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ダンジョンを探索すると、色々な事が分かるかも  作者: 一 止
第一章 探索 初級編

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第36話  事に重大さの認識のズレが、悲劇の引き金となるのか?

 雫斗が慌ててダンジョンから出てみると、入り口で百花達が待ち構えて居た。その表情からは何も読み取れなかったが、周りの空気が危険だと叫んでいた。


 流石にダンジョンの中に引き返すわけにも行かず、愛想笑いで事を濁そうと試みるも、両脇を抱えられて連行されるにあたって、もはや逃げ場はないのだと悟った雫斗だった。


 しかし彼自身が名古屋支部前のダンジョンを攻略した事実を語って居ない事で、まだ僅かな望みはあると思って居た雫斗だったが。


 「どうしたのかな? 何故拘束されるのか分からないんだけど」


 雫斗の訴えに黙ってスマホの動画を見せる百花。キリドンテが先の戦闘を、動画として配信していたことを知らない雫斗にとって寝耳に水どころか、震度8クラスの衝撃だった。


 「よ、よく出来た映像だね。誰が作ったのかな?」


 まだ誤魔化せると思っている雫斗は、悪あがきを続けようとしたが、しかし百花達のジト目を前に観念する。


 「い、一応言っておくけど、完全に事故だから。ダンジョンを攻略しようと思って入った訳じゃないからね、向こうが勝手に攻略の試練を強要して来ただけだからね」


 雫斗は、一方的に向こうが悪いと訴えるも、事情を知らない百花にはどうでも良い事ではある。問題は雫斗が行っていた空中での高速移動の事を、百花達に黙っていた事なのだ。


 「そんな事はどうでも良いの、何故黙っていたの?」


 のんけんな態度の百花の意図が掴めず疑問を抱えたまま雫斗が「何かな?」と聞くと。


 「あの空中高速機動の事よ。何故教えてくれなかったの?」


 百花達にとってダンジョンの攻略は今の所どうでも良いのだ。いや、そう言うと語弊がある、いずれは自分達も雫斗の様にダンジョンを攻略して、ダンジョンマスターとなる事に憧れはあるが、それは今では無い。


 雫斗の様な無謀を通り越して命知らずの無茶な事を真似ようとは思っていない、猪突猛進気味の百花ではあるが、結構堅実的な考えをしていた。


 それは弥生や恭平も同じなのだ、では何に憤慨しているかと言うと、身体能力の向上にあたって仲間内で内緒にしていた事に腹を立てているのだ。


 今更ダンジョンの主人となった雫斗を、拠点空間を構築した彼を羨んでも、どうしようもない事は分かっているのだ。  では何をすれば良いのか、悩んだ挙句導き出した答えは、自分達の能力の向上だ。


 身体能力を鍛える事、新しい技を覚える事ならば、今までやって来たことの延長線上にあるので分かりやすい。

 雫斗がして来た事を本人から聞いたり見たりしてきたが、同じ事をしていたら命が幾つあっても足りはしない、百花も死にたくは無いのである。


 「ああ? あれは出来たら良いなぐらいのつもりで練習していたんだ。火事場の馬鹿力ってほんとだね、実戦で出来ちゃうんだから、驚いたよ」


 と呑気に話す雫斗、しかし周りの状況を把握していない辺り、まだまだ未熟である。


 「そう? 訓練はしていたのよね」


 百花の底冷えのする声のトーンから”これはまずい”と思った雫斗は


 「訓練だけ。訓練だけだよ、まだ始めたばかりだし、ようやく形になり始めたばかりなんだ」


 慌てて言い繕う雫斗に笑顔を向けて話しかける百花。

 

 「そうなのね。その訓練に、私達も参加しても良いのよね」


 まじで、脅迫じみた要求に完全敗北した雫斗だったが恭平からある提案があった。


 「雫斗がしている訓練って、雫斗の拠点空間の中でやっているんだよね。ダンジョンの中で出来ないものかな? いちいち雫斗の確認を取らないと入れない場所だと不便だし、雫斗も大変だからね」


