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宇宙エレベーター見学ツアー  作者: ぜんしも
4/41

(4) 重力減少

一夜明けて、今日は2日目の朝です。今はヴァンアレン帯の内帯の中をひたすら走っています。これからいろんなところで、宇宙特有の現象を体験することになります。

2日目の朝、目覚めたときには重力が0.3Gになっていた。


なんだか違和感だらけで一日が始まった。


ベッドから起き出す時も、朝食を食べるときも、洗顔や歯磨きの時も、体のあちこちが普段意識しないような場所にあったり、予想できないような動きをしたり、ぶるぶる震えたり、なんだか自分の体の一部でありながら、別の誰かにコントロールを乗っ取られているような具合だった。そういえば無重力レクチャーの時にも同じような話を聞いたような気がするが、その時はまったく想像できていなかった。そうか、こういうことが起こるのか。やっかいなことだなあと、起き抜けから少々気分が優れないでいた。しかしパーリャの方は、まったくそんなことは感じていない様子に見える。個人差があるってやつか?


まだ完全に無重力というわけではないが慣れていくことも必要なので、そろそろトレッドミルの運動を始めることになっている。トレッドミルとは、いわゆるルームランナーなどと呼ばれる、部屋の中で歩いたり走ったりして運動を行うための器具だ。ただし、ここにあるのは無重力環境用に作られたもので、ゴムバンドで肩を器具に押し付けながら運動するようになっている。これで、いわば無理やり足や背骨に体重がかかる状態を再現して、身体への負荷を重力下と変わらないように調整しているわけだ。


こんな器具がコンパートメントには用意されていて、1日に1回、または2回程度運動をすることを推奨されている。これをやらないと、地球に戻った時に筋肉が弱くなって、歩行に苦労することになるらしい。また同時に骨に負担がかからないため、骨からカルシウムが放出されて、いわゆる骨粗しょう症の状態になるなんて話も聞いた。いずれにしても、人間の体は無重力仕様にはできていないため、健康状態を保つためにいろいろと工夫しないといけない。サプリメントなんかも毎日もらえることになっているけど、宇宙旅行ってのは、なにかとややこしいもんだと改めて実感する。


そいでもって、今はそのルームランナーに苦労してるってわけだ。背骨や足は、むしろいつものようにちゃんと負荷がかかるんで、全く問題を感じないのだが、腕がうまく振れない。なんだか腕に体が振り回されるように感じてしまう。運動モーメントがどうこうってやつなんだろう。違和感ありまくりの状態だ。


「ん?どしたの?」


パーリャは何食わぬ顔で歯磨きをしている。ごく自然に見えるが、なんでこいつこうも順応してるんだ?


「なんか違和感がないか?……こう、なんか、自分の体がうまく動かないっていうか……」


「んー、別に。まあ確かに体が軽くなって、いつもと違うと言えば違うけど、動かす分には問題ないけどね。お兄ちゃんは何か問題あるの?」


「はっきり言って動きづらい。ちから加減が正直よくわからんで、思ったのと違う動きをしてしまう。何でお前はそう自然に動けるんだ?」


「んー、運動神経が優秀?」


「それはうそだ。体育とかスポーツとか苦手なくせに」


「でも、水泳だけは得意だからね。あ、そうか。あれだよ。水の中に入ってる感じ」


「なに?」


「ほら、水の中にいると無重力になるじゃん。それでも手足はちゃんと動かせるでしょ?あんな感じで動かしてみたら?わかる?」


「あー?水の中?」


パーリャが言うことは、なんか合理的な気がする。そうか、水に入って手足の重さが感じられなくなることがあるもんな。手足に体が引っ張られるっていうか……。そんな時は水の抵抗を使って体を自由に動かすんだが、ここに水はないしな、うーん……


パーリャに言われて、しばらく水中のイメージで身体を動かしてみる。相変わらずうごきはぎくしゃくしているが、そう言えば少しは体の違和感も薄れた気がする。まあ慣れてしまえばいいんだよな。ふむふむ。


15分ほど走ってみたが、それなりに慣れてきたような気がしたので、今日はこれくらいにしておく。毎日しなきゃならないのか。時間を決めて習慣づけるのがいいって言ってたな。朝にするか、夜にするか……。


