体は駅舎の範囲をそのまま切り取った様に地下へと伸びている、周辺の地下街へと続く通路はことごとく壁に塞がれてしまって移動する事が出来ないのだが、一応無事だとは言える。
そこで駅としての機能は 500メートルほど離れた場所へと再建された。正確には、此処は”元東京駅ダンジョン”と言うべきなのだが、元なしで周知されたこともありそのままの名称が使われているのだ。今ではダンジョンの出入管理と、自衛隊のダンジョン攻略群の大隊規模の人員を常駐させている、その理由は皇居が比較的近くに在る事と関係している。
「その代わり、もしもの時の戦力は十分確保されているということだからね、とはいってもこの日本でダンジョンが崩壊して魔物が大量に出て来た例は無いけどね」と恭平が言う。ダンジョン出現時の時とは違ってダンジョンバーストと呼ばれている現象はここ数年起こって居ない。そもそもダンジョンの入り口を核兵器で塞ぐという無茶な事を仕出かした事への報復だとの見方が一般的で、その後のダンジョンバーストはいまだに起こってはいないのだ。
それでも、もしもの事を考えるとほって置くわけにもいかず、自衛隊の大隊規模の常駐という形で落ち着いた。もしダンジョンバーストが有れば大隊規模の軍隊といえども、焼け石に水では無いが防ぎきれるか疑問ではある。
当初やんごとなき方々を安全な地域へと避難させようとしたのだが、そもそもダンジョンが存在しない、または規模の小さなダンジョンが有る地域と言えば雑賀村の様な僻地にしかない。
何処に避難しようが変わらないと為れば、そのまま皇居で構わないという天皇陛下のお言葉により、取り敢えずはダンジョンからしみだして来る魔物の対処として、駅の周りを整備してダンジョンからしみだして来た魔物が町中に散ばらない様に、駅舎の周りを3メートルの防壁で覆い尽していた。その壁の外側に沿う形で自衛隊ダンジョン攻略群の東京駅ダンジョン駐屯所がおかれ、ついでとばかりにその中に探索者協会のダンジョン入場の受付も併設されていて、今まさに雫斗達は受付を済ませて壁の内側へと入ってきているのだ。
高レベル探索者によるダンジョン内の探索と周りの警戒のかねているのだが、あわよくばダンジョンマスターに至る事によるダンジョンの安定化を期待しているのだ。しかし未だにダンジョンマスターの居ない野良ダンジョンと成って居る、しかも東京駅ダンジョンの全容はまだ解明されていないままなのだ。
雫斗たちは、とりあえず東京駅ダンジョンの正面玄関から入ってみることにした。このダンジョンは建物すべてをダンジョン化したことで階上へも階下へも行くことが出来る。
ほかのダンジョンと違うのはマッピングができないことだ。常に変化していて、それこそダンジョン内に入るパーティ毎に様変わりするのだ。その事が攻略を難しくしている要因なのだが。
「げっっ!!。 初っ端から廃墟って、外れかな?」と弥生がため息を付く。
中に入った一行が目にしたのは、まるで核戦争後の建物の内部の様な、荒廃した佇まいをしていた。店舗内の商品は散乱していて、薄暗い通路には壁がはがれ天井が崩れ落ちて物が散乱している有様だった。まるで争いの後に物品を強奪した様を演出している風景が広がって居た。
当然雫斗達も、東京駅ダンジョンの情報を収集している。ダンジョン内に入る毎に、色々と変わる環境の特性に、荒廃した状況だとだいたいホラー要素が強い。ゾンビやスケルトンが出て来るの良いほうで、死霊系のガイスやグール、ミイラ男や吸血鬼。幽霊やキョンシー、クラック音や何もしていないのに物が動き回るポルターガイスト現象と和、洋、中、韓と国際色豊かに出て来るので、退屈はしないと攻略情報には書かれていたが、雫斗は何かやけくそに書いているのかなと思った事は内緒にしておく。
死霊系と為ると、物理的な攻撃が効きにくくなる。物理攻撃に特化している百花と恭平にとっては相性がとことん悪い、彼女は軽く舌打ちして装備収納に入れてある聖水の数を確認していた。