 恭平の提案に弥生も両手をあげて賛成する。 


 「そうね、いつでも気軽に鍛錬できるなら、ダンジョンも悪くは無いわね」とダンジョンを魔改造しろと迫ってくる。


 確かに斎賀村のダンジョンは、雫斗が攻略して3階層(実質5階層)迄の制限があるとはいえ、好きな様に作り変える事ができると、キリドンテから言われていたのだ。しかしその事を探索者協会に秘密にする事を決めた時点で、できる事は限られてくる。


 そもそも作り変えてしまえば秘密にしている意味が無くなってしまうので、そのままの状態で放置していたのであった。


 「えっ? ダンジョンを本当の意味で攻略できる事は秘匿するんじゃ無かったの?」


 あの動画は、仲間内で見て居ただけだと思っている雫斗は、ダンジョンを改造することが当たり前の様に話す百花達に違和感を覚えた。


 「貴方の攻略動画を見て居たのは私達だけじゃ無いわ、当然貴方のご両親とミーニャも見て居たし、斎賀村の長老達も見ているわね、極め付けは荒川さんも見て居た事ね」


 百花が淡々と話すがこれは緊急事態では無いか? 逃げ場のない雫斗は何処に連れて行かれるのか? 嫌な予感がしてきた雫斗が怖々聞いてみた。


 「荒川さんが見ていたって事は、もしかしてダンジョン攻略の事を報告しているって事? 大事に成って居るんじゃ無いの?」


 今更感は有るが、荒川さんが配信された動画を見ていたことを、知らない雫斗にとって、その後の展開に考えが及ばない事は当然ではある。

 そこで百花は、雫斗を探索者協会名古屋支部まで連行していく道中で説明する事にした。


 「いい事。貴方がダンジョンを攻略して支配下に置いている事は、もはや隠しては置けないわ、その事は村長も承諾済みよ。だけどあなたの拠点空間の事は、絶対に知られるわけにはいかないの、その事は覚えておいてね」


 探索者協会名古屋支部の入り口に着いた事で、百花が念押しして来た。要はダンジョンを攻略している事は隠しおおせないが、雫斗の拠点空間に関しては本人が白状しない限り隠しておけるのだ。


 建物の中に入ると、すぐさま支部長室へと通された。その部屋で待っていたのは支部長と荒川さんの他、数名の人が座っていたのだ。


 取り敢えず、SDS(雑賀村ダンジョンシーカー)のメンバー全員が部屋に招き入れられた事で、圧迫尋問の恐れは無くなった事にほっとした雫斗だったが、世間と言うのは思惑道理に事が運ぶ訳では無い。


 紹介された人の中に、日本探索者協会の理事長と統括副部長という肩書の人がいて雫斗達に紹介された、どうやら視察に来ていた様なのだが、運が良いのか悪いのか、たまたま雫斗が名古屋支部前ダンジョンの攻略をしたタイミングとかち合ってしまったのだった。


 「改めて自己紹介をしようか。私は日本探索者協会の理事長をしている田中 浩平 と言う者だ。隣は統括本部の副部長の一人で中倉 健吾、後ろに控えているのは中倉さんの秘書で吉川 久美と言う」


 中央に控えていた初老の人物がそう答える、雫斗達に初対面の人物を紹介したのは名古屋支部の支部長の菊村だが、この中で地位が一番高いのは間違いなく彼であろう、その証拠に荒川さんが委縮していた。


 「さて。荒川君から大まかな話は聞いたが、あまり要領を得ない物でね、当事者の話を聞かせてくれんかな?」


 そう言って、含みのある笑顔を雫斗に向けてくる。雫斗もこの初老の人物に何処か見覚えが在るが思い出せない、しかし黙って居る訳にもいかず取り敢えず今までの経緯と今日の出来事を大まかに話した。


 当然自分の拠点空間の事は話さないが、ダンジョンを攻略したとしても基本的なダンジョンの機能は変える事が出来ず、1層から5層までが自由に出来る程度の話なのでそこは正直に話した。


 「驚いた話だ。制限があるとはいえダンジョンを作り替える権限を有するなど信じられん、しかもダンジョン間での移動も自由に出来るようになると言うのかね?」


 そうなのだ、一番の利用価値として、攻略したダンジョン間での移動があげられる。要するにダンジョンカードを所有していると、ダンジョンマスターの許可が在れば誰でも自由に利用できる事だ。地球上(厳密には太陽系)の何処へでも無料でしかも輸送費もゼロで移動できるのだから人類にとっての価値は計り知れない。


