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元豆腐、ヒロインをレジストする

 なにが起こったんだ……。

 目の前にいるものが、あり得ない状態なんだが。

 なにがどうなって、こうなったんだ――。


 何回も言ったセリフもこれでついに最後なんだが。

 ちょっと待ってくれよ。

 

 


 入国審査を終えて、荷物を受け取りロビーに出たら、もはや忘れかけていたヒロインがいた。

 もう一度言おう。

 ヒロインが俺の下の兄を含めた複数の男たちを従えて、悪役ご令嬢を待ち構えていた。こいつは俺の操作したヒロインじゃねえ。純情はどこへ行った。

 ここは現実なんだが、どうして今さら湧いてきた。リポップするんじゃねえ。

 アヘ顔を晒してそうな、ギャルゲーの尻軽臭がプンプン漂っているんだが。尻軽か。


 リアルのくせして尻軽だな。

 俺は完全に嗅ぎ分けた。俺は目鼻が利くんだ。

 残念だが負ける気はしない。


 ご苦労なこった。

 どうやら突発的にご令嬢を迎えに来たらしい。男性陣にご令嬢を貶めさせるための仕込みをするのに余念がない。


 髪型がかわったご令嬢には、誰も気づかないくせに。

 猫目だってアヒル口だって健在なのに。

 この今にもキスしたくなるような見事な下くちびるが目に入らないのか。


 入らなかったらしい。

 ヒロインはご令嬢に気づいたんじゃない。俺に気づいたんだ。


 おいおい、まさかの攻略キャラって誰だよ。攻略キャラと隠しキャラが入れ替わっていただとなんだそれ。何者だおまえ。尻軽か。いや、尻軽なんてどうでもいい。


 そんなことより兄だ兄。目に気力がないのはおまえもか。

 教育実習に来ていたのなら、ご令嬢の苦しみにも気づいてくれよ。

 教育者を目指していたんだろ、頼むよ。


 しかし、考えを改めなければならない。どうやら乙女ゲームの登場人物は実在していたらしい。どこの家の手伝いが俺たちをモデルに使ったんだ。訴訟もんだな。すっかり実現してしまっているじゃないか。

 そしてヒロインは、俺を逆ハーレムに加えるという謎の決意を固めたらしい。


 だがしかし、俺はスキルカンストのガーディアンである。尻軽看破スキルも当然高い。ゲームでもリアルでもガーディアンの経験値なら豊富だ。

 俺の魔法使い願望はそんなに安くねえ。

 尻軽の逆ハールートになんかに入ってたまるか。


 魅了はチャームだ。

 それくらいレジストしてやる。元引きこもりゲーマーを舐めんな。

 予備動作で見極められずしてゲーマーなんてやってられるか。


 かくして俺は逆ハーレム狙いのヒロインを撃退した。

 兄へのチャームもレジストしてやった。俺は選ばれしガーディアンなんだ。兄よ、過去の俺からの償いを受け取れ。

 だがあとの奴は知らん。


 顔も憶えていないが、どうせ血反吐もいるんだろ。どうせおまえらが俺の上履きを隠したりしたんだろ。苦い豆腐を思い出すぜ。

 なんだと、ご令嬢の兄上がいるって。そのうえシスター制度でかわいがっていた後輩の兄までいるって。シスター制度って、マジかよ。


 急遽、ご令嬢の兄上ともう一名のチャームもレジストすることになった。

 お兄さまと駆けだすご令嬢は、猫目に涙すら浮かべていた。


 いいシーンだった。

 これこそスチルにするべきだった。


 ご令嬢も、想像以上に大変だったんだな。血反吐どころか、兄が敵にまわるとはさぞかし辛かったに違いない。

 もちろん兄上ともども送り届けたご令嬢の一家には、たいそう感謝された。


 かくして俺はガーディアンの任務を無事に完遂し、ご令嬢の婚約者の椅子に座った。

 いや待て。

 そんな椅子に座るつもりはないんだが。入り婿とはなんだ。

 なにが起こった。いや待てじいや、俺は同意した覚えがないんだがプロムポーサルがプロポーズに聞こえたとか。空耳か。


 そもそも俺はじいやが勧めるがまま、経営学の学位を取ろうとしているんだが、家のためではなかったのか。血統の悪い三男だから適当に婿養子に出そうと、両親からして企んでいたとでもいうのか。俺はそこまで要らない子なのか。どうして俺を捨てるんだじいや。


