表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

元豆腐、悪役令嬢に見上げられても

 知ってるか。

 こっちは八週ごとに定期試験があるんだぜ。


 今更レポートなんて苦じゃないけど、やつらそれでいてクラブ活動(グリーク)にまで真剣なんだ。


 結局いろんなクラスで、それぞれ何徹もしながらチーム課題をこなしてたら、そのうちやっぱり仲良くなるだろ?

 そしたらゲーム観に来ないかとか、誘われたりするだろ? 

 そんでもってトレーニングとかまで見てたら、一緒にやりたくなるよな。


 特にどこかのグリークに入会したわけではないんだが、働けない留学生だからなのか、ボランティアとかも結構誘われたりするな。

 身体動かすことも多いけど、裏方が楽になるようにプログラムを書くことも多いかな。

 もちろん道場もかけもちしてる。

 豆腐だけに身体がなまるのが怖いんだ。


 そうだよな、南洋諸語もアツいよな。この国にいるうちに覚えておきたいぜ。

 なあ、やっぱり結構日本語と似てるよな。


 正直、経営とプログラミングのダブル学位取得を目指していたため多忙だった。


 しかもここはいろんなプロジェクトが盛んなんだ。

 いろんな企業がやってる面白そうな学外プロジェクトがいくつかあったから、シレッと参加してやった。

 もう坊っちゃまは返上だ。

 こづかい制はもう卒業だ。

 俺はプロジェクトの報酬と、ムッシュたちからもらった株の配当で生計を立てるんだ。


 だがしかし、残念ながらそうは問屋が卸さなかった。

 なんだって。この滞在カードじゃ労働は禁止だと。

 仕方ない、報酬なしでやれるプロジェクトを探しなおすか。


 そんなときにかつて四年を費やしたゲーム会社がおなじベイサイドにあると聞いて、誰が我慢できよう。

 本当にMMOを再開してしまったバカは俺だ。

 だが世界は復帰組の俺にも優しかった。


 ギルド無きあとも残っていたフレンドが、新システムを丁寧に教えてくれた。あの女ギルマスはあれからログインしていないらしい。

 今となっては課金したらレベルカンストまでが早いらしいが、こんなの己の力で強くならなきゃ。

 みんなを護れる技術力は身につかないだろ。

 だって俺はガーディアンなんだ。


 無事にスキルレベルまでカンストさせてからは、週二でレイド復帰を果たした。救援要請が英語だろうとロシア語だろうとドイツ語でも広東語でもまとめて俺が守ってやんぜ。

 興に乗ってゲーマーズイベントにも参加してやった。隠しダンジョンのキーに、大容量インベントリが参加賞か。たしかに参加チケット結構したもんな。でもすごいぜ参加賞、ダメだ笑いがとまらん。


 おまけに島のムッシュどもからは相変わらず連絡が来て、お使いを頼まれる。

 ウンウン、次のお使い先はディベートのために読んでいた経済誌によく出るあの顔だな。

 いい小遣い稼ぎにはなるんだが、もちろんものすごい顔繋ぎでもあったんだが、その繰り返しですでになかなか厳しいスケジュールになっていた。

 なかには東海岸ってものもあったしな。


 そのうえ訪問するともなれば、訪問先の家族それぞれに手土産もいる。

 だがしかし、何を隠そう。サムライガーディアンギャルソンはホームパーティーの手土産には明るいのだ。

 島で並々ならぬマダムたちを相手にしてきた経験値を舐めんな。


 しかし、そこに今回の新しいミッションを組み込むには、さすがに身体が足りなかった。

 一つ二つ学外のプロジェクトから外れる必要があった。なんてこった。断腸の思いだったがやってのけた。

 だって新たに与えられたリアルガーディアンミッションクリアという最強の誘惑に、誰が抗えよう。


 ご令嬢は相変わらずしょんぼりと肩を落としていた。

 目に焼きついているあの後ろ姿と同じ肩だ。

 心なしか、縦巻きロールにも元気がない。

 小悪魔はどこへいった。


 俺が話す注意事項も耳に入らないようだ。

 ご令嬢は努力家だと思っていた。少なくともゲームでは間違いなくそうだったのだが、突然の失墜と突然の留学だったためか、このとおり気力をすっかり失っていた。


 分かる。

 分かるんだ。

 長い間引きこもっていた元落ちこぼれ豆腐の俺には、痛いほどに分かるんだ。

 浮上ってなかなか難しいんだよな。

 しかもキスシーンってやつは、ダメージがでかいんだ。


 とりあえずヨセミテでも見せとくか。日帰りで行けるし、自然はひとを癒すからな。見どころが本当にいくつもあって規模がでかいんだ。

 そうだろ、綺麗なものはいいよな。そうだな、次は近場で赤い橋でも見ておくか。それにショッピングセンターで荷物持ちやるのもガーディアンの甲斐性だろ。いいか、レダムダボー中に女性に装飾品を買わせるのは恥をかかせるのも同然なんだ。笑顔のためならちょっとしたネックレスなんて安いもんだ。ナババレーもいいけど、令嬢には年齢が足りないもんな。