 「しかしそうなると、その利用価値の有る施設を個人で所有しているのは問題では無いですか? 協会や国が管理するべきでは」


 そう言ってきたのは統括副部長だと紹介された中倉という人物で、雫斗が話している間、苦虫を嚙み潰した様な顔をしていた人だ。


 ダンジョンを施設と宣う辺り勘違いも甚だしい、この人はこの状況を理解しているのだろうかと雫斗は心配になった。


 この様な人が探索者協会の重要なポストを務める事が出来るとは到底思えないのだが、彼自身は当然の職務だと思っている様だ。


 どうやら収益の匂いをプンプンさせている、ダンジョンの利用と言う価値に思いをはせている様だ。しかも所有しているのが年端もいかない子供とあっては、此処は大人が権限を持つのが当然と思っているのだろう。


 「それは無理がある、個人の所有している物を、しかも人類の英知の及ばないダンジョンを委託を受けて管理を任されるならともかく、取り上げる事など出来んよ、いかに国の権力を以てしてもね」と田中が中倉の意見を断じる。


 其処は雫斗とダンジョンマネージャ達との契約の上でのダンジョンマスターとしての権限であり、国や協会が介入する事など出来ないのである。その事を理解できる人間と出来ない人間では思惑の違いが有り、未だに問題が途切れないのは事実なのだ。


 田中と中倉がその事で意見をぶつけ合っていると、受付から来客が有ると伝えられた。


 田中と中倉が、ダンジョンの所有権の問題で論説を戦わせている中、客人を中に通す様にと、名古屋支部長の菊村が答えた。


 暫くして、受け付けの女性に案内されてやって来た客人が支部長室へ入る。中に入った悠美は、探索者協会の理事長の田中と統括副部長の中倉が居ることに多少驚きはした様だが、何食わぬ顔で言った。


 「あら?。 協会の理事長と統括副部長までいらっしゃるなんて、偶然にしては出来すぎて居ますね」とにこやかに話しかけた。


 「何、ダンジョン関連で新しい通信手段の発見があったと聞いてね、その事を直接聞きに来たのだよ。ついでに視察で各地を回っている最中でね。それよりも・・・。いや驚いたな、あの小さかった子供が今やダンジョン攻略の最前線に居るとは、私も歳をとるわけだ」


 と悠美に笑顔で話しかける田中だった。その口調は穏やかで、悠美と雫斗を知っている様な口ぶりだった。


 「あれから5年ですもの。ほら雫斗、覚えていない? 東京駅でダンジョンに巻き込まれた時に、あなたと同じくらいの年の女の子といた人よ」


 そう言われてようやく思いだした。最初のダンジョン発生時に雫斗の家族と共に、とある店舗を拠点に救助が来るまでの間、魔物の脅威を退けていた老人だ、あの頃よりだいぶ若返っていて気付かなかった。


 ただのモップの棒で昆虫のモンスターの硬い外皮を突き破って倒していたのを、ただただ驚愕して見ていたことを覚えている。


 その凄まじさに周りの人がどうやっているのかと聞いていたが、「これが剣の極意だ」の一言で済ませた偉人である。


 「ああ!。 あの時の剣術のお爺さん、あまりにお若いから分かりませんでした。あの時は助けてくれて、あ有難う御座いました」と改めてお礼を言う雫斗に。


 「なに、わしより君のお父さんの方が奮戦しておったよ、そこの荒川君と共にね」と荒川さんに話を振る。


 話の矛先を向けられたの荒川さんは、目を大きく広げて素っ頓狂な声を上げる。


 「ええええ? あの可愛かった子が雫斗君だったんですか。うわ~~世間って狭いですね。全然わかりませんでした」


 「荒川 優子?。 もしかして雫斗達をオーガから救ってくれた高レベルの探索者って優ちゃんだったの? ”高レベルの探索者のアラカワさん”としか聞いてなかったから、男の人かと思っていたわ。改めてお礼を言わせてね、息子を助けてくれてありがとう」


