表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/7

何でゴール直前で飛んでくるかな?

杏 『やっぱり天人は翔子』

杏 『確認した。持ちキャラ変態仮面』


 杏から送られてきたメッセージの既読をつける。

「マジかよ……」


輪村『どうしたらいいと思う?』

杏 『知らん』


 杏らしい返信である。まあ、杏がゲーマーだと知っている俺を天野に近付けさせたくはないだろうから、知らんふりを決めるのは道理だろう。

 今日も窓側席の一番前で杏達カースト上位グループは、昨日と違いゲームをせずに集まってただ話しているだけである。相変わらず杏は環に撫でられ、天野は可愛く、木藤は爽やかで、眼鏡は眼鏡である。

 こう遠くから天野を見ていると『天人』が身近な彼女であるのはやっぱり信じられない。

 昨日の深夜、杏が帰った後も悶々として仕方がなかった。本当に『天人』が天野かもしれないと考えたら眠れるわけもなく寝不足である。

だって、そんなの運命としか言いようがなく、現象としては間違いなくゴッド。

 神の施し、思し召し。これが主人公補正という奴かもしれない。ライトノベルのご都合主義展開。主人公席に座り続けたおかげで俺にも運が、運命が巡って来た!

 と、喜んで見たものの、正直、天野にそれを伝える方法が俺にはない。「実は俺が『アキ』です。天野は『天人』さんですよね?」と。

 クラスメイトだからと気軽に話かけられるなら、とっくに話しかけている。それになぜ天野が天人かを知っているか聞かれたら俺はどう答えればいい? 杏から聞いたなんて言ったら、杏と俺との関係がバレる。家で一緒に仲良くゲームをする幼馴染の二人なんてどう勘違いされてもおかしくない。それは俺も杏も勘弁願うところだ。

 やっぱり、普通に天野と会話して俺も一緒なゲームをしている事を知って貰って、話の流れで自分が『アキ』である事を話して……って、だから天野と話せるのかよ俺は!?

 いやいや、いや。ここまで神にも運命にも後押しされてもチキンか、俺は? ここで獅子となれなければ一生負け組みである。勇敢にならなければ先に進めない。

 会話する何かきっかけさえあれば。

「きっかけなあ……」

 そんなものを待っていたせいで今の俺はボッチなのだが。すでに棚ボタ状態のところを更にここから幸運を望むのはあまりに図々しい。

 しかし、どうする。高校に入ってからは俺の対人能力は落ちる一方。もう、中学の時、どう人と話していたか思い出す事が出来ない。

 輝かしき青春時代から暗黒期に突入した感じ……とは言っても表面上だけ輝かしく見える中学時代だが見方を変えれば暗黒期なのは中学時代かもしれない。

「ん?」

 携帯に杏からメッセージが来ている。 


杏 『事情が変わった。詳しくは家で』

輪村『事情ってなに?』


 それから返信が来ない。当たり前である。目の前で携帯をポケットに仕舞った本人がいるのだから。これで返信があったら、杏のアカウント乗っ取られているか、目の前の杏は偽者で、本物は家でゲームをしている可能性を考えなければいけないところであった。

しかし、ドッペルゲンガー説が浮上せずにすんだところで、案の事情とは結局何なのだろうか? つうか詳しくは家でって、今日も部屋に来る気かアイツ……。

 返信をよこさずに楽しそうに杏は意中の木藤と話している。普段俺には見せない笑顔である。逆に俺にしか見せられない顔もあるのだが。

 何にせよ好きな相手と隣にいられるというのは羨ましい。俺もあのグループに参加して天野と仲良くしてみたい限りである。

 出会った時に思い切って声をかけていれば、なんて後悔しても先に立つことはないのだが、それに天野はあの時に出会ったとも思ってないだろうし。

 窓の外を眺めると夏らしく照りつける太陽が眩しく鬱陶しかったのでカーテンを閉めた。





「で? 事情って何?」

 3・2・1・スタートの合図と供に、一斉にレースカーがスタートを切るのと同じタイミングで話を切り出す。ただゲーム内では全員がロケットスタートを切る中、一人だけノロノロとした立ち上がりをしている車があった。まあ俺の車なのだが……。

