(10) 人工衛星との関係
今日のお昼は、また第1食堂に来ました。さっきまでアリシアさんの講義を一緒に受けたギルバートさんが、ここではまたフロアスタッフとして働いています。でもなんだか様子がおかしい……というか、普通に元気に迎えてくれました。あれ?と二人は疑問に思います。今日のお話は、人工衛星と宇宙エレベーターの関係です。
4日目のお昼ご飯だ。なにか軽いものがいいな。こってりお肉系もいいんだけれど、昨日カツレツを食べたもんだから、ちょっと胃を休めたい気がする。そんな気持ちを抱きながら、第1食堂に出向いた。
すぐにギルバートさんが僕たちを見つけて席に案内してくれる。今日はちょっと早めに来たから、僕たちが最初の客のようだ。
「ギルバートさん、こんにちは。先ほどはどうも」
さっきは、ちょっとご機嫌斜めだったようで、少しためらったけど、挨拶しないわけにはいかない。するとギルバートさんは、さっきの態度が嘘のように愛想よく挨拶を返してくれた。
「こんにちは、カンパーネンさん。パーリャさんも、ようこそいらっしゃいました。こちらにどうぞ」
僕たちが席に着くと、オーダーを聞いてくれる。
「お飲み物はどういたしますか?今日は中華風のメニューですから温かい中国茶が合うかもしれません」
めずらしくネタバレをしてくれる。僕たちはそれに乗った。
「じゃあ、おすすめを二人前で。それでいいな、パーリャ?」
「うん、私もそれで」
「承知しました、しばらくお待ちください」
ギルバートさんが去った後、僕たちは隠れるようにテーブルの上にふせて、目を合わせあった。
「ギルバートさんって、2重人格?今朝の態度と違いすぎるよ」
「うん、そうとしか思えない変わりぶりだね。それとも極端なプロ意識?営業時以外は絶対笑顔は見せないとか」
何を話し合っても解決するものではない。怪訝な顔をしながら料理が来るのを待った。
「お待たせしました。炒飯と点心のセットです。デザートは杏仁豆腐です。どうぞごゆっくり」
炒飯も点心も勤め先の近所の中華料理屋でよく出てくるメニューだ。あっさりしたものが食べたいと思ったのは何だったのか、油のにおいが少し香ばしくて食欲をそそる。点心も、4種類あるけどそのうち焼売と饅頭は食べたことがある。だがたぶん揚げたライスペーパーともうひとつ、白い餃子のようなものは初めて見る気がする。デザートはたぶんいつか食べたやつだ。味は忘れちゃったけど。まあいいや、いただこう。
そう思ってスプーンをとった途端、キュウさんと昨日の人が一緒に現れた。
「ああ、カンパ―レンさん、こんにちは。またご一緒させてもらってよろしいですか?」
「カンパーネンさんだろ。申し訳ない、いい加減な男なもので。私はキュウの同僚でガスパール・ベゼルと言います。同席させていただいてよろしいですか?」
僕はむしろうれしくなって、即座に了解した。
「ええ、どうぞ。マエーク・カンパーネンです。こちらは妹のパーリャ。よろしくお願いします、ベゼルさん」
「ガスパールと呼んでください。ガスでも構いません」
「あ、じゃあ僕のこともタンシーとかタンさんとか呼んでください」
「はい、ガスパールさん、タンさん」
なんだか凸凹コンビっぷりが面白い。ふたりそろって初めて真価を発揮するって感じだ。
キュウさん……いや、タンさんは、二人分の座席を確保する。
「今日は、こんな感じで中華風なんだそうですよ。僕らは中国茶を頼みました。タンさんの方がくわしいですかね?」
「いや、僕は両親は中国人ですが、生まれも育ちもオーストラリアなんですよ。中華料理のことも、人並みにしか知りません。母親が洋風スタイルの愛好家でしたからね」
「そうなんですか、どうりでアジアの人らしくないと思ってました」
クスクス笑いながら、パーリャはタンさんをからかっていた。するとそれを受けてガスパールさんが、
「だからと言ってオーストラリアらしいってわけでもないですがね。あえて言うならこいつは、キュウタンシーという生物だと思ってください」
そんな感じで、笑いの絶えないお昼を堪能した。みんなが食事を終えてお茶で一服しているころ、僕は昨日のことを思い出してタンさんに尋ねてみた。
「タンさん、昨夜はよく眠れましたか?テザーのことは納得できたんでしょう?」
ガスパールさんが、よくわからない顔をしていたので、僕は説明を補足した。
「昨日のお昼、タンさんが愚痴ってたんですよ」
そして周囲を確認した後、僕は声を潜めた。
「テザーがあんまり細くて、切れてしまいそうだって。不安で眠れないって言ってたんですよ」
ガスパールさんはとたんに呆れた顔をして、言い放った。
「こいつがそんな繊細なもんですか。僕の方が眠れないくらいですよ。こいつのいびきでね!」
この二人は同室なんだ。そういや2日目の施設見学の時にいたなあ。特におしゃべりしなかったけど。でも、たぶん見た目以上に仲がいいんだろうな。
「違うって、本当に眠れなかったんだよ。おかげで今でも寝不足の影響が出てるんだよ。いくら眠っても寝足りない!」
タンさんは情けない声で言い訳をしている。
「でも、まあ昨日アリシアさんが教えてくれたおかげで、テザーの件については安心になったけどね」
「まだなにか不安なことがあるんですか?」