 そう改まって言われて慌てて言葉を返す荒川さん。


 「あっ。いえ、あの時は緊急時のクエストでしたし、私が居なくてもあのオーガは倒して居た様な気がしなくも無いというか。とにかく御礼ならあの時に受けているので大丈夫デス」


 何が大丈夫なのかは分からないが、多少支離滅裂では有るが悠美のお礼の言葉は受けてもらえた。


 そんなほのぼのとした雰囲気を壊す様に、顰めっ面した理事が言葉を投げかけた。


 「久しぶりで懐かしむのは後にして、そろそろ本題に話を戻しませんか?、 私としては重要な案件を秘匿して居たことに問題があると思うのですが」


 そう言って、副部長の中倉が問いただす。確かにダンジョンを私物化できる事を秘匿して居たが、其れは一時的な事でしか無い。


 そもそも、探索者協会に必ず攻略情報を報告するという決まりは無い。


 ダンジョン攻略関連の報奨金は、最初に報告した人が受け取る権利がある。


 ただその一点で、見つけた攻略情報は早めに協会に報告した方が、報奨金の取得に有利だから情報の開示は義務の様に思われているが、別に秘匿して居ても問題はない。


 「あら。ダンジョンの攻略情報は個人で秘匿して居ても問題は無いはずです。そもそも情報の開示は義務でもなんでもない。違いますか?」


 悠美に堂々と言われてますます渋くなる表情の中倉は黙り込む。


 「まず最初に。斎賀村のダンジョンを本当の意味で攻略する事が出来た事について、報告が遅れた事ですが。3層しかない特殊なダンジョンという特異性が原因ではないかと思われていたからで、検証するにも同じダンジョンが少ない事が足枷となっていた事。また攻略する為には一人で戦う事が条件だった事が挙げられます。はっきり言いますが、年端も行かない我が子をその様な危険な事に従事させる事は承諾出来ませんので」


 悠美はそう言って正当性を強調する。確かに斎賀村のダンジョンを雫斗が掌握した事は思いもよらない事ではあったが、遣ってしまった事はどうしょうもない。


 しかし、雫斗の思惑は如何あれ、危険なダンジョンの攻略を、雫斗にもう一度お願いする事は、親として断じて承諾できる事では無かった。


 「第2に、本来は最下層にあるオーブの間のガーディアンを単独で殲滅した後に、迷宮の試練を受諾するかの選択があると言う事でしたので、雫斗も50階層以上あるダンジョンで、たかだか3階層を探索していて迷宮の試練に巻き込まれるとは思っていなかったった様です。要は今日の出来事は完全に事故の様なものだと聞いています」


 当然悠美は、探索者協会名古屋支部に向かっているヘリドローンの中で、雫斗と電話である程度の打ち合わせをしていた。ただ理事長と統括副部長の二人が居る事は予想外だったが、中倉はともかく、事長の田中は話の分かる人物だ。この事で話が抉れる事は無いと悠美はある程度確信していた。


 「しかし、有益な情報を敢えて秘匿するとは、支部を任された者として、その行動は不適切だと言わざるを得ない。私は彼女の斎賀村支部長からの解任が妥当だと思いますが如何ですか理事長?」


 悠美の探索者協会の支部長からの解任の話が出て雫斗は驚いた。そうなると”大事になったな”という話だけでは済まない。


斎賀村の探索者協会の支部長が変われば、雑賀村のダンジョンの運営方法も変わるだろうし、斎賀村の住人とうまく折り合いが付けられれば良いが。


 雫斗の心配を他所に悠美は解任の話を鼻で笑った。


 「面白い事をおっしゃいますね。ダンジョンは存在している地域の管理下にあります、いわばその地域の財産です。その財産を探索者協会が強奪すると言うなら斎賀村の長として探索者協会との契約を破棄しなければいけません。副部長それでよろしいですね?」


 「まぁ、二人とも落ち着きたまえ。確かに探索者協会の支部長は本部からの派遣か委託のどちらかではあるが、ダンジョンがその地域の所有である事も事実だ。中倉さんもこれだけは理解して欲しいのだが。我々協会はダンジョンを取り巻く環境を、より良くする事に尽力する。その為に設立された機関だという事を」