「夏休みが始まってすぐに近くで花火大会があるのは知ってるよね?」

「あれか? 昔よく一緒に見てたやつ?」

「そうそれ、一番近くの川原じゃなくて人の少ない遠くの川原でよく一緒に見てたやつ」

 今日も俺の家に九時過ぎ来た杏。いつも通り格好は眼鏡に着回している中学の指定ジャージ。そして、話があると言いながらゲームに手を出してしまうのは、俺と杏の習性みたいなものである。

 今日も九時過ぎに来たという事は、杏はきっちり配信の活動を終わらせてから俺の家に来たという事である。それこそコイツの習性というかルーティンとなっている。

「それで? その花火大会がどうしたんだ?」

「学校で皆で行こうって話しになったんだよ」

「いいな青春らしくて。俺も天野と行ってみたい……」

 花火大会という単語だけでも、青春の甘酸っぱさを感じられる。青春ワードである。

「そうだろ? だから翔子と一緒にアキには花火大会に行って欲しいんだよ」

「え? お前が俺と天野の関係を応援してくれるのか?」

 応援するどころか邪魔さえしてくるかと思っていたのだが、俺と天野が近付くのは俺と杏の関係がバレるリスクが増える。別に疚しい関係というわけでもないのだが。

「苦渋の判断だけどね、私達のグループって五人組じゃん?」

「お前、天野、木藤、環に、あと眼鏡か」

「なんで武だけ名前じゃないの? まあいいけど、えと、真衣と武って付き合ってるだろ?」

「チッ」

 おっと思わず舌打ちが。

「アキって武に何か恨みでもあるの? 見た目通りの良い奴だよアイツは?」

 良い奴とか関係ない。山内のリア充感が気に食わないのだ。

「それで? 眼鏡と環がなんだって言うんだよ?」

 ゲームは何とか道中のアイテムの力を借りながらも序盤の遅れを取り戻して行くが一位の杏まではまだ結構な距離がある。セカンドラップに入っても、依然として一位を独走中の杏を追う。

「カップル二人を抜いたら残り、私、翔子、大輔じゃん? もしアキが翔子と付き合ったら私達とじゃなくて、アキと一緒に花火大会に行くはずだろ? そうなれば、武と真衣、私と大輔のダブルデートだ。私はその日に二人で抜け出して大輔に告白するつもり」

「告白って、出来んのかよお前に?」

「夏休みになったら会う機会も減るからね。告白するなら花火大会が丁度いいタイミングなんだよ。振られても夏休みの期間があれば、二学期から接しやすくなるしね」

要は木藤と一対一の状況を作りやすくするために俺が天野と付き合った方が杏に取って都合が良いという事か。つうか、告白という乙女チックなイベントにエラく利己的な考えを取り入れる奴だ。

「だから、アキと翔子が仲良くなって貰わないと困るんだよ。せめて二人で花火に行くくらいの仲にはなって貰わないと」

 セカンドラップ後半、順位が二位まで浮上した。杏の背中が見えてくる。

「でもいいのか? 俺と天野が付き合ったら不都合な事だってあるだろ?」

 ゲーマーである事が何かの拍子で漏らすかもしれない。

「アキが私の事を言わなければそれまでだし、どうせ私が大輔と付き合ったらゲーマーじゃなくなるからいいんだよ」

 だから無理だって。と言いたいところだが、どうせ怒って聞いちゃくれないだろうから心の中に留めて置く。

そしてゲームはついにファイナルラップを迎える。

「祥子ってゲームも漫画も好きだからアキと趣味の相性もピッタリだし、それに、やっぱり運命を感じるだろ? 偶然出会ったオンラインでの友達が現実で好きな相手なんて」

「まあ感じちゃうよな……」

 悔しいけど感じちゃう!