「あ、そうそうパーリャ。今日以降のオプショナルプログラム、どうする?午前はオプショナルじゃなくて全員参加のやつがあるみたいだけど」


「それってなにやるの?」


「自分で見とけよ。スケジュールお前ももらったろ?」


「どこに置いたか忘れた」


「忘れんなよ。コピーしたろか?」


「いい、お兄ちゃんが持ってればそれで充分」


「僕に頼るなよ。ま、ともかく午前のプログラムはえーと『クライマー内設備の案内と非常時の訓練』だってさ。そりゃ全員参加だな」


「ふーん、それは社長さんが出てくるやつね?」


「んー、出てくるみたいだな。で、午後のプログラムだけど、なんか参加したいやつあるか?」


そういってプログラムをスクリーンに表示した。パーリャが目をしぱしぱさせながら読んでいる。やっぱり相当視力が落ちているようだな。眼鏡買え。


「んー、とりあえず今日開催の中では、これかな?『宇宙エレベーター講座I』」


「それって『I』ってことは、『II』とか『III』もあるわけか?」


「うん、『VI』まである」


「全部受けるのか?『VI』まで?」


「受けたいけど、まあ飽きたらやめるかも。でもできれば続けたいな。だってこれ、講師が社長なんだもん」


「社長の講義目当てなのか?」


「うん、まあね。他に社長担当のオプショナルプログラムってあんまりないし…」


「どっちかというと社長は全員参加のプログラムばっかりだな。それに参加してりゃいいじゃん?」


「みんないると、競争率が高くなっちゃうよ」


「なんの競争だよ?」


「そりゃ、社長と個人的にお話をする競争だよ。あ、ごめん。お兄ちゃんも狙ってるのか?そりゃ困ったね」


「いや、狙ってないから」


とりあえず、別のアイディアもないので今日の午後に開催される予定のオプショナルプログラム「宇宙エレベーター講座I」を二人して申し込んでおいた。明日以降のプログラムはまた後で考えよう。申込は各プログラムの開催4時間前まで、スクリーンでいつでも予約できるから、ぎりぎりまで考えていてもいいだろう。


ちなみに「宇宙エレベーター講座I」の裏プログラムには、「無重力料理入門I」だとか「無重力マナー講座I」なんてのがあるみたいだ。なんか引かれる気もするけど、後半の降りてくるときにも同じプログラムがあるみたいだから、その時にまた考えることにしよう。え?「無重力マナー講座」の講師ってセルゲイさん?え?大丈夫なのか?


そうして午前の全員参加プログラムに参加するべく、食堂に移動した。しかしすでに重力が心許なくなってきているので、マグ(磁力靴)を装着してこいと注意書きが書いてある。磁力靴といっても自分の靴の靴底に貼り付けるタイプのやつである。手首に着けるリモコンでオンオフができるので、必要だと思ったらオンにしよう。


「これ、着けとけってさ」


そう言ってパーリャにマグを投げる。重力が少ないので鈍いパーリャもなんなく受け取れたようだ。パーリャもすぐに自分のスニーカーの靴底にセットしている。そういえば今回のツアーではハイヒールは禁止って書いてあった。そりゃそうだよな。


「いくぞ」


そう言って僕らはコンパートメントを後にした。


                * * *


このクライマーは全部で4両編成になっている。上から1号車、2号車となっていて、一番下にあるのが4号車だ。それぞれが4階層に区切られていて、やはり上から第1階層、第2階層と数えるようになっている。まあ4階建てのビルが、縦に4つ重なっているようなもんだ。で、4つの車両のうち、2号車と3号車が客車であり、僕たちのいるコンパートメントは2号車の第4階層にある。ついでに部屋番号が1なので、僕たちのコンパートメントは、2号車の第4階層の1号室ということで「2-4-1」という記号で示すことができるわけだ。


編成の各車両は基本的には独立しているが、各車両の中には小さなエレベーターがついていて、それが各車両の間も同時につないでいる。エレベーターといっても籠のあるやつではなくて、人一人がなんとか上り下りできる程度の狭いはしご段というかオートステップ、つまりはモーター駆動で上り下りできる自動はしごだ。エスカレーターが階段じゃなくてはしごになってるやつ、といった方が伝わりやすいだろうか。ともかく宇宙エレベーターの中にさらに小さなエレベーターがあるってのは、ちょっとおもしろい。