 そう言って諭す様に話す田中理事長なのだが、思惑というのはどちらに重きを置くかによって変わってくる。


 「当然です。ですからこれ程の有益性と利便性に優れたものを、一個人の所有とする事に問題があるのです。何か大きな組織の枠組みの中で活用する事で、より豊かな社会を作り出せると考えたからこそ、探索者協会への譲渡を推奨しているのです」


 中倉理事はダンジョンマスターの権限を譲渡する事ができると当然の様に話すが、其れは無理な話だ。


 そもそも、ダンジョンマスターの称号はダンジョンを攻略した褒賞で、そのダンジョンの管理者たるダンジョンマネージャと交わした誓約の証なのだ。


 その証をおいそれと他者に譲り渡すなできはしない。もし仮にそのような事が起こったとしてらダンジョンの創設した何者かが激怒しかね無い行為なのだから。


 「そもそもの話、ダンジョンの権限を譲渡できるものなのか? 話は其処からでは無いのかね。しかしダンジョンの管理者とは何者なのかね? ダンジョンを設置した人物と考えて良いのかね?」


 そう言って疑問を投げかけてくる、田中理事長。その疑問に答えようとした雫斗だが、中倉副部長が邪魔をする。


 「ダンジョンからの取得物に関して譲渡できないものは有りません。おそらくダンジョンマスターの権限も譲渡できるものとして考えるのが妥当だと思いますが」


 そう言って先制を掛けてくる、どうあってもダンジョンの管理を協会もしくは国で行いたいとの思惑がにじみ出ていた。


 「待ちたまえ。私が聞いているのは雫斗君であって君ではない。ダンジョンを管理する権限の譲渡に関して憶測で話を進めてはいかんよ。・・・で、如何なのかね?」


 田中理事長は中倉副本部長が考えている事に異議を唱えて、雫斗に改めて尋ねたのだった。


 「ダンジョンマスターは称号であってダンジョンを作り替える権限はその付属でしかないと、キリドンテ・・・雑賀村のダンジョンマネージャがそう言ってました。称号は譲渡できませんので」


 それを聞いて頷く田中、最近まではⅮカードで自分の称号を確認する事が出来なかったのだが、鑑定のスキルを取得した事で自分のステータスを知ることが出来るようになったのだ。


 かく言う田中も理事長という忙しい責務の中、暇を見つけてはスライムの討伐を行っていた、いわばスライム狩りのお仲間である。


 「確かに、自分の称号を他人に受け渡す事など出来はし無いな」と納得する田中本部長。


 「ダンジョンから取得した石板からの情報だったとしても、ダンジョン攻略を本当にできる人物が出てくるとは思わなかったぞ。しかもジャイアント・キングスライムを倒してしまうなど驚愕を通り越して、呆れるばかりの強さだな」


 そう言って首を振る田中。そうなのだ、何故雫斗の話した内容を皆が信じているのかと言うと、ダンジョンがからもたらされた石板にその内容が書き記されていたからなのだ。


 しかし其れは不可能だと思われていた、15階層以上のダンジョンの最下層にいる、オーブを守っている強力な魔物を単独で倒すなど不可能に思えたからなのだ。


 しかし其れがダンジョンを攻略する為の最低条件だときている、フルパーティーでも倒すのに四苦八苦しているのに、単独でのオーブの守護者の討伐となると夢のまた夢だと思われていたのだ。


 だが雫斗が鑑定のスキルや保管倉庫のスキルの取得の仕方を発見し、あまつさえ接触収納の能力を攻撃へと繋げた事で、何とかなりそうな気配はあった、だが実際に単独でのダンジョンガーディアンの討伐までして退けて居るとは思っても見なかったのだ。


 「裏を返せば、そのダンジョンマネージャなる人物の助成が有れば、協会がそのダンジョンを管理統括する事が叶うという事ではないですか?。キリドンテなる人物との交渉を我々は優先して行わなければなりません、当然雫斗君は協力してくれますよね」


 と中倉は、雫斗が協力するのが当然だと言ってくる。


 「その事に関して雫斗はまだ未成年です。話し合いは親である私を通してもらいたいですね。雑賀村のダンジョンマネージャーのキリドンテさんと直接交渉する事は無理ですね、そもそも会う事が出来ませんし、彼は息子の雫斗の言う事しか聞いてくれません。中倉理事の仰る協力とは、無償でダンジョンを使用する事でしたらお断りいたします。ダンジョン間の移動に関しても無償とはいきませんし、作り替えたダンジョンを年間を通してどの程度使用するのか見当もつきませんから、最初は年間契約として随時更新していくという事で如何でしょうか?」


