豆腐、引きこもって乙女ゲームを知る
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Hello, World!
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前書きと後書きを省くとすんなり読めましてよ。
====== REDÉMARRER ======
===== ◇ 再起動 ◇ =====
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なにが起こったんだ……。
目の前にいるものが、あり得ない状態なんだが。
なにがどうなって、こうなったんだ――。
もう一回言うから聞いてくれ。
なにが起こったんだ……。
目の前にいるものが、あり得ない状態なんだが。
なにがどうなって、こうなったんだ――。
ギルマスがブチ切れて、四年も一緒にやってたレイドメンバー全員をギルドから蹴り出すとか、現実にはあり得ない崩壊っぷりで、MMOを物理的に燃え尽きながら卒業した。
ギルドの危機という肝心なときに、みんなを護れなかったガーディアンなど、用無しもいいとこである。
これは涙じゃない、心の汗なんだ。
それから半年、陰鬱にギャルゲーに熱中しては飽きた。
黒髪も金髪も桃水紫の髪も見飽きた。
ダンジョン化はともかく、アヘ顔ピースはいらん。触手もいらん。NTRなどもってのほかだ。俺は三十歳になったら魔法剣士転職を目指すんだ。
だからもっとヒロインたちは純情であれ。
そんなころ、隣の世界のヒロインやら悪役ご令嬢たちの絵柄に萌えて、つい通販サイトをクリックしてしまった。乙女ゲーである。
尻軽に懲りていた俺は、純情なヒロインを操作しては癒された。そうだ純情さは自分で作ればいいんだ。
好みどおりのセリフを選ぶと自動的にヒロインはひとつのルートに入っていった。
俺が操作をしたわけではないが、そのルートに立ちはだかる一見ではビッチにしか思えない悪役ご令嬢は努力家だった。
猫色の頭を振り乱し、アヒル口を開いては必死につなぎとめようとあがく姿に、感心した。
ラストシーンで、学園を追い出されて外国へ旅立つご令嬢のしょんぼりとした後ろ姿には涙を禁じ得なかった。その代わり嘘くさい男には血反吐を吐いた。
出国ゲートへ向かうご令嬢を背景に、血反吐の野郎がヒロインにキスしてしまうんだ。
ご令嬢、振り返ったらダメだ。
振り返るな。
どうして振り返った。
これならいっそリアルのほうがましだろ。
ご令嬢の頬を伝った一筋の涙に、俺の涙腺は崩壊した。共感しまくりだった。
悪役ご令嬢が悪いんじゃない。ヒロインでもない。悪いのは血反吐なんだ。
そして考えた。
よし、せめて俺が血反吐を倒す男になってやろう。
俺は豆腐の盾しか持っていない男だが、やってみせる。
それでこそガーディアンになる男だ。
幸運なことに、俺はヒロインの操作を通じて、血反吐の好かれている部分を知っていた。
かかってこいイケメン。イケメンの条件はなんだ。身だしなみか。
身だしなみとはなんだ。
髪型か?
洋服か?
考えてみた。
髪のセットには、ねえやのチェックが毎日入っていたはずだ。ねえやに余念はない。
だってそうだろう?
俺がねえやを信じないで、誰がねえやを信じるっていうんだ。
だから、髪型で負けてるわけじゃない。
服装だって百貨店の人とねえやが決めるんだ。
そもそも俺も身だしなみにケチを付けられて逃げだしたわけではないのだ。
あとはキリッとするなり、腹黒するなり、チャラっとするなり、薄幸するなり、女子のファン心さえ味方につけてしまえば、俺だって。
俺だって、たぶん、もしかしてそれなりのポジションにいられるんじゃないだろうか……?
そう考えたら、なんか落ち着いてきた。
あとは勉強とスポーツか。
こんなのはたぶん努力次第だろ。
それでポジションが上がるというなら、むしろなんとかなるんじゃないか。血反吐なんてもしかして越えられる壁じゃないか。
ついでに言えば、引きこもりにも飽きてきたんだ。
もちろんギャルゲと違って、乙ゲーは周回なんてしなかった。
ヒロインよ二心を持つな。
操作せずとも純情であれ。
本気で頼む。
ラストシーンの涙を見てからは、悪役ご令嬢がかわいらしく思えてしょうがなかった。
血反吐から贈られた、バカっぽいリボンをつけた、でかい左右のお団子から垂れさがる縦ロールも。
挑発的な猫目も。
あざといまでの巨乳も厚い下唇も。
ギャルゲーで辟易したはずなのに、なんか萌えてきたんだ。
少なくとも最初のご令嬢は、一途だった。外見じゃない中身なんだ。
だからきっと他のご令嬢たちも一途に違いない。
そうだ、見るべきは悪役ご令嬢たちだったのだ。
外見の小悪魔度に惑わされてはいけない。大事なのは一途さだ。
俺はついに真髄を知った。
リアルマネーにあかせて、ヒロインとご令嬢たちが映るスチルはコンプした。
どうせ課金させるなら男が映らないスチルも売ってくれ。頼む。そして悪役ご令嬢単独のスチルも売ればいいのに。
そうやってスチルをパソコンの写真フォルダに放り込めば、なんか満足した。
だからその後はフツーにリアルに戻ることにした。
だって悪役ご令嬢の苦悩を思えば、俺が不登校児になった理由なんて、なんでもないって思えたんだ。
さあ不登校した中等部に行ってやんよ。
待ってろよ血反吐。
俺がおまえを越えてやる。
さあさあ悪役ご令嬢はどこだと思えば……そもそも俺は入学してなかったらしい。
私立だから、不登校ではエスカレーターには乗れなかったんだと、なるほど。
もはや十四歳も終わりに近い。
いまさら二年も出遅れての中等部通いも恥ずかしいので、いっそのこと俺のことを誰も知らない田舎へ、国内留学することにした。
そのはずなのに。
なにが起こったんだ……。
目の前にあるものが、あり得ない状態なんだが。
なにがどうなって、こうなったんだ――――セボン……?