 ご令嬢の英会話はヒアリングや書き取りは充分でも、話す言葉がアメリカ西海岸のレディよりも更に古風というか、実用会話までに至っていなかった。


 たしかに会話って経験だもんな。

 俺の英語も少しフランス語訛りがあるらしいし、彼女も俺もこれまで使ってきたのはどちらかというとBDCの英語だ。お堅いんだ、修正が必要なんだ。


 語学学校に通うほどではないだろう。

 だが、学校が始まるまでに、できるだけ下に見られないで済むよう底上げが必要だった。

 旅行案内人兼にわか家庭教師の誕生である。

 これもガーディアンとして、当然の任務である。

 相手がマドモアゼルだろうと、とりあえずキリッとしとけばなんとかなるだろ。

 実際になんとかなった。

 後で朧豆腐になろうと、見られなかったら一緒だろ。

 そんなわけで忙しくも充実した日々を送っていた。


 そんなご令嬢は時間とともに俺に懐きはじめた。

 猫目はきらめきを取り戻し、巻き髪にも芯が入った。

 空港で買ってしまったリボンを身につけてくれていた。

 この間のネックレスもつけてくれていた。

 西海岸のファッションを覚え、その年頃の娘らしい猫にも似た魅力を増していった。


 もちろんパーティーにも積極的に連れていった。

 会話の数をこなすことが肝心だからな。

 それにしても、エスコートするときの緊張感が信頼感に変わっていくあれはちょっとたまらんね。


 しかし、問題も起こった。

 順調に魔法使いを目指す俺にとってさえ、この重力に逆らう巨乳は恐ろしいまでの破壊力を誇っていた。

 なんという生き物なのだ。

 落ち込んでいるうちはそこまでの迫力もなかったんだがな。


 そうなんだ、マダムと違って弾むんだ。

 ゴム鞠みたいなのが薄着で目の前で揺れるんだが。


 思わずさわりそうになった。

 ばかな。待て。

 俺はガーディアンなんだ。

 父親とは違うんだ。

 目に入らなかったことにしよう。そうしよう。

 俺はよく分からん動悸を鎮めた。


 ちなみにご令嬢の髪はひどいくせっ毛だそうで、指で毎日縦巻きに整えなければ爆発頭になるらしい。おだんごドリルはごまかすために上げざるを得ないのだとか。


 そうだったのか。

 パーマネントウェイブじゃないのか。爆発頭ってどんなだ。

 そっちはちょっと見てみたい気もする。


 そんなある日のことだった。

 俺に慣れてきたご令嬢が、爆発頭のせいで友達の家に泊まりにも行けないと言うんだ。


 やたらと盛った頭が猫目の気の強さと合っていて、割と嫌いじゃないんだが。

 芯の通った縦巻きも俺は嫌いじゃないんだがな。


 ガーディアンの俺はご要望に合わせてチャイナタウンの凄腕ストレートパーマを紹介した。

 何年経っても落ちないと、アジア系の間で話題になっていたのだ。


 かくしてご令嬢は縦巻きロールの殻を脱ぎ捨てて、さらさらストレートヘアに変身を遂げた。

 長い猫色の髪をなびかせて、憧れだったのだと嬉しそうに笑った。

 笑ったんだ。

 あやうく萌えそうになったがここは三次元だ、このご令嬢は二次元じゃない。

 印象を変えるのも過去との訣別には大事だもんな。そうだなガーディアン冥利に尽きるよ。


 ご令嬢はニューヘアスタイルを心から満喫しているようだった。

 鏡を見るたびに微笑みを隠せていない。

 どうやら気力も完全に蘇ったようだ。


 マドモアゼルにせよマダムにせよ、女性という生き物はそういうものなのだ。

 悪役すらこなせるご令嬢ともあれば、華やかなのが一番なのだ。


 それにしても、こんな短期間で浮上してみせるとは、ご令嬢は偉いな。

 豆腐よりずっと偉いよな。


 かくしてご令嬢は努力家にも戻った。

 日本での外国人がそうであるように、外国人として対等に扱われにくい異国に、突然来させられたにもかかわらず、引っ込み思案になることもなく堂々と振る舞い、友達を何人も増やしていた。

 心配しなくてもご令嬢の友達の髪は桃色にも水色にも紫にも染められていなかった。近くにジョックまでいることには目をつぶるとして、まあメッシュは許容範囲だろ。猫らしいしな。勉強もときどきみている分には充分なようで、保護者として胸を撫で下ろした。