1号車と4号車に客室はない。これら2両はスタッフオンリーで、乗客は原則として立ち入りできない。この車両は、制御室や機械室とスタッフの居室、医務室があるほかは、すべて倉庫なんだそうだ。食料から水や酸素、リネン、薬品その他の備品がぎっしり詰め込まれているらしい。そりゃ25トンもの貨物を積んでいるんだろうから、倉庫の体積も相当なものになるのだろう。


そして今回の集合場所となる食堂は、部屋番号で言うと「3-1-1」。我々のコンパートメントがある2両目から通路を下った3両目にある。見学以外で行くのは今日が初めてだ。オートステップを使って3両目に降りていくとすぐのところにある。他の参加者も徐々に集まりつつあるようだ。社長もすでに来ていて、他のスタッフと一緒に受付業務をやっている。


「あ、カンパーネン様、おはようございます。名札をおつけください。こちらがお嬢様の分です。プログラムの時は、いつもこの名札を付けて参加してくださいね」


「はあ、わかりました」


名札を受け取って、他の人たちが集まっている場所に行く。といってもさすがにクライマーの中なので、そう広い空間ではない。というより全員ちゃんと入るのか?入ったとしても、けっこうぎっしりなんじゃないかなあ?


「ぎゅうぎゅうだね。ここでお話があるのかなあ?」


「どこかに移動するのか?といってもここより広い場所もないだろう?」


ここまで低重力の中を歩いてきたが、そう歩きづらいというほどでもなく、マグのスイッチを入れなくてもなんとか歩いてこれた。というか、結構楽しかった。弾む足取り、ってのをそのまま再現したような歩き方だっただろう。


「お前、普通に歩いてたな」


「お兄ちゃんもでしょ。別に歩きづらくなかったよ」


「うん、普通に歩けたな。ようやく低重力にも慣れてきたかな」


「そのうち無重力になると、もう歩けなくなるかもね」


「無重力になったら、ぷわぷわ浮かんでいけばいいんだろ。それはそれで楽しみだな」


「うん、早く重力なくならないかな」


そんなことを言っているうちにメンバーがそろったようだ。社長が声を上げる。


「みなさま、おはようございます。これから朝のプログラムを始めますが、ご覧の通り大変狭くなっておりますので、先ほどお声がけさせていただきましたおひとり様で参加されている皆様には、下の階に移動していただきます。クルーのミティーホフがご案内いたしますので、どうぞ彼に続いて移動をお願いいたします。お二人様で参加されている皆様は、このままこちらでお待ちください。」


2グループに分けるのか、そりゃそうだ。今回ツアーの参加者は合計14人。そのうち僕たちも含む4組が2人での参加で、この部屋に残る組だ。残りの6人は一人での参加。この人たちは下の階に移動するらしい。下の階にも別の部屋があるんだろう。軍人さん、そうそうセルゲイさんだっけ、手を挙げて乗客を誘導している。挙げた手が天井に触りそうだ。結構身長あるな。クライマーの中で仕事していると、さぞ狭く感じていることだろう。そんなことを思いながらぞろぞろと続いていく列を見送った。そしてふたたび社長が声を上げた。


「お待たせいたしました。2グループに分かれてプログラムを進めてまいります。こちらのグループは、私、アリシア・ナカイと、スタッフのナヒム・ガンが担当させていただきます」


そういって、アリシアさんはもうひとり男のスタッフを紹介した。ちょっと浅黒い、アジア系の人だ。年齢は……若い?それともおじさん?ちょっとよくわからないが、小柄な人だ。でも人懐っこい顔でニコニコ笑っている。アリシアさんは、先を続けた。


「みなさまマグ、磁力靴はお付けになられておりますでしょうか。お持ちでない方はこちらにいくつか用意してございますので、お申し出ください。これからのプログラムでは、マグの使用法などについても説明する予定です。……お持ちでない方はいらっしゃいませんね、…ありがとうございます。それからプログラムの途中でも、もし途中でご気分が悪くなられたり、差しさわりなどがございましたら、話をさえぎっていただいて構いませんので、すぐにお知らせください。」


