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冬島杏はという人物

 テレビ画面に映るピンク玉がフワフワしながら、2Pプレイヤーが操作する変態仮面を攻撃する。残機は互いに一つ。緊迫する接戦となっていた。

 いい感じに攻撃が当たり、ダメージを稼げたところで、空中から急行下しながら、上攻撃を当てて、このキャラ最高の破壊力を誇る『眠る』を当てる。

 「カキン!」というヒットの効果音と供にテレビ画面上部へと吹っ飛んでいく変態仮面。しかし、完璧に倒しきれていない。九死に一生を得た変態仮面は頭に花を咲かせながらも、画面上部から殺意の炎を拳に燃えたぎらせ、ピンク玉に必殺の一撃をくらわせた。

 ド派手な演出と供に勢いよくピンク玉は画面場外へと消え去った。

「ダメージ計算ミスったーー!!」

『WINER 2P』の表示を見て叫ぶ。

 絶対勝ったと思ったのに。

 『対戦ありです!』と天人という名前の対戦相手からメッセージが送られてくる。


アキ『ありがとうございましたー』

天人『最後やばかった! 負けたと思ったww』

アキ『ダメ計を間違えたのが敗因でした』

天人『まあ、勝ちは勝ちだから! 最後の勝負は俺が勝ったから今日は俺の勝ちでいい?』


 今日、天人との勝敗は三勝二敗。

 合計勝利数では勝っているが別に何かを賭けているわけでもないので


アキ『いや、いいですけど笑』

天人『やったww』


 これで喜べるのは凄いと思う。

「おっと」

 時計を見るともう午後九時前になっている。そろそろ切り上げなければ。


アキ『すいません、そろそろオチます。また対戦お願いします!』

天人『オツカレー! アキさんまたね』


 そのメッセージを見てから対戦部屋から抜けて、ゲーム機の電源を切る。

「やあー今日は勝ち越せたなあ」

 メッセージ上では勝ちを譲ったが、心境としては全く譲ったつもりはない。

 天人は最近始めたゲームで知り合ったオンライン友達である。お互い初心者に毛が生えたようなプレイングであり、何度か連絡を交わしてはオンラインで対戦しては、勝ったり負けたりを繰り返していた。

 今日は覚えたてのコンボを勝ち越しが決まった試合で試して見たのだが、慣れない事をしたせいで上手くはいかなかった。今後の反省点である。

 とはいえ、勝利の美酒は上手い。実力がほとんど同じため、拮抗する勝負が多い中、ギリギリの勝負を勝ち取った時は高揚した気分に酔いしれる。

 まあ、その酔いも、あと少しで醒まされるのだが……。

――携帯に着信あり。

「あーあ、来たか……」

 もっと勝利に浸っていたかったが、無視する方が面倒、すぐに鬼電の嵐が起こる。

 電話に出ると。

「開けろ」

 テレレン――と通話が切れる。電波が悪くて切れたわけでもなく、もちろん俺が切ったわけでもない。

 「開けろ」と、ただそれだけ言って向こう側が切ったのだ。

 それだけで伝わると思っている。そして実際に伝わっている。嫌な関係だ。

 部屋から出て一回の玄関に向かう。玄関の鍵を開けると、ドアが勝手に開いた。

「おーす、お邪魔しまーす」

 入ってすぐにサンダルを脱いで家に入ってきたチビはクラスメイトの冬島杏であった

「おっと、スクールカースト上位の冬島さん、今日はどういったご用件で」

「あ? 何言ってんのオマエ? 早く部屋に行くぞ?」

 どうやら上位グループの冬島杏とは違う人なのかもしれない、似て非なる人だろうか? 

