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豆腐、中学に進もうとして島流しに遭う


 なんだって……!?


 愕然とした。

 ねえやが、俺のねえやが嫁に行くだと!?

 俺が寮生になるから、いい機会ですって微笑んで言うんだ。


 ねえやは家に出入りしていたIT成金に見初められて嫁に行くことになった。

 坊ちゃまのおかげで見初められましたって嬉しそうに綻んだんだ。

 だから俺にはわかってしまったんだ。


 ねえや、そいつのこと好きなんだな……。

 だったら仕方がない。


 そいつの経営はしっかりしているんだろうな。

 安心できる職種だろうな。俺のねえやをもらうんだぞ?


 俺はじいやに『五季報』の読み方を教わった。伸び盛りだった。右肩上がりだった。


 だけどそんなの、どこかのキャットファイトに巻き込まれないのか。

 そこに大人の悪役嬢はいないのか。

 

 俺にできることはなんだ。

 せめて俺の名前でねえやに毎月お菓子を送ることくらいしか、俺には思いつかないんだ。


 俺はねえやの後ろ盾にはなれない。後ろ盾になれるほど力がない。

 力が必要だった。

 勉強が必要だった。

 ぜんぶこれからだった。


 だけど、これだけは言わなきゃ気が済まない。

 俺は訪ねてきた成金をつかまえて、言っておくことにした。



 ――――いいか、ねえやはやさしいんだ! 俺の大切なねえやなんだ。世界一大切にしろよ。頼むよ。



   ◇


 そんなわけで。

 手続きをじいやに任せきりにして、ぼっちゃま参りますぞでいざ行けば。

 なんか離島だった。ハテ。


 それになんか日本語じゃなかった――セボン?