「私がアキと翔子の中を取り持ってやるから、上手いこと仲良くなってチャッチャと付き合ってくれよ」

「いやm簡単に言うな、今までほとんど話した事もないんだぞ?」

「きっかけさえあれば、趣味が一緒なんだ。どんだけでも話せるだろ? それにアキに必殺の一撃を翔子に食らわせる機会を与えてあげる」

「何それ? どんな機会?」

 必殺の一撃って言い方よ。

「今週の日曜にフットサル大会に出るって話があるんだ。私も翔子も応援しに見に行くから、アキもそこに参加すればいい。素人大会だから経験者のアキの独占上だろ?」

「バッカお前。俺の体育授業の悲劇を知ってるだろ?」

 思い出せば体が強張る程にはトラウマになっている。

「悲劇って、誰もそんなの気にしてないって。誰もアキなんて気に留めてないって」

「何でちょっと傷つけにきたの? 俺はあの空気を浴びるのはもうゴメンなんだよ」

「友達が出来ない事に焦って、体育の授業でのサッカーの試合で目立つために一人でドリブルしてゴールを決めたら待ってたのが歓声じゃなく、閑静の方だった奴だろ?」

「俺のトラウマを上手く言うの辞めて貰える?」

 あの時は間も悪かった。体育教師が一人不在だったため他クラスとの合同授業であり、通常よりも人数が多く試合数を増やすために負け抜けの一点ゲームだった。開始約30秒で交代させられた相手チームは俺を睨み付け、味方チームも呆然と俺を見ていた。

「私が学校で本気でゲームしないのはそういう事だよね。浮いちゃうんだよ、しかもアキみたいな急にサッカー部でもないボッチ生徒がすると」

「明らかに得意分野が来て意気がっちゃった奴だったからな……」

 レース展開はゴールまで残り少しのところで俺が一位の杏にもう目と鼻の先くらいの距離までになっていた。何か起これば勝てるかもしれない。

「まあアキのトラウマは分かるけど、こんなチャンスは滅多にないよ? こんなにタイミングよく出来事が重なったのに行けない奴は人生の負け犬だよ?」

 それもそうだ。二度はないだろうと思っていたボタ餅が再び棚から落ちて来ている。きっかけさえあれば、そのきっかけを杏が作ってくれている。

「……分かった参加する。でも、目立つのは辞めとく。お前のゲームみたいに手を抜くってわけじゃないけど、木藤達にボールを集めて俺は裏方に徹するぞ? 一応お前らのグループのチームなんだから、そっちの方が盛り上がるだろ?」

「アキが裏方? パスとか上手に出来るのかい?」

「素人相手なら俺だってそのくらいは出来る。こちとらサッカー暦10年だぞ」

「まあ、サッカーのプレースタイルはアキに任せるよ。私は分からないから……あっ」

 と、ゴールまで一直線に架かった吊橋の手前で杏のキャラが止まった。

「え?」

 もう逆転不可能とほとんど諦めていた時だ。何だろう接続が切れでもしたのだろうか? と、俺が杏を抜かして最後の吊橋を渡り始めると杏も同時に動き出した。

「あっ」

 気付いた時にはもう遅い。一位を狙い打つ青い棘甲羅が杏のキャラの横を通り過ぎて、俺に突撃し爆発を引き起こす。

「ごめんねアキ。お先に~」

 と、爆発の影響で空中に舞い、体勢を崩した俺の機体に体当たりをかまし通り過ぎていく。体当たりで吹き飛ばされた俺の機体は吊橋から落ちて崖の下へ真っ逆さまに落ちて行く。その間に杏はゴール、ルートに復帰した俺に別のキャラが後ろから投げた赤甲羅に当たり、再び体勢を崩した俺の機体に今度は後ろから、ものすごい勢いで迫る無敵状態の機体が俺にぶつかり橋から落ちる。復帰後、やっとゴールかと思った最後に、ビリのキャラが使った自動運転アイテムが衝突して抜かして行く。FINISHの表示。俺の操作する機体はゴールも出来ずに吊橋の上で悔しそうにハンドルを殴っている。

 あれ? 俺ゴール寸前まで一位だったよな?

「…………………」

「くくっ、あっはっは!! 今の何!? すげーすげー! ちょっとリプレイ残してといて! 動画にするから!」

「もう好きにしてくれ……」

 配信根性たくましい奴だな……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