 今はなんだか無性にねえやになでなでされたい気分だ。

 ねえやが出産後でなければ会いに行ったんだが。


 とりあえず、復路は関空からの便に変えて、島に戻ってマダムたちに泣きつこうそうしよう。

 ダメだった。感極まった豊満なマダムに次々と抱きしめられながら、むしろ入り婿に入るべきだと説得されてしまった。

 そうだ、奴らは日本人よりもはるかに恋愛体質なんだった。どうも俺のトラウマは想像以上に心配されていたらしい。

 旦那とのハッスル事情とかいらないから。いや俺だって伴侶とは末永く老境でもいちゃいちゃしたいけども。まだ早いんだ。魔法使いになってしまえばこっちのもんだが、それまでは待ってくれ。


 おまえなら安心だとムッシュの孫娘まで紹介されそうになったが。

 残念ながら俺は快楽主義どころか、ムチムチ派でもないんだ。猫派なんだ。分かったか。


 なんだニヤニヤしてどうかしたのか。じじばばどもだって太りたくなくてここを老後の生活に選んだんだろ。違うってなんだ。海辺のダンジョン目当てだと。海辺って行ったことはないが、例の快楽主義どもの鍾乳洞のことか。ムッシュ、ボケるにはまだまだ早いと思うんだが。

 そうだ、そんなことよりムッシュ。血反吐の家の株に一石を投じたいんだが、株に詳しい人間を紹介してくれないか。


 なんだとクリケットの試合と引き換えだと? 俺をぼっちと知って助っ人を呼べだと。なに、ご令嬢の兄がいるじゃないかだと、マジか。それにしたって、島のクリケットはどうしてすぐコガネムシとかグソクムシの大きいのがすぐ紛れ込むんだ。


 話はそらせたが、俺の味方は頼りの島にすらいないようだった。俺の夢は三十歳になったらウィザードに転職することなんだが、どうして誰も分かってくれないんだ。

 恋愛なんてそれからでも間に合うだろ。ヘタレじゃねえよ。


 たのむから二次元ごれいじょうは二次元に居てくれ。

 その猫目で見上げてくるな。

 アヒル口を向けてくるな。

 猫髪を撫でて欲しそうに見上げないでくれ。

 うっとりと目を閉じないでくれ。決心が鈍るじゃないか。


 俺は学位を取るんだ。最近は地質学にも興味がある。行く末は論文雑誌に掲載されて博士号とか取っちゃうつもりなんだが。そうだ。ベイエリアに戻り学業に専念しよう、学位はこの際だから三つ取ろう。その後はいっそ乙女ゲーの会社を訴えるためにロースクールに通ってもいい。よし、そうしよう。


 しかし、どうやらそれは俺のレジスト能力をもってしても回避不可能だったらしい。俺のレジスト能力は、どうやら一途さを跳ね返せないようだ。


 それに、俺の胸が最近おかしい。不整脈なのか。これは病なのか。病院か。俺の保険は、どこの病院なら受診できるんだ。検査結果はなんともなかったが、請求書には違和感を禁じえなかった。