 そう言いたいほど学校での杏と今目の前にいる杏は違う。

 コンタクトに変えて垢抜けた容姿を見せていた、制服を着崩して少しでもオシャレをしようとした、皆から可愛がられ愛される冬島杏さんはここにはいない。

 いるのは、昔から馴染みの冬島杏。

 眼鏡でスッピン、服装は中学の指定ジャージ、そして何より口が悪けりゃ、言動が粗雑で礼儀がない俺の幼馴染――冬島杏である。

「学校と一緒なの髪色と身長だけじゃねえか!」

 その髪色も高校入ってからだし。

「うっさい、ダボ! 身長の事を言うな!」

 怒るとすぐに母親からうつった兵庫方言の悪口が出ている。

「で? 今日は何のようだ?」

「ゲームしに来たに決まってるじゃん、それ以外アキの家に用があるわけないだろ?」

 「たかあき」だからアキ。ゲーム名もそこから来ている。

「一言多い。ゲームするなら俺の家じゃなくて、自分の家でオンライン対戦でもしてろよ」

 俺の家にあるゲーム機とソフトを杏は大体全部持っている。

「今日はアキとゲームがしたい気分なんだよ」

 幼馴染甘酸っぱい台詞のように聞こえるが、この言葉を翻訳すると『今日はムシャクシャするからお前サンドバックな』である。

「実力差がある相手をボコって楽しいか?」

「別に楽しくないよ。アキとするゲームだから楽しいんだよ」

訳『罪悪感がないサンドバッグっていいよね』。

「つうか、お前また学校でストレス溜めてただろ? プロゲーマーのくせにゲームで手を抜いてんじゃねえよ」

 学校で上位カーストに属する杏が表の顔だとすれば、裏の顔は凄腕のゲーマー。俺からすれば学校が裏でこっちが表なのだが。

「別にプロじゃない。ちょっと動画配信してるだけだって」

 動画配信サイトでチャンネル名『ゴリラップ』として配信している。

「それに仕方ないじゃん、私が本気でゲームをしたら、空気ぶち壊して楽しい雰囲気を盛り下げちゃうんだから」

 まあ確かに、一人飛び抜けて上手い奴がいると、どうしても一番を独占してしまう。絶対に勝てない遊びを楽しむのは中々難しいものだろう。

「気持ちは分かるけど、ゲーマーを隠すために手を抜いたせいで溜まったフラストレーションを発散させられる俺の身にもなれ」

 わざわざ隣の家にまで押しかけないで。わざわざと言う程の距離でもないが。

 杏はいわゆる高校デビューをした女子高生だ。髪も元々黒くパーマなんてかけていなかったが、中学を卒業と同時に髪型を変え、眼鏡をコンタクトへ。

 そんなの興味ないゲーム中毒者だと思っていたので変わり果てた幼馴染の姿に戸惑いがある。少し経った今でも戸惑っているが。

 ただ杏の努力は高校入学後すぐに実り俺がボッチ街道を一人進んでいる中、着々とクラスのマスコット的な存在へと成り上がったのである。俺が孤立していく中、助け舟の一つも出してくれないのが杏らしくはある。

「……真昼がゲームを持ってくるようになったのが誤算だったよ」

 天野の名前に少し反応してしまう。特に杏は何も言わない。

 高校デビューを成功させた杏はゲーマーである事を隠している。わざと負けてゲーム下手を演じているのであった。杏が学校で猫を被っていると思うのはそういうところだ。

 性格というか、人当たりについては俺以外に対しては結構好印象を与える奴であるため特に何も思わないのだが。

 ゲームが上手であれば、下手を演じるのは容易いらしい。それに下手の見本が近くにいて助かるともよく言っている。もちろん俺の事だ。

「まあアキは文句言いながらも楽しんでゲームしてるからいいじゃん? 昔からどんだけ負けても闘争心剥き出しで勝負してくれるし」

 負けず嫌いな性格なもので、何をするにしても負けたままは納得いかない。

「毎度イライラしながらやってるけどな」

 楽しいが負けるとストレスが溜まるのは当然である。杏が俺に対して手を抜く事がない。学校で溜まったフラストレーションを全力で叩き込んで来る。もう何千回と色々なゲームで対戦しているが、何のゲームをしても大体は負ける。勝率0.1%あるかも分からない。

「とりあえず部屋に行こう。玄関で立ち話も難だし?」

「お前が言うなよ」

 なんて言葉は無視して、杏は先に階段を登っている。

「まあいいか……」

 アイツの態度を見ていたら、俄然やる気が出てきた。

 新しいコンボも覚えた事だ。

 見てろ杏――今日こそ一泡吹かしてやるよ。

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