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バチバチ

 天野と別れて帰宅すると、杏からグループメッセージの誘いが来ていた。


『杏さんがアナタをフットサル大会に招待しました』


 凄く安直な名前のグループであった。まあ、この大会までしか活動しないグループ名なんてそんなに凝っても仕方ないのかもしれない。


【孝明が参加しました】

孝明『輪村孝明です。よろしくお願いします』

杏 『参加してくれてありがと! よろしく!』


「うわ、誰だよコイツ……」

 杏と表示された謎の人物がグループメッセージで俺に返信してくれている。『!』マークなんて俺の知っている杏は使わない。

 杏の返信の後にチラホラ返信がそれぞれ「よろしく」といった内容を送ってきてくれている。いつもいるクラスの五人以外にも何人か名前がある。どれも知らない名前ばかりだが、他クラスの奴らも混ざっているのだろうか?

 女子の名前も結構な数があるのだが、夏休み前の他クラス合同の交流会みたいな感じに計画された企画なのかもしれない。


天野『ほんじゃあこれで全員かな? 日程は今週の日曜日だからね』

天野 ガンバロースタンプ


 どうやら俺が最後のメンバー加入だったようだ。今週の日曜ってもう残り三日というギリギリのタイミングだから、そうだとは思っていたが。

 皆が思い思いのスタンプを送る中、最初ある公式スタンプしか持っていない俺は、この流れを見送る。元々、最初の挨拶以外に発言する気はないのだが。

 というか、さっきの発言からみて天野が仕切っているのだろうか? このグループはてっきり木藤がリーダーだと思っていたが、まとめは任せているという感じだろうか?

 しかし、メンバーに参加するのはいいとして、完全アウェイの中、俺はどう立ち回るか考えなければならない。サッカーの試合の立ち回りではなく、グループ内の立ち回りを。杏も助け舟くらい出してくれるかもしれないが、天野が俺達の関係を怪しんでいる。下手に近付いたらまた変に勘ぐられてしまう。

 何か疑いを持っている事を杏に言うなと天野は言ったが、杏が不審がって気まずくなる事を防ぐためなのだろうか?

 

環 『ちょっと明日の放課後いい?』


 環がメッセージを送った通知が来ている。

「……ん? 個人?」

 通知を良く見ると、環はグループではなく、俺、個人にメッセージを送っている。

 グループメッセージのメンバー画面から俺の連絡先を入手したのだろうが、一体、クラスのマドンナ様が俺に何のようだ? ……放課後と言っているのは、他の人達に聞かれたくない話という事だろうか?

 聞かれたくない話、放課後に呼び出し……告白か?

 ちょっと天野と話せたくらいで浮かれ過ぎかもしれない。それに、環は山内の彼女……だからこそ聞かれたくない話か? 

 俺は天野の事が好きだ。でも、もし環から告白されたら、俺はどうする……?

「いやいや、ないない」

 馬鹿バカしい。そんな夢物語あるわけない。というか、山内とそんなドロドロな関係を築きたくはない。目立つのはもう勘弁である。

「…………」


【環を友達リストに追加しました】

孝明『はい、大丈夫です』


 まあ、モテ期への期待はしないが、環の話は聞きに行くべきだろう。

 それにしても、同級生でしかもクラスメイトに向かって敬語を使うっているのが自分の対人能力の低さを表してるように思えた。


環 『じゃあ、校舎裏で待ってる』


 そのメッセージを受けて校舎裏で待っているのだが、環は姿を見せない。しかし、校舎裏なんてウチの学校では本当に人が来ない場所だ。用がある人間なんてまずいない。

本当に人に聞かれたくない話なのだろう。

しかし、環は来ない。ホームルームは一緒に終わっているはずなのだが。

まさか、告白に見せかけたドッキリか? 俺がここに何時間も待っている事を面白がって誰か隠れて見ているか、カメラでも仕掛けてあるのではないだろうか。ついにイジメの標的にされるほど俺はクラスの中で浮いてしまったとうい事だろうか?

 俺とやりあうというなら相手してやるよ。鍛え上げられたメンタルを舐めるなよ?

「ご、ごめん輪村君! 待たせちゃって」

 イジメに対してどう対処するか考えていた時、環はちゃんと約束通りに校舎裏まで来てくれた。どうやら、イジメの線はなくなったのだろうか。

「い、いや。大丈夫だけど?」

「そうありがと。それじゃあ回りくどい事は苦手だから担当直入に言うけどさっ!」

「っ!?」

 急に体を強く押されて校舎の壁を背もたれに尻餅をついて倒れる。そのまま環は、すかさず――ドンっと、両手を俺の顔の横に置いた。

 環の綺麗な顔が近くにある。女子から壁ドンをされた、それも両手ドンで。

「な、なに?」

 怯えていた。男のくせに。状況の理解出来ない俺は怖くて仕方なかった。上から見下ろすように俺を見る環。これがほとんど初対面で初対話と言えなくない相手なのだが、

「ねえ輪村」

 あれ? 呼び捨て?