 悠美はさっそくダンジョンの使用に関する取り決めを話し始めた。最初が肝心とばかりに無償での使用に関してNOを突き付ける、探索者から徴収しているダンジョン税に関して新たな制度が求められてきそうなのだ。


 どの道、最終的には探索者協会の理事会とダンジョン庁の議題にかけられる案件で、決定稿が出来上がるのは、どんなに早くても2・3か月はかかる見通しだ。


 取り敢えず、探索者協会の理事長に統括副部長、探索者協会の支部長が二人と高レベルの探索者が居る事が功を奏した。最低限の体裁が整っている事で、取り敢えず攻略済みのダンジョンで何が出来て何が出来ないのかの検証を、雑賀村支部のダンジョンと名古屋支部のダンジョンで試して見ると言う事で折り合いがついた。


 斎賀村へ帰って行く一行を見送りながら田中本部長は独り言ちる。


 「いやはや、最近のダンジョン関連の情報最新の凄まじさには驚きだね。ここ4カ月でここ迄で変わるとは思いもしなかったよ、これからの事が楽しみでしょうがないね。 所で中倉君、私は此れから大阪支部と福岡支部へと赴くが、予定通りに君も来るのかね」


 「いえ、ダンジョンの攻略者が出た以上、此れからの事を考慮しなければなりません。私は本部に戻り、ダンジョン使用に関しての、新たな取組について協議しなくてはなりませんのでこれで失礼します」


 そう言って中倉副本部長は秘書の人を携えて出ていく、その後ろ姿を見ながら田中理事長はため息を付く。


 ダンジョンを恐れている人は、この世界たくさん居る、現在の人口の半分以上は居るだろう。


 彼もその一人だろう、その様な人物が探索者協会の重要な職にあるには訳がある、年齢を重ねている人ほどダンジョンからの帰還是非を問うの水晶の色が赤いのだ。


 それは仕方のない事だと田中は思う、人は年齢を重ねるごとに業を貯めていく、社会生活を営む上で、清廉潔白な人など存在しないのだ。


 特に都会では顕著で実に市民の8割以上がダンジョンの浅い階であっても試金石で否を突き付けられているのだ、かく言う田中もその一人だと思っている、しかし今現在田中は20階層に行くことが出来る。そこ迄降りてもダンジョン帰還試金石の色は青色をしているのだ、それはダンジョンが彼を受け容れたからだと田中自身は思っているのだ。


 田中は5年前のダンジョン発生のあおりでダンジョン化した東京駅に取り込まれた、その時は思い至らなかったが、魔物と戦い必死な思いで無事に地上に帰還できたことで自分自身のため込んできた業が取り除かれたのだと確信していた。


 ダンジョン帰還試金石の色が赤の人でもダンジョンに入る事はできる、ただ帰って来る保証がないだけの話なのだ。


 事実、少数では在るが試金石の赤い人でもダンジョンに入り無事帰還できた人はいる、その人の話では尋常ではない魔物に襲われて、もう駄目だと死ぬ思いで必死にあがいて生き延びてきたのだ訴えていた。ダンジョンから帰還できたそういった人達はまるで人が変わったかの如く性格や生きざまに違いが出て来たと、その人の知り合いが証言している。


 誰であれ、ダンジョンに挑む以上は命の危険が付きまとう、そこに勇気で打ち勝つか逃げ出すかはその人次第なのだから。



 名古屋支部の屋上のヘリポートから最寄りの駅まで移動しているヘリドローンの機内で、考え込んでいる中倉に秘書の吉川が話しかける。

 

 「如何なさるおつもりですか?」


 「ダンジョンを個人で所有するなどもってのほかだ、有っては為らん行為だよ。・・・・そう、その様な事態は許されんのだ、いや許してはいかんのだ」


 そう呟いて、中倉は深い考えに落ちていく。吉川もそれ以上聞くことも無くヘリドローンの羽の風を切る音だけが沈黙に華を添えていく。





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