 島だった。

 離島だった。

 多島海だった。


 いや島民は日本語だったんだろうが、訛りが強すぎて通じなかった。その上、島民の半数以上は黄色人種じゃなかった。


 むしろ島の公用語はフランス語だった。

 どうして英語じゃない、国連か。いや、いずれにしても日本語であるべきだ。


 羽田から飛行機に二時間も乗っていない。

 船は乗り換えを含めて半日待ったが、一時間半しか乗っていない。


 本当に日本だよなココ。

 にわかに不安になってきた。

 ここはどこなんだ。


 結論から言えばやっぱり日本だった。

 そうだよな。島まみれな海を渡るまでは確かに日本語だったからな。

 遊びに行くために島を渡っても日本語だったからな。


 だがしかし、やはり訛っていた。


 最初の週末にやってらんねえと逃げ出したつもりの本土は、四国だった。

 ぽかんと開いた口が塞がらなかった。

 本州ですらなかった。

 本州どころか四国へすら船を乗り継がなければいけないという、夢かおとぎ話のような立派な離島だった。


 道理で港にヘリポートがあるわけだ。

 ヨットハーバーがあるわけだ。

 我が故郷東京はあまりにも遠かった。


 しかしこの大理石が取れ、鍾乳洞もあるという離島は、日本の地中海だと絶賛されているらしく。

 なぜかヨーロピアン芸術家が多く住んでいた。

 おまけに、富豪がバケーションを過ごすという白い別荘も多かった。


 日本にこんなところがあったとはな。

 平成の出島か。すごいな地方自治体行政。

 引きこもっていたら分からないことって、やっぱり世の中にはいっぱいあるもんだな。


 なんでも日本らしい治安の良さが売りらしい。


 この島独特の言語の通じやすさと、内海独特の凪と、多島海という景観。

 ユーロやドルで買い物ができること。

 いくつもあるビーチがまるで混んでおらず、しかも夜のビーチを歩けば、波打ち際に海ほたるまでもが青く光る。


 舌平目や牡蠣がれ。

 太りにくくも美食たるやを熟知していると評判の、東の最果ての長寿魔法料理がいつでも振る舞われる。


 聞いてくれ。

 魔法だってよ。魔法扱いかよ。

 日本料理ってやつはすごいな。


 そして、なによりも夏も冬もくもり知らずで日照時間がおそろしく長いところが、バケーションを過ごすのに完璧な環境なのだそうだ。


 そんなわけでマリーナは白いヨットだらけだった。

 ヨットといってもモーターがついた、日本でいうところのいわゆるクルーザータイプが主流だった。

 漁船が埋没する勢いで、所狭しと並んでいた。

 どうやらリタイア後に移住してくる人間も増えてきているらしい。


 日本はいつからそんなビザを扱うようになったんだ。特区か、そうか。



 おかげで白い壁の家と、オリーブと柑橘類と、おまけにフランス語とイタリア語とスペイン語と英語にまみれた中学時代だった。


 悪役ご令嬢よどこへ行った……?

 学園か。


 そりゃあその辺の町立中学にはいないよな。ましてや島の中学にはいるはずがない。

 たとえ肌の色や髪の色がとりどりの子どもが、どんなにわらわらしてようがな。

 俺だって分かってる。

 乙女ゲームの世界なんてあるわけがないんだ。


 それなのにみんな髪を自由に染めすぎである。

 そして案の定、潮風で傷んでいた。

 現実って、世知辛いよな。

 

 それにしてもいったいこれはなんなんだ。

 じいやから俺への罰なのか?


 この学校、リア充居すぎじゃないか?

 すぐカップルができるんだが。

 しかもすぐ別れたりするんだが。

 俺はぽかんと口をあけて見ていた。学園とは違う意味で近寄れる気がしない。

 そのくせやつら語学が得意なんだ。


 落ちこぼれ豆腐は豆腐らしく、シューティングプログラムを組むしかなかった。さあ来いよ三角関数。

 そうなんだ、島の学校はプログラミング教育が充実してたんだ。ただし英語のオンライン授業だけどな、世界のくるくる社で働いてたプロが講師なんだ。なにこれ楽しいな。

 そうだよ、好みのゲームなんて作ればいいんだ。


 いやいやじいやよ、ちょいと待たれよ。

 課題を出しては父のもとへと去るような家庭教師なんて信じちゃいないけど、それにしてもあのひと怠けすぎだったんじゃないか?


 そういうわけで、途中からはもっと言語の選択授業が増えた。ラテン語やサンクスリット語なんて言語学の基礎とか言われても、すでに死語だろ? マジか。みんなそんな基礎までやってるのか。歴史って過去じゃない、生きてんだな。

 物理など実験だらけの科目もあった。


 全く男子とか女子とか言っているヒマはなかった。

 朝七時から夜八時半までみっちり授業があった。


 いつの間に日本はゆとり教育を終えて、詰めこみ教育になったんだ。引きこもっている間か、そうだよなそれしかないよな。

 それでも今日のゲームの話してるやつら、みんなスゲーよ……。


 じいやは塾の手続きなどいりませぬぞと言っていたが。そうだな、たしかにこれだと塾なんていらないよな。

 図書館なんて朝の四時から開いてるんだ。


 夜や朝には諸外国の新聞が行き交った。

 ディベートの授業には時事知識が必要なのだ。

 俺自身必要に迫られて何紙も電子版を購読している。


 国によって同じ事件でも捉え方が異なるんだ。

 報道の仕方を知ることが各国のお国柄をつかむ勉強にもなるらしい。相手のお国柄に配慮して接しなさいってやつだ。

 世界が一瞬で繋がった国際化の時代だからこそ、社会に出るときに役立つんだと。

 じいや、これがウィンウインのためのお勉強ってやつだ。


 いいか。

 まずは最初に相手の話をただじっと聞くんだ。

 反論しちゃだめだ。

 このプロセスでは最初の忍耐が大事なんだ。


 よし。

 じゃあ次に、その相手の立場からものを考えてみるんだ。

 自我はいったん捨てるんだ。

 それで相手の話したことを自分の言葉に置き換える。


 置き換えて、そのうえちょっと言葉を足して、しゃべるんだ。

 もちろん紙に書きだしてもいい。

 そして相手の顔をじっと見てみるんだ。


 相手の目はなんて言ってる?

