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エイド  作者: 天界音楽
5/10

4

 翌日は大きな鐘の音とともに目が覚めた。窓にガラスはなく、直に木製の雨よけがついている。開け放った外はまだ真っ暗だったが、やがて空の色も変わるのだろう。ニールが水差しからカップに注いでいると、同衾の青年も起きたようだ。


「っあぁ〜〜あ、よく寝た。……にしても頭がいてぇのは、なんでだ?」


 起き上がって大きく伸びをしたロランは不思議そうに首をひねった。どうやら完全に覚えていないらしい。ニールは「どついてやろうか」と怒りを燃やしたがどうにかそれを抑え込んだ。朝から喧嘩したって仕方がない。


 朝食はパンとゆで卵、ベーコン、それに干した果物が何種類かあった。紅茶が欲しいところだが、そんなものは無いという。しかし、煎った豆の茶が出てきたので、それで我慢することにした。


 食事の間、ニールはまたいくつかの質問をロランに投げかけた。古い伝承や、まじないの中に帰るためのヒントが見つからないか、このあたりの地理や風習などそれは多岐に渡った。昨晩もそうだったが、彼はニールの質問には答えるものの、彼の方から質問してくることはまったくなかった。もしかすると、信じていないのかもしれない。


「……もしかして、俺が何をしようとしているのかも良く分かってないんじゃないのか?」

「あぁ? よくわかんねぇな。興味もねーし」

「…………そうか」

「ハッ、そういう関係じゃねぇだろ、オレらは。脅されて一緒にいるんだぜ? それに。オレはまだ、アンタの名前すら知らない」

「ニールだ。……特に言うべきことはない」

「フン……」


 名を明かしても、ロランの冷たい眼差しが変わることはなかった。しばらくふたりとも黙り込んでいたが、ロランが不意に口を開いた。


「アンタのあの、なんだ、格闘術? あれってなんだよ反則だろ」

「反則じゃない、普通の技だ。俺の習っている武術は、世界最古の武術だって言われている。どんな武術もルーツを辿れば、最終的に俺の習っている武術に辿り着くんだ」

「へぇ。まぁ、あれだけ強けりゃ納得か。……どれくらい修行してんの?」

「二十年だ」

「二十年!? ハッ、オレまだ生まれてもねぇじゃねぇか。……ふぅん、そりゃあ、……気の長い話だな」


 干した無花果(いちじく)を口に放り込み、もぐもぐやりながらロランが呟く。ニールはその言葉を聞き、年齢の差を痛感した。


「ああ、そういえば十五って言ってたもんな。俺がその武術を習い始めたのと同じ歳か」

「……覚えてたのかよ。フン、じゃあ、オレがアンタの歳になったとき、オレの方が剣を習ってた年数は上になるな」


 そう言って、ロランは小憎たらしい笑みを浮かべた。仕方のないガキだと思いながら、ニールは会話に乗ってやる。


「幾つから習ってるんだ」

「オレは十三のときからだぜ」

「なんだ、俺とそんなに変わんねえじゃねえか。ちなみに俺の師匠は五歳からやり始めたって言ってる」

「五歳かよ! っげ〜〜! ま。それでもアンタよりはオレのが先輩なんだよ!」

「こだわるなぁ。……でも、年数と実力は比例しない。長い間やってても一向に上手くならない奴も居れば、習い始めて一年足らずでかなりの実力を発揮するのも居る。努力も確かに大事だが、向き不向きやセンスも必要なんだ」

「なら、オレはそのセンスのあるひと握りってやつだな」

「さっきの戦いを見る限りだと、余りそうは思えんが……」


 「青いな」という言葉を飲み込んでニールはフッと笑った。


「あ〜あ、オレの剣があればなぁ〜〜! どんな具合か見せてやれたのによ。オッサンが置いてきちまうから!」


 ソファに体を投げ出して叫ぶロランは、年齢相応のガキに見えた。昨日、剣を持ってニールを殺そうとした青年とはまるで別人だ。だが、油断はできない。彼はべつに味方というわけではないのだから。そんなロランが「あっ」と大きな声を出したとき、ニールはドキッとした。まさか心の裡が読めるわけでもないだろうに……。


「そういえば。近頃街道を襲ったり盗みを働いてるっていう盗賊が、まだ討伐されてないんだよな。噂じゃ、山の中に根城でも持ってるんじゃないかって言ってたぜ」

「だからなんだ」


 話がよく見えない。そんなニールに向かって、ロランはニヤリと笑ってみせた。


「古代遺跡」

「!」

「思い出したんだよ。遺跡っていうよりは遺構っていうのか? 何もないとこだが、今も変な構造物が残ってるんだとよ。って言っても、それを聞いたのはずいぶん昔……オレがまだガキだった頃だけど」

「そこに連れて行ってくれ!」

「まぁ、そう言うと思った。支度しろよ、オッサン。探索者(シーカー)の“庭”に、連れて行ってやる」





 ◇◆◇





 食事を終えた二人は、盗賊が潜むという古代の遺跡についてさらに情報を得るために、探索者の”庭”と呼ばれている施設へ行くことになった。だが、その前に湯浴みして替えの服に着替えろとロランは言った。


「汗臭ぇのは嫌だからな……けど、やっぱりオッサンと入らなきゃならねぇのか……」

「当たり前だろうが」

「げ〜っ」


 この不誠実な青年を逃さないためにわざわざ同じベッドで寝たのだ、ここで自由にして置いてきぼりにされるわけにはいかない。毒を食らわば皿まで、だ。


 娼館であるためかこの施設には浴場がついているのだ。この時代、この場所であるからこその贅沢なのだが、ニールがそれに気づくことはない。むしろ、シャワーが無い分、不便だとさえ思っていた。


 不機嫌なまま風呂に入り、髭をそろうと寄ってくる女どもを退け、塩で歯を磨いて、ニールはサッパリして出てきた。ロランも一丁前に髪油で前髪を上げ、幼さが抜けた出で立ちだ。


「“庭”はオレも初めてだ……舐められるなよ、オッサン」

「そんなのは知らん。舐められようものなら舐め返すまでだ」

「へっ。じゃあ、いざとなったらアンタに任せるわ。さっそく行くか」

「ああ、待て。俺の服を洗って取っておいてほしい。失くしたくないんだ」

「はぁ? ……まぁ、いいけどよ。洗濯してもらって、山に登る前に乾いたのをここへ取りに来ればいいんだろ? おい、お前洗っとけ」

「はい、旦那さま」


 ロランは甲斐甲斐しく彼らの世話をしてくれていた中年の女性にそっけなく指示を出すと、今度こそ“庭”へと足を運ぶのだった。

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