 俺はムッシュやマダムを病院に送り慣れて医療費の相場を知っているのだ。

 ただの検査がクルーザーより高いわけがない。


 俺の手には負えないあまりにも高額な請求書に、財布と相談した俺はじいやに臨時おこづかいをねだった。

 いや、だってな、ある企業の持ち株を増やすのに使ったんだ。家の危機感から血反吐も現実を見て、努力し直してくれればいいかと思ってな。

 それにしても、病じゃないなら、なんだっていうんだ。


 そんな俺の悩みをよそに、コンピュータ科学を皮切りに経営学の学位も三年で授与された。経営学も秋からはマスターコースに進む。それも終わったら転学してロースクールだ。


 今年の夏季休暇はVRプロジェクトに携わってる。

 いや、ゴーグルのほうじゃない。内容は守秘義務とやらだ。

 そうなんだ、まだ実用化には歳月がかかるんだが、聞いて驚け。


 俺の生みの母親がプロのゲーマーとして、テスターをやっていたんだが。

 格闘系のEスポーツの大会で有名人らしいんだが。

 それどころか、あの女ギルマスは俺の母親だったらしいんだが。嘘だろ。

 俺を取り戻すために浮名を流したなんて、そんなの信じてたまるか。嘘つきめ。それならどうして俺のことを置いていったんだ。



 ご令嬢は年に数回は遊びにくる。

 なぜならあの間違った婚約がまだ解消されてないんだ。


 ツヤツヤした猫色の髪をかきあげたり、じっと見上げてきたかと思えば、俺の話に笑ってくれたりするんだが。そのたびに俺の不整脈がやばいことになっているんだが。女の子がそんな薄着で贈ったリボンやらネックレスをつけて男の横に座っちゃダメだ。

 明日からご令嬢とイエローストーンに行くんだが、胸が痛くてなかなか寝つけないんだ。あのイサ湖も俺を待っているというのに。しょうがない、今夜もゲームでガーディアンでもするか。


 どうやら寝坊したらしい。

 ついに俺は、ラッキースケベと闘っている。あんなに島のスクール時代に回避したのに。


 起こしてくれるのはいいが、襟ぐりからご令嬢の豊かなゴム鞠が見えているんだが。ネックレスが谷間にはまり込んでるんだが。その分厚い下くちびるはさそっているのか。俺のふとももの上に乗らないでくれ。男は簡単に湯豆腐になるんだ。

 間欠泉に驚いたからって抱きつかないでくれ。肩紐が落ちているんだが。


 なにがどうなって、こうなったんだ。

 俺はなにがなんでもリアル魔法使いに転職するんだ。ずっと魔法使いになるのが夢だったんだ。魔法使いはまだか。俺はたしかに御曹司だが、魔法使い以外の何者になるつもりもなかったんだ。


 だから、三十歳まではどれだけ目の前でミニスカートの足を組み替えられようと、無事に二十一歳に達したご令嬢がナババレーで酔っぱらって甘えた猫のようにすり寄ってこようが、ヨセミテで一つの毛布にくるまって天の川を眺めることになろうが、手違いなのかイエローナイフでダブルベッドルームしか空いてなかろうと、ご令嬢の料理の腕がメキメキと上達して胃袋が掴まれようと、この胸の高鳴ろうと、なにがあろうと、たとえバスルームの世話になろうとも、ご令嬢には手を出すまいと決死の覚悟なのである。


 おまけに下の兄が島のスクール教師になって、最近は生徒をダンジョンに引率しているらしいんだが、それはなんの話だ。

 島にできたダンジョンの魔素に侵されてって、それ不登校時代に遊んだゲームのあらすじじゃないか?

 まさかあそこも誰かがネタを売ったのか?

 リアルギャルゲーなのか。マジか。


 それにしても、なにがどうなってこうなったんだ。


 



# ====== Fin de données ======

# ===== ◇ 終了文 ◇  =====

>>> print(fin)

どこまでが本当でどこからが嘘なのか分からないこの日ならではのおはなしが、だれかにとって、ちょっとした今日のおつまみとかおやつとか、そういうものになっていたらいいわよね。

====== FIN d'opération ======

=== ◇ オペレーション終了 ◇  ===

>>> sys.exit()



   ◇



■ 登場人物紹介


 2020年4月1日23時に、登場人物紹介を投稿します。

 Nコードは「n9431ft」ランキングタグにリンクを貼ってあります。

 解けはじめた魔法のように裏側のおはなしになります。



   ◇



■ エイプリルフールによせて


 それでは最後までおつきあいくださったあなたへ。

 四月一日の魔法はまだ残っていると信じて、ひとつ魔法をかけます。


 どうかあなたに燃え尽きない書への情熱を。

 あなたが今年度もたくさんの明るくて幸せなおはなしに出会えますように。




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タイトル字のみ:『ヒロインよりも悪役令嬢が一途で萌えるんだが』


◎2020年4月1日23時頃◎
魔法が解ける前に公開します!
タイトル字のみ:『人物紹介|エンドロール、それぞれのゲームルール』へ
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