相性が悪いと言っても、べつに戦えない訳では無いのだ。少しの工夫と、彼女のメイン武器である刀に”加護の付与”と呼ばれる儀式が必要なだけなのだが、チョイと面倒くさいのだ。
その点、回復系の装備と魔法を習得している弥生は余裕そうだ。アンデッドやレイスといった死霊系の魔物は浄化系の魔法やアイテムに弱い、それこそ聖水や回復系のポーションを振りかけるだけで消滅するのだ。
「ふわはははは~~、この迷宮はわっちと弥生の独壇場となろう。見ておれ雫斗、我の実力の程を思う存分振るってやるほどに」とふんぞり返って気炎を吐く御仁が居る。弥生の肩に仁王立ちして腕を組み宣うさまは、可愛い御人形さんみたいで微笑ましいのだが、口を開けば可愛げのないガキと大差がない。
「はいはい、せおちゃんが居るから僕たちのパーティーは全員無事に過ごせています。流石の神様です、ついでに百花の刀と恭平の錫杖に浄化の加護をお願いね」雑言を放つその言葉に、多少辟易して雫斗が答える。
「そのような事、片目を瞑っていても造作も無いわ」そう言って百花の刀と、恭平の錫杖に浄化の加護を授ける。”片目を開けていないと出来ないのかよ”と突っ込みそうになるがそこは自重した。
彼女は、弥生がダンジョンの試練に臨むにあたって対峙した相手だ。自称汚れを祓う女神、瀬織津姫という。その彼女を下しダンジョンマスターと成った弥生は、瀬織津姫を従えているのだが、姫と呼ばれる存在にしては口が悪い、弥生に紹介された時に、妹の香澄が幼い頃に遊んでいた御人形を思い出して何気なく頭を撫でた事に、気分を害したようだ。
当然雫斗の性格上すぐに謝って事なきを得たが、一緒にダンジョンに入っている内に多彩なクルモに対抗し始めて何かとつっかって来るのだ。まーその態度もいやいや期の子供の様で微笑ましいのだが、力のある神様は伊達では無いので、扱いには十分気を使っている雫斗なのだった。
雫斗達は暫く1階フロアーを徘徊して、魔物との戦闘の感触を確かめている。どのダンジョンでも基本的に1階層は弱い魔物しか出現しない。其処は東京駅ダンジョンでも同じなのだ。
しかし階下や階上へと踏み込むと強さのレベルが上がってくる。その上り方が此処では尋常では無いのだ。普通だと階層を進むごとにレベルが一つ上がり、少しずつ強く成っていくモンスターと戦いながら進んでいくものなのだが、この東京駅ダンジョンだけは階層を跨ぐ度にレベルが2倍又は3倍といきなり強い魔物が出現する階層へと変わってくるのだ。しかも階層を跨ぐ度に地形も変化すると来た、そんなめんどくさいダンジョンに入ろうと思う探索者が少ないのもうなずける。
「そろそろ、階層を移動しようか?」と雫斗が提案する。
「そうね、肩慣らしは済んだし、スケルトンやゾンビでも、ネズミやベビだと手応え無いし飽きたわ。もうちょっと倒し甲斐のある相手じゃ無いと気持ちも乗って来ないもの。良いんじゃない」と百花、脳筋らしいお言葉である。
「聞いた話だと、階上でも階下でも変わらないそうだけど、本当かしら。本来なら上の階層は駅のホームが在るのよね?」と弥生。本来の東京駅の駅舎は地上3階で地下は2階なのだが、地下では周辺のビルや地下鉄のホームと繋がっていて複雑な迷路と成って居る。
ダンジョン化した東京駅は、駅舎と2階の広大なホームの敷地をそのまま地下に掘り下げた範囲だけがダンジョンと成って居た。それ以外は無事だったのだが、地下鉄のホームを含めた通路がレンガの壁に塞がれてしまったのだ。
「それなら上の階にしない?。いつも地下に潜って居るから。たまには上に行ってみたいわ」と百花。確かにほとんどのダンジョンは地下にある、高層ビルがダンジョン化して頂上を目指す塔を模したダンジョンは数が少ない。このダンジョンが上がっても下がっても変わらないと為れば、百花の提案を尊重して階上に上がる事にした、本来なら2階には新幹線や在来線のホームが広がっている筈なのだが、上がってみない事には何とも言えない。




