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即落ち三コマーーあーもうメチャクチャだよ……

「こんのクソゴリラああああ!!」

 即オチ三コマ。ゴリラの攻撃により致死エフェクトと供に下へ落ちていくピンク玉。

 もうめちゃくちゃにして……。

『2P WINNER』

「ふっ」

 勝ち誇った顔で俺の部屋にあるベッドに座った杏が床に座っている俺の肩をポンと叩いてくる。別に俺が床なのは主従関係とかではなく単純にテレビが近い位置でゲームをしたいというだけである。

「こ、この野朗……」

 安い挑発ですぐに火がついてしまう。負けたくねえ……。

「もっかい! 手加減したら許さん」

「するわけないじゃん?」

 さっきの試合と同じキャラ、杏が『ゴリラ』、俺が『ピンク玉』を選ぶ。

大体この組み合わせでいつも勝負をしている。

「よっしゃ! こっから集中!」

 そう、まだ集中してなかったから。次はもっと集中するから!


「クソ! 本当にクソ! うぜええええ!!」

 ゴリラに掴まれて画面場外に投げ飛ばされるピンク玉。

『2P WIINNER』

「つうか、ゲーム中にいつも煽ってくるんじゃねえよ!」

「アキが弱いせいだろ。お前が死んだ空き時間で有意義な過ごし方をしているだけ」

 ぐああああ!!

「そのキャラ煽り性能高すぎなんだよ!」

「だから使ってるって言ってるだろ?」

「くそ! 殺す! 絶対にころーす!!」

 殺意の波動に目覚めた俺である。後を見ると杏がニヤニヤと笑っている。

絶対その顔歪ませてやる!


『2P WINNER』

「もっかい!」

 まだだ! まだ俺の心は折れない。


『2P WINNER』

「まだ本気じゃないから!」

 本気が出ません勝つまでは。


『2P WINNER』

「だあああ! もう、うぜえええええええ!!」

 五連敗。コントローラーを放り投げそうである。実力の圧倒的な差を見せつけられる。

「あっはっはっは! よえーよえー!」

 杏、大笑い。くそ、全然勝てない。

「まあでも、前よりは上手くなったんじゃない?」

「うるせえよ」

 気休めは辞めろ。はぁ……一回、落ち着こう。騒ぎ過ぎである。

「いつまでも、そんな弱キャラを使ってないで別のキャラ使えばいいのに。そのピンク玉じゃ基本が身に付かないよ?」

「もう俺はコイツ以外使えない体になってんだよ」

「昔、一回勝ってからそのキャラしか使ってないもんね」

「お前に初めて勝ったキャラだから愛着が湧いてんだよ」

 昔も昔。杏がゲーマーと呼ばれる前の話。小学校低学年くらいの話だ。このゲームの前々々作を二人で遊んでいた時、何の偶然か初めて使ったピンク玉で杏に勝ってしまった。

 それ以来、そのキャラ以外を使わなくなり、特殊な動きをするキャラのせいで他のキャラを上手く動かす事が出来なくなった。

「まあ、昔から何か一つの事に集中するタイプだもんね……」

 会話しながら次の試合を始める。一旦クールダウン。と、見せかけて俺は勝ちにいく。

「というか、もうアキはサッカーしないの?」

 『READY TO FIGFT』の表示と供に開戦。

「あん? 何だよ急に? やらねえよ。中学で辞めるって言っただろ?」

 カチカチとコントローラーを動かしながら話す。

「いや、やっぱり勿体無いなあって思って。ゲームの才能これっぽっちも無いのに、毎日のようにゲームして無為に時間を過ごして可哀想だと思ってね」

「誰もがお前みたいにゲーマーとして生きてねえよ。ゲームっていうのは、楽しく遊ぶための道具なんだぜ?」

「でも、負けてばかりじゃ楽しくないだろ?」

「今から練習して勝てばいいんだよ。それに俺はお前とばっかゲームをしてるわけじゃない。オンラインでも一人だけゲーム仲間が出来たんだよ……ガッテム!?」

 ゴリラパンチ、通称ゴリパンが炸裂してピンク玉が吹っ飛んでいく。

「へぇー、いいじゃん。私もよくオンラインで友達と練習してるよ」

「お前のネット友達のレベルと一緒にされても困るけどな」

 正真正銘の猛者達を相手に日々戦っている幼馴染である。

「でも、サッカーをしてた中学時代の方がモテたし、友達も多かっただろ? 怪我して引退ってわけでもないんだから、また部活で始めたらどうだい?」

「いいんだってサッカーは。辛い、シンドイ、飽きた」

「真昼にも良い所を見せるチャンスが増えるというのに」

「ぐっ」

 ゴリラの世界最速の後ろ蹴りがピンク玉を画面場外に追いやる。

「おいおい杏、心理戦を持ち込むのは卑怯じゃないか?」

「今のはアキがヘタクソなだけだろ?」

 俺が天野を好きな事を杏は知っている。少し前にゲーム最中に天野と仲のいい杏に相談したが、「は? 化け物の子かよ?」と一蹴された。言っている意味が分からなかったが悪意だけは伝わってきた。

 ちょっと前までは冴えないゲーマーだったくせに調子乗りやがって。

「それを言うなら、お前こそどうなんだよ? 木藤とは上手くいってんのかよ?」

「だ、黙れブー、あっ」

 ピンク玉の空中回し蹴りがゴリラに炸裂して場外に飛ばす。

「ブーってだから何だよ?」

 この罵倒の意味だけは長い付き合いだがよく分からない。

「アキよりは進展してるもんね。友達だし仲いいもん!」

 まあ、それはその通りなんだけど。

「でも杏の場合、ゲーマーなの隠してるだろ? どうすんだ? もし木藤と上手くいったら? 正体を明かすのか?」

「ゲーマー辞める」

「無理だって、何年も続けて来たゲームをそんな簡単に辞めれないだろ? 人生ゲームみたいな女のくせに。ノーゲームノーライフのくせに」

「うっさい、ダボ!」

 あ、怒った。都合が悪くなるとすぐにこう言って逃げる。

「まあ俺が言える立場じゃないからいいんだけどね」

「黙れブー」

 だからそれは悪口なのか? 

てか、完全にへそを曲げられた。機嫌が悪い時は何を話しても暴言で返ってくる。

「はあ……」

 溜息を吐くと同時に、ゴリラのスマッシュがピンク玉を強襲して場外に飛ばされる。

『2P WINNER』

 六連敗目を示す文字が表示されている画面左上に『天人』がログインしたと表示される。

「ん? 天人?」

 不貞腐れていた杏が急に天人の名前を見て反応する。

「何? もしかして有名な人だったりする?」

 動画配信の伝手で色々な実況者やプレイヤーと交流がある杏。天人さんもその交流関係の一人なのかもしれない。実力は俺とそれほど変わらないからガチ勢のプレイヤー繋がりではないだろうが。

「んー? いや、どっかで見た事があるんだけど……天人、天人……?」

 天人さんの名前を繰り返して言って思い出そうとしてくれている。

「あ、思い出した」

 心当たりが見つかったようだ。やっぱり動画配信界隈の人なのだろうか?

 もしかして、俺がコンボをミスった今日の試合を動画にしたりするのだろうか?

 それは恥ずかしので辞めて欲しいのだが――

「確かそれ真昼のアカウントと一緒な名前」

「は? まひる? その実況者の本名?」

「本名だけど、実況者じゃない。同じクラスの天野真昼、お前の片思いの人だよ」


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