 ちゃんと相手の言葉を理解していれば、それは目に現れるはずだ。

 それでもだめなら、まだちゃんと理解できていないだけなんだ。


 そんなことになんの意味があるかだって?

 ちゃんと目の前のひとのことを考えているって言動で示すのが大切なんだ。

 いいか、それが信頼してもらうための第一歩なんだ。分かったか?


 相手が言いたいことはちゃんと伝わっていたとしっかり納得して、それからはじめて自分の考えを説明するのが、大切なプロセスなんだぞ。頼むよ。


 信頼ってなんだって?

 こちらの話を頭ごなしに否定されないために必要なものなんだ。

 信頼関係こそ、話をきいてもらいやすくなる秘訣なんだ。


 ちなみにこれは父親や母親と、学校での問題とかな。

 塾選びとか進路だってなんでもいいんだ。

 相手と冷静に会話しようとするときには役に立つスキルだ。


 こちらがしっかりと理解したうえで相手が聞いてくれなかったら、さっきの俺と同じように言葉にして確認してくれって頼みやすいだろう?

 だって自分が先に実践しているんだからな。


 同じように理解してほしい。

 お互いの立場を正確にお互いが理解した上で、話し合いをしたいってお願いするんだ。


 だってお互いの立場が理解できていたら、お互いの落としどころを探しやすくなるだろ?

 結果にも納得するだろ?


 これがウィンウィンの法則のやり方なんだ。

 国際的な学生ばっかりで相互理解がむずかしいからって、島の中学校ってやつはいつからかこんな法則を、英語の授業を使って読むのが通例になったらしい。


 俺だって引きこもる前に知っておきたかったけど……それでなんか変わった気はしないな。

 ガキの世界ってそんな簡単じゃないよな。

 現実ってもっと世知辛いもんだよな。


 それにしても宿題が襲い来るようだった。

 年々難しくなっていく気がするのは気のせいか?

 俺は留年してしまったかもしれない。

 この契約書の穴埋め問題なんて、スワヒリ語をフランス語に訳さないといけないんだが。

 俺は中学校に入ったときスワヒリ語どころかフランス語さえ小学二年生レベルで、嫁に行ったねえやに贈る祝い品を探そうとしても、大理石を積み上げた店先で、やたら足の長い職人とろくに言葉も通じずに恥ずかしい思いをしたんだ。

 必死で学ぶしかなかった。


 それにしても、言語と勉強とダンスまみれだった。

 クリケットもやった。

 そのうち、空手に忍術にフェンシングにアーチェリーと武術系の授業が増えたけどな。


 快楽主義者が多いからか、それとも義務教育だからか、身だしなみにもうるさかった。


 いや、あのスケジュールのなか恋愛をやってのけたやつらを心底尊敬する。

 どんな時間の使い方をしたら、そんな時間を作れるんだ?

 鍾乳洞にやつら放課後デートしに行くんだぜ。


 いいんだ、俺は決めたんだ。

 ――俺は魔法使いを目指すんだ。




   ◇



 うん(Hein)

 世界のくるくる社の出し方が分からないだって? 



 まず、くるくるローマンを開くだろ?

 そこの検索窓に入れるだけだよ。ケーユーアールアール×2だ。



# ====== Ouvrir le navigateur ======

# ==== ◇  ブラウザを開く ◇ ====

import webbrowserbs = webbrowser.get("…/loosr/bin/kurrroma")

# Ouvrez la page officielle de kurrkurr

# ◇ くるくる社公式を開く ◇

bs.open("URL")

# ====== Ouvrir le navigateur ======

# ==== ◇ ここまで終わり ◇ ==== _



 これでどうだ?

 そうか、ダメか……。

 なんでだろうな。_

 

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タイトル字のみ:『ヒロインよりも悪役令嬢が一途で萌えるんだが』


◎2020年4月1日23時頃◎
魔法が解ける前に公開します!
タイトル字のみ:『人物紹介|エンドロール、それぞれのゲームルール』へ
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