 新生ご令嬢は、アジアンビューティーとしてモテているようだ。モテ期を満喫するのは自由だが、そもそもが華やかな顔なんだから変な男には気をつけてくれ。

 別にモテ期の報告は要らないんだが、保護者だからレポートとかいるのだろうか。俺には関係ないんだが、そうかそうかよかったな。

 マダムもご令嬢も同意の必要な生き物だ。

 いいか、意見じゃない。必要なのは同意なんだ。


 デートに誘われたのか、そうか。いや遠出はさすがにやめとけ。

 でもグレートキャニオンが気になるのか。行きたいのか、そうかそうか。ホワイトサンドビーチもか、そうかそうか。砂漠か。

 その辺りならアンテロープキャニオンもいいよな、細い光が差し込むんだ。ホースヒューベントのU字も曲がりも忘れずにな。

 ヴァーミリオンクリフスや、ブライスキャニオン辺りも俺は好きだけどな。そうだな、すべからくあの辺の地形はいいよな。全部南北だしヴェカスからフェニックスまでレンタカーで一気に行けるんじゃないか。

 確かにセドナも行けると思うよ。そうだ、モニュメントバレーもあの辺じゃなかったか。


 適当に頷くんじゃない。

 気づけば猫目は期待に満ちあふれ、ノーとは言えなくなっていた。


 俺のガーディアン任務は、ついに日帰りではなくなった。

 飛行機とレンタカーでのエスコートである。

 グランドキャニオンを空から見た後にレンタカーで何日もかけてじっくり回るのだ。もちろん部屋は別々に決まっている。


 どこも素晴らしい景観で、猫目はきらめき、艶やかな長い髪が風になびいていた。

 変にかかった髪を戻してやれば、ものすごくさらさらしていたんだが。


 それにしても最近はディナーにエスコートする度に、あのゴム鞠が当たってるんだけども、注意したほうがいいんだろうか。

 他の男だと勘違いするんじゃなかろうか。

 油断しちゃダメだ。


 薄着には保護者としてカーディガンを着せることにした。ワンナイトラブを求めてアジアンビューティーを口説く男どもを見極めては蹴散らし、本人にも強く言い聞かせた。

 パーティーも相談を受けては、危なそうなものを選別した。必要に応じてエスコートもした。

 ガーディアンの仕事は多岐にわたった。


 島ではムッシュとマダムのホームパーティーはともかく、あまりスクール関係者のパーティーには出なかった。大学でもそれは同じだったはずなんだ。

 それなのに今はご令嬢に連れられて、高校生や大学生のパーティーにやたらと出ている。


 島での生徒のパーティはな、やつら快楽主義者だったんだ。

 ギャルゲーどころかエロゲ顔負けの快楽主義者の集まりだった。

 相手は一人にしておけ。

 マドモアゼルの一途さを踏みにじるんじゃねえ、しまっておけと何度言いたくなったことか。

 泣ける展開もいらんから、マドモアゼルよ、一刻も早く病院で安静にしたほうがいいんじゃないか。

 あれは乙女ゲーで一途さを知った俺には、もはや直視できるもんじゃなかった。お陰で勉強が身についた。


 だからこのベイエリアで開かれている、おかしいドレスコードや喜ばせようと企画された様々な仕掛けは、どれも俺にとってさえ結構新鮮だった。

 なにせ目鼻を鍛えた俺が厳選したパーティーだからな。快楽主義者が集まるパーティなんて、俺の回避スキルの前にはつまらぬものを斬ったってやつだ。

 だから規模はさまざまだったが、参加したどれもが学生らしいパワーがあふれた、いいパーティーだった。


 そんなふうにして。

 あっという間に一年は過ぎたんだ。


 ご令嬢の留学の最後には、マダムどものアドバイスに従い、ご令嬢によき思い出をと、プロムポーサルをする羽目になった。たいそう恥ずかしい思いもしたが、パーティーで知り合ったやつらがサポートしてくれたからな。

 ご令嬢にとってプロムは最高に楽しかったようだ。だってサイドキックスがわざわざそう教えてくれたんだ。間違いない。しかしどうしてそんな上位軍と知り合いなんだ。

 まあそんなことはどうでもいいんだ。

 ご令嬢の、学園での悲しいパーティーの思い出が帰国前に少しでも上書きできたなら、それでよかった。

 なによりご令嬢の笑顔が大変よろしい。いい女になったな。


 さて、ついにガーディアン任務を終え凱旋である。

 ガーディアンの仕事は帰国後に家に送り届けるまでだというので、夏季のプロジェクトに三日間の連休を申請して一時帰国した。そもそもプロジェクトの留学生参加の身で、穴埋めのデバッカーが控えているわけでもないから、機内でずっとデバック作業してたけどな。オーケー、クールジャパンってそれ呆れてるやつだろ?



 しかしここで、いつぞやのセリフを再び。

 なにが起こったんだ。マジでありえないんだが。


 なあ、いまさらかよって思うだろ?

 さすがの俺も、それは想定してなかったんだ。_

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

タイトル字のみ:『ヒロインよりも悪役令嬢が一途で萌えるんだが』


◎2020年4月1日23時頃◎
魔法が解ける前に公開します!
タイトル字のみ:『人物紹介|エンドロール、それぞれのゲームルール』へ
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