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エイド  作者: 天界音楽
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「あれ……ここはどこ、なんだ?」


 目を覚ましたニールは、まず最初に目に入るはずの、シミのある見慣れた天井がないことに気がつき驚いた。それもそのはずで、そもそも彼が寝ていた場所は自宅のベッドの上ではなく、どこかの草むらの上だったのだから。


「え……え? あれ?」


 焦るニールの背後で草ずれの音がする。咄嗟に振り返ると、そこには細身の剣を手にした若い男が立っていた。しかも彼は映画『三銃士』の世界さながらにくたびれたボタンなしのシャツにズボン、ロングブーツという出で立ちだ。まだ少年とも言えそうなほどに若い黒髪の男は、ニールを見て訝しげな顔をしている。


「侵入者か? それにしちゃあ丸腰だな」

「っ!?」


 自分でも驚く速さで、ニールは咄嗟に立ち上がり、その人影に対してカラリパヤットの構えを取っていた。少年とはいえ相手は武装している。しかもどうやら常日頃から暴力を行使するのに慣れたような面構えだった。……子どもの頃に暴力的ないじめを受けてきたニールには、それがわかった。黒髪の若者に不信感と恐怖を覚えながらも鋭い眼つきでニールは問いかける。


「なっ、なんだ……あんたは!?」

「おっ。なかなかやるみたいじゃねぇか。でも、その質問に答える義務はねぇな」


 構えたニールに対し、青年はせせら嗤うと剣を抜いて切りかかってきた。どうやら話し合うつもりはないようだ。


「おらっ!」

「っ!」


 左足めがけて振られた剣先を間一髪で避けた所に、八の字を描くようにしてさらに剣先が迫る。それも体を捻って躱したニールは、踏み出した格好の青年の懐に入ると今度は逆に彼の肩や胸に拳を叩き込んだ。


「いきなり襲い掛かられる覚えなんてないんだが、そっちがその気なら俺も殺すつもりで行くからな」

「あ? わざわざ王都の騎士学校に侵入しといて、襲い掛かられる覚えがねぇとは。馬鹿言ってんじゃねぇぞ、侵入者」

「はぁ?」


 王都だとか騎士学校だとか……およそ普通に生活していたら出てこないような言葉だ。


(まさか、この展開って……いや待てよ……)


 もしかしたらもしかして、いや、まさか……。

 自分が今どんな状況に置かれているのか、脳がだんだん理解してくる。だが、ニールはそれを認めたくなかった。


 異世界転移――。

 バカバカしいことこの上ないが、それより他にこの状況を説明できる理由がない。しかもニールにとってはこれが二度目の転移……初めてではないのだ。


(くそったれが……!)


 相対している青年――ロランは、動揺しているニールに気づかないわけではなかったが、それには構わず今度は上段から剣を振りかぶって切り下ろした。ニールはそれをスウェーで避けると、今度は青年の利き腕、剣を持っているその手首を掴んで攻撃を封じる。


「なっ、てめ……!」


 そのまま手首を軸にして引っ張り、ロランがバランスを崩した所で足を払い飛ばし、空中で一回転させる。そして背中から地面に叩きつけられたロランのみぞおちに、全力でストレートパンチを入れた。


「ぐはっ!」


 それでも剣を取り落とさない青年にニールは、立ち上がり彼の右手から強引にロングソードを蹴り飛ばした。そして、ロランの胸倉を掴んで立たせると右腕にカラリパヤットの関節技をかけて拘束する。


「ぬん!!」

「ぐあああぁっ!!」

「ここはどこだ、言え!! 言わないと肩の関節を外すぞ!!」

「ぐっ………うぐ……わ、わかった、言うから離せ……!」


 そう言われ、ニールは警戒しつつもロックを外す。しかし、ニールの腕から力が抜けた瞬間、ロランは左手でニールの顎に拳を叩き込み、さらに右の拳もニールの胸に突き刺した。たたらを踏むニールに、青年の表情が嗜虐的に歪む。


 ロランはさらにパンチを繰り出そうとしてくるが、こうした体術はニールにとっても大得意とするところだ。相手の方が若く体力が豊富だろうが、そこは経験とテクニックでカバーする。パンチを足でキックして弾き、そのままロランの顎をカラリパヤットのストレートキックで蹴り抜いた。


「ぶほっ!?」


 急所である顎にダイレクトヒットを食らったロランは、そのまま仰向けに倒れて立ち上がれなくなった。脳震盪を起こしたのである。


「俺は、約束を破るような奴が大嫌いだ」

「あっく……くそ……。ジジイのくせに……」

「もう一度食らわされたいのか」


 ニールの怒りのボルテージがさらに上がっていく。凄んで見せると、黒髪の青年は観念したように鼻息を漏らした。


「…………それで、オレをどうする気だ。殺すのか?」

「誰がそんな事言った。俺は、ここがどこで、お前は誰なのかを答えろと言ったはずだ。殴られて馬鹿になったか?」

「チッ……。ここはマイヤール王国だ。王都ベトナスの東、王立騎士学校の敷地内、訓練場の裏。俺はローランド・ロートリンゲン。伯爵の三男、十五歳。騎士見習い」


 ローランドと名乗った青年は舌打ちすると両手を頭の後ろで組んで、敵意の放棄を示して見せた。そしてまるで訓練されたようにスラスラと情報を吐いていく。それらはやはり、ニールにとっては聞き覚えのない単語ばかりだった。


「……アンタこそ何者だよ。これはもしかして抜き打ちの試験なのか?」

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