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昔飼ってた犬がイケメン男子高校生になって会いにきた話  作者: 原香織
第一章 謎の男子高校生との出会い
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第4話


残業が終わり、葉月は朱里より先に帰らせてもらえることになった。腕を伸ばし解放感に浸りながら外に出ると、噂の彼はまた前と同じ場所に立っていた。少し離れた場所でも、彼はやはり整った綺麗な顔をしていることが見てわかった。


 あれから二時間は経つと言うのに、よくずっと同じ場所で待っていられるな。きっと彼好みの人がいなかったのかもしれない。でも、仮にそうだとしたら、早々に見切りをつけて、ナンパをする場所を変えると言う手もあったのではないか。そうしなかったと言うことは、何か他にここで待つ理由があると言うことなのだろうか。


 いろいろ考えを巡らせたが、彼に関わるのも面倒なため、葉月は見なかったことにしてその場を立ち去ろうとした。


 その瞬間、彼を見つけたことに動揺したのか、葉月は足元にあった段差に気づかず、足を踏み外した。


「うわっ」


運悪く地面に着地した時に右足首を捻り、葉月は前に倒れた。


「いったあ……」


「大丈夫ですか?」


 彼はすぐに葉月の近くに来た。


「だ、大丈夫。これくらい平気だよ。心配しないで」


葉月はすぐに立ち上がろうとしたが、右足首に激痛が走って立ち上がることができなかった。


「無理に動かしたら駄目ですよ」


こんな状況にもかかわらず、彼は冷静に片膝を立ててしゃがみ、葉月の右足の状態を見始めた。今日の葉月の服装は、スカートとベージュのストッキングと言う組み合わせだったため、すぐに足の状態が見れた。


「腫れてますね……」


「このくらい本当に大丈夫だから、気にしないで」


 葉月はまた立ち上がろうとすると、痛くて右足を動かすことすらできなかった。


彼は制服のジャケットから素早くスマートフォンを取り出すと、「ちょっと今から近くの病院探しますね」と言って、真剣な顔で病院を探し始めた。

間もなくして、「近くにまだ診療中の病院がありました。今すぐそこに行きましょう」と彼が言った。

戸惑っている葉月を余所に、「失礼します」と言って、彼は葉月を軽々とお姫様抱っこした。


「ええっ、ちょっと待って」


 葉月が言うことを気にも留めず、彼は病院に向かって進んだ。


どうしよう。この状況を会社の人に見られていたらとても恥ずかしい。でもそんなことより、体重いとか思われていないだろうか。心配になった葉月は彼に訊いてみることにした。


「あの、私大丈夫? 重くない?」


「全然、むしろ軽いですよ。だから気にしないでください」


 実際、彼は余裕そうに見えた。


葉月はお姫様抱っこをされながらも、彼のその堂々とした態度と素早く無駄のない対応に驚嘆した。


 最初彼に出会った時は、ただのナンパをしてくる軽薄な男なのかと思っていたけど、案外そうでもないのかもしれない。


 病院に到着して診察をしてもらっている間、彼は待合室で葉月のことを待っていた。


「軽い捻挫ですね。しばらく安静にしてください」と診察を終えた先生が葉月に向かって言った。


その後、患部を冷やしたり、テーピングを巻いたり、いろいろ処置をしてもらった。


全ての処置が終わると、葉月は立ち上がって歩けるようになり、自分の足で待合室に戻った。会計を済ませると、彼は歩きづらい葉月を補助してくれたため、葉月は問題なく病院の外に出ることができた。


「あの、さっきはここまで連れて来てくれてありがとう。本当に助かった。それで、何かお礼がしたいんだけど」


「別にお礼なんていいです」


「でも……」


「本当に大丈夫ですから」


このままでは埒が明かないと思った葉月は、ひとまず話題を変えることにした。


「あ、そう言えば、さっき会社の前で誰かを待ってたんじゃないの? ここまで来て大丈夫だったのかな?」


「いや、誰かって言うか、俺が待ってたのはあなただけです。この前だって、あなたと友達になりたいって言いましたよね。声をかけたのは誰でもよかったわけじゃないです。あなただから友達になりたかったんです」


彼の顔は真剣そのものだった。


「━━私だから?」


「俺、あれからいろいろ考えたんですけど、やっぱり諦められません。しつこいかもしれないですけど、お願いします。友達になってください」


 彼は深々とお辞儀をした。


「あの、だから何で私なの?」


「それはまだ言えません」


「何で?」


「何でもです」


 理由を答えない彼に、葉月はもどかしさを感じた。


そんなのずるい。気になって仕方ないじゃないか。しかし彼が答えないと言うのだから、これ以上追求するわけにもいかない。


とうとう観念した葉月は小さく息をつきながら、

「もう、そこまで言うならわかったよ」と言った。


「本当ですか? よかったー」


 彼は安心したように笑っていた。


 本当に物好きな人だ。一体自分の何が気に入ったと言うんだろう。でも、彼と友達になることで助けてもらったお礼ができるなら好都合だ。


 葉月と彼は連絡先を交換して帰路についた。


 ☆

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