「フットサルに来ないで貰えるかな?」

「えっとー?」

 フットサルに来るなって急にどうして? いや、確かに環だけは少し微妙な反応を示していたけど。

「アンタみたいな不穏分子がいると私が作ったグループの秩序が乱れちゃうのよ」

 不穏分子ってクラスメイトに使う言葉か? というか――

「私が作ったグループって?」

「分かるでしょ? 大輔のグループよ」

 杏も天野もいる、いつも俺の目の前でキラキラしているあのグループ。

「何でか知らないけど杏がアナタを誘っちゃったのよね。そこにウキウキしながら入ってきて、何なのアンタ?」

いや、何なのは俺が言いたいんだけど。

「別にウキウキなんてしてねえよ。ドギマギしてんだよコッチは。人見知りで、上手く喋れるか心配で既に胃がキリキリマイマイしてんだぞ?」

 ウキウキなんて言うから、俺も擬音語が口から出てきたけど、伝わっただろうか?

「なら別にいいでしょ? 体調不良とか言って休みなさい? 私達のチームは経験者がいないだけで人数が足りないわけじゃないもの」

「お前に頼まれても抜けられない止むに止まれぬ事情があるんでね」

 少しずつ環の相手にも慣れてきた。仮病なんて使ってもどうせ杏にすぐバレてしまう。

「あっそ、別にアンタの事情なんて私にはどうでもいいわ。どうもアンタはただの陰キャとは思えないのよね。私の対人レーダーが危険信号を発しているし」

 何そのレーダー? アホ毛が立ったりするのか?

「大体お前こそ何で影の薄いボッチの俺なんかを気にするんだよ?」

 今の俺なんて気に留める必要がないくらい取るに足らない存在だろ。

「……正直、私はそう思ってるんだけどね」

 なぜか苦々しい顔をする環。

「杏もそうだけど、翔子も大輔君も何でか知らないけど、皆アンタの事を気にしてるのよ」

「は? アイツらが俺の事?」

 木藤は『君』を付けるんだと思ったがそんな事よりも、杏と天野が俺の事を気にしてるのはまだ理解できる。二人とも俺と何かしらの接点があるから。でも木藤? アイツが俺の事を気にしてるってどういう事だ?

「良く分からないけど、全然話した事も無いアンタの話題がグループで出る事があるのよ」

 話題というか、ただカーストの外にいる俺を標的に笑い者にしているだけじゃないのかそれ? 陰口って言うんだよそれ? 知ってるか?

「最近また『幻のワンマンセル』とかカッコいいあだ名が付けられてるし」

「やっぱり陰口じゃねえか!」

 ホントに格好いいと思ってんのお前? 美的センスよ。つうか誰だ。俺にあだ名を付けてる奴は。

「なんにせよ、変なのよ。私はアナタを話題に挙げるようにグループに仕組んでない。ボッチの人間をあげつらって笑うなんて最低の人間がする事だからね」

「お前は本当にその二つ名が俺を馬鹿にしてないと思ってる? 最低の人間と同じ空気を共有してる自覚ある?」

 というか、今コイツ、話題を仕組んでるって言ったか? そんなに人身掌握してんの?

「だから空気がオカシイのよ。私の想像していた空気がいつまで待っても生まれない。五人もいるのにアンタ一人に教室の空気を変えているせいで」

 俺ってそんな教室内の空気汚染みたいにクラス中から思われてるって事?

「アンタがフットサルで活躍なんてしてみなさい? クラスの空気は全部アンタに持っていかれかねないの。だからお願い自重してくれないかしら? ね、私のためだと思って?」

 困ったように笑っている環。美人に壁ドンされるなんて夢シチュエーションではあるが、マジで怖いコイツ。何でここまでボロクソに言った相手に私のためとか言えるの?

「まあでも、どうしても嫌って言うなら――」

 壁から片手を外してポケットに手を入れる。

――バチバチ

 そう耳に届いたその音は本能的に身を縮こまらせる。いや、ちょっと待て。そんな物を持ち歩く女子は小説とかお伽の世界のお嬢様だけだと思ってたんだけど……

「それって――スタンガン?」

「そうよ。アナタがいかないって言うまで私はこれを当て続けるわ?」

バチバチと、スタンガンの音を鳴らして威嚇を続ける環。冷汗が流れてくる。

「ちょっと昔に色々あってから持ち歩いてるのよ。大丈夫死にはしないから」

 何があったんだよ。と言いたいが、スタンガンは音を立てながら迫って来ている。

「わ、わかった! 分かったからちょっと待て!?」

 恐怖。人生に置いて、少なくとも高校生活で俺がスタンガンを持った美少女に脅迫される場面があるなんて想像出来るわけもない。何の心の準備もしてなかった。マジで、ホントに、何者なんだとお前は?

「あらそう? 残念ね?」

 いや、残念がるのはおかしいだろ?

「それじゃあ、約束通りにお願いね輪村君」

 君付けに戻した環は壁から手を離して拘束を解く。

「あ、そうそう――」

 ん――

「があっ!!?」

 腹が爆ぜた。

「ぐうううう」

スタンガンが腹部に押し付けられている。その尋常ではない痛みと体の痺れで蹲って倒れるしかなかった。

ナニコレ、マジで痛ってえええ!?

「じゃあ、お願いするわね?」

「お、おま……」

――バチバチ

 音を聞くだけで今度こそ全身が竦んで何も言えなくなる。

「それじゃあね――輪村君」

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