「重力がだいぶん少なくなってきておりまして、体の中ではさまざまなバランスが変わろうとしているところでもあります。低重力症状に対するケアの準備を整えておりますので、いつでもご相談ください。それから、低重力になりますと、脳が体内の水分量を誤認する症状も出てまいります。おトイレが近くなることもありますので、ご遠慮なくご退出ください。」


細かいところまで、いろんな注意があるみたいで、本題に入るまでに結構な時間を要した。それからのプログラムは、各施設設備の見学、設備の使用法、非常時の脱出方法、脱出経路などの説明が続いていく。最後に放射線防護設備の説明と、その中に備えられた緊急用支援物資の使い方の説明を終えて、一行は元の食堂に戻ってきた。だいたい90分くらいの長いプログラムだった。車内限定とはいえかなり移動したけれど、低重力下だということもあって筋肉はさほど使っていないような気がする。その代わり、いろんな注意が飛び交っていて、精神的にはかなり疲れた。


「お疲れさまでした。以上で今回のプログラムは終了となります。途中にも申しましたが、非常の際には車内放送によるご案内をいたしますので、その指示に従って行動していただけますよう、お願いいたします。みなさまのほうから、なにか確認されたいことなどございますでしょうか?…よろしければ、これで解散とさせていただきます。またお食事の時刻になれば、ご案内いたします。ありがとうございました。」


ふぅ~、やれやれと息をついてみんなしてぞろぞろと2号車に戻っていく。僕もオートステップに乗り込む列の後尾に並んだ。


だが、ふと気づくとパーリャが近くにいない。あれ?どこ行ったんだ?


しばらく見まわしたが、パーリャの姿が見当たらない。まだ食堂に残ってるのか?僕はオートステップの列から離れて、食堂に戻ろうとした。するとパーリャは食堂の入り口で誰かと話している。よく見ると、社長……アリシアさんをつかまえておしゃべりしているようだ。


あー、あいつまたなにか迷惑かけてるんじゃないだろうな。フォローしに行くべきか、とも思ったが、なんだかアリシアさんも結構楽しそうに笑っている。これはあれか?いわゆる女子トーク?


なんだか割って入るのも申し訳ないというか、気後れしてしまって、僕はそのまま遠巻きにして話が終わるのを待つつもりになった。だが、やっぱり踵を返して、先に部屋に戻ることにした。あいつにはあいつの用件があるんだもんな。真面目に就活やってるってことかも。ま、お兄ちゃんらしく生暖かく見守っておいてやるか。


そんな言い訳をしながら、僕はオートステップに乗り込んでコンパートメントに向かった。


                * * *


「いやー、どこのコンパートメントだったかわからなくなっちゃってさー、アリシアさんに送ってきてもらっちゃったよー。ラッキー!」


能天気な声とともにパーリャが帰ってきた。気楽でうらやましい限りだが、言うべきことは言っておかないと。


「お前、さっそく社長に迷惑かけてきたな?アリシアさん、あきれてただろ?」


「いやー、アリシアさん、可愛いねえー。お友達になってきちゃった。あれはあたしが男でも惚れちゃうねえ。お兄ちゃんもなかなかお目が高いよ」


いろいろ聞き捨てならないことをいいながら、パーリャはひとりトークをたたみかける。


「アリシアさんって、25歳なんだって。大学に入学したばっかりの時にお母さんを亡くして、なんだかわかんないけど結局ひいおじいちゃんが遺したこの会社をお母さんの代わりに引き継ぐことになっちゃったんだって。で、まだ社長になって1年目で、ツアー添乗員やるのも今回が初めてらしいよ。本人は理科系だけど、大学では生物学をやってたらしくって、発酵工学……?だかなんだかの研究者になりたかったらしいけど、そんでもって宇宙のことはさっぱりわからなくって大変なんだって。」


「まあいろいろあってこの会社を継いだからには、精いっぱい頑張りたいんだけどまだまだ勉強中で、お客様にも社員たちにも申し訳ないとか言ってた。いや、謙虚で初々しいねえ。マジいい友達になれるといいなあ。私がこれからもいろいろお話させてください、って言ったらすごく喜んじゃって、ぜひ、とか言って顔を真っ赤にしてるの。もー、かわいいったらありゃしない!」


「お前、この短時間でよくそこまで聞き出せたなあ。あの社長って、結構無防備?」


「お兄ちゃん、なに黒い目線で見てるの?彼女はほんと純粋なんだよ。お兄ちゃんのこともちゃんとアピールしといたんだからね。あの有名な多国籍企業バリアントグループの取締役専務理事の息子で、優秀で将来を嘱望されているサラブレッド。いまは系列の子会社で修行中だけど、いずれは経営陣に加わってひょっとしたら社長とか会長になる器かも。彼女いない歴数年以上の掘り出しもんですよ、ってな感じで持ち上げといたからね。もちろん、あたしも由緒正しいご令嬢で、家事全般から馬術、社交ダンス、ヴァイオリン演奏までなんでもこなす楚々とした美少女!ただいまデビュタントボール準備中です!って具合にね。いや、後半ほとんどうそだけど……」


「いや、ちょっと待て、どこからどこまで発言したんだ?どこからうそだって?はっきりしてくれ!」


「いやまあ、そこまで派手なことは言ってないけどね。別に引かれたりはしてないと思うよ、たぶん」


「ほんとかよ、大丈夫なんだろうな。いいから、アリシアさんに言ったこと、ここでもう一回包み隠さず全部言ってみな?おい!」


そんな意見が通るわけない。パーリャは平然として、「別に大したことは言ってないよ。ふつうに自己紹介と、ちょこっとお兄ちゃんの話もしただけ」とそんなことを言う。このくらいしか話すつもりはないらしい。まあいつものことなんだが。僕はあきらめて話題を変えた。


「それでお前の就活についてはどうなったんだ?そんな話はしてないのか?」


「もちろんしたよ。インターンシップ蹴ってこのツアーに参加しにきたんで、SEMでインターンシップやらせてくださいって申し込んだ。」


「社長に直接インターンシップ申し込む学生がどこにいる?正規の手続きを踏めって怒られただろ?」


「ううん?インターンシップというわけじゃないけど、このツアーでの従業員たちの仕事ぶりをよく見て、ツアーが終わった後にまだやりたいって思うんなら声をかけて、って言われた。これってもう採用ってことじゃない?ねえ?そう思わない?」


「あほか。声をかけたら、それでようやくインターンシップに申し込みできるってことだろ?世の中そう甘くないって」


「そうかなあ。ぜひ来てほしいって彼女の心の声が聞こえたんだけどなあ」


「バカ言ってんじゃないよ。それよりほんと僕のことなんて説明したんだよ。次に会った時、あわてて目をそらされたりすんの、いやだぜ?」


「そういう目にいままでさんざん遭ってきたんだね?うんうん、苦労したねえ」


「誰のせいだよ。まったく」


この後、昼食は食堂で食べたのだが、そこではアリシアさんの姿は見かけなかったので、パーリャが一体何を吹き込んだのかは確認できなかった。その代わり、先刻のプログラムでちょっと話したボシュマールさん夫妻と同席させてもらった。ボシュマールさんはなんでも建築家の人で、大きな仕事が片付いたところで休みを取ったんだそうな。詳しいところまでは聞かなかったけれど、まあ常識人だった。普通の人たちと普通のお話ができて、ちょっと癒された気分になった。パーリャもお嬢様を完璧に演じてた。うん、えらいえらい。いつもこうだといいんだけどな。



ツアー2日目 現在地点:高度6420km ヴァンアレン帯内帯を抜けたあたり 重力は0.24G

パーリャちゃんは、アリシアさんとすっかり仲良くなったみたいです。アリシアさんも、お仕事の殻を脱ぎ捨てたら、中身は普通の女の子なんです。パーリャちゃんといいお友達になれるといいですね。ちなみにパーリャちゃんが口にしたお兄ちゃんのプロフィールは全部ほんとうです。ただしもちろんアリシアさんにそこまでは言ってませんけどね。パーリャちゃん自身のプロフィールは、……ご想像にお任せします。


次回は初めて食堂でほかの人たちと食事をします。ちなみに、このツアーに参加している人たちは、みんないわゆるセレブな人たちです。豪華客船旅行並みの費用が必要な旅ですからね。もちろんマエーク君パーリャちゃん兄妹も、それなりの家の人ですしね。基本的な食事のマナーなんかはばっちりマスターしています。

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