第一話 - 売れないけど仕入れる
◆◇ 駅前にて
「マツボックリいかがですか〜♪一個一万円〜」
夜の駅前で青年が一人、マツボックリを売っていた。
両手で木箱を抱えて、そこには十個ほどのマツボックリが並んでいた。
「マツボックリいかがですか〜♪一個一万円〜」
帰宅途中のサラリーマン達は誰ひとりとして足を止めず、きっと何人かはこのマツボックリを売っている珍妙な青年に冷ややかな好奇心を持っているんだろうけれど、つとめて誰も目を合わせないようにして家路に向かうのだった。
(ダメだ、今日も一つも売れなかった……)
青年はトボトボと事務所に向かった。
◆◇ 事務所にて
青年が帰ってきたのは、マツボックリを販売する個人事業者が活動拠点とする事務所だった。
拠点機能としては個人事業者たちの情報交換、およびマツボックリの仲卸。
都心ではマツボックリの仕入れが困難なので、みんなここで良質なマツボックリを仕入れて駅前で販売するってわけ。
ちなみに事務所って呼ばれてるけど法人なのか、法律的にどういう立て付けになってるのかは不明。
事務所にはチンピラ風の男性が、机の上に足を組んで煙草をふかしていた。
チンピラ風っていうかチンピラだった。
青年はチンピラに頭を下げて挨拶をした。
「リーダー、お疲れ様です〜」
「おうお疲れ!今日どうだった?」
「すみません。本日の販売実績、ゼロ個です。」
「てめえコノヤロウ!今日もゼロかよ!!」
「先月に引き続き今月も通算ゼロですよ。ヤバイですかね…」
「いいけどよお前、仕入れどうすんの?」
「在庫あるのでまだしばらく大丈夫です〜」
「大丈夫じゃないでしょ、売れないってことは商材がマズイんじゃないの?」
「僕のはどれもこれも最高のマツボックリですけど」
「それ決めるのはお客様だからね?今日ちょっと仕入れていきなって!」
「……わかりました〜」
青年はバックヤードからマツボックリボックスを運び出してきて、リーダーの前で選定を始めた。
ボックスの中には無造作に数百個のマツボックリが入っており、良いものもあれば悪いものもある。
青年は三十分かけて二つのマツボックリを選び出し、リーダーに仕入れ代として四千円を支払った。
「はい四千円ちょうど、ありがとね、売れなかったマツボどうする?回収しようか?」
「あ〜いえ、売れなかったけど良いヤツなので家に持って帰ります。ありがとうございます。」
「そう、じゃあお疲れ。」
「お疲れ様でした〜。」
青年は軽くなった財布に心を痛めながら、トボトボとした足取りで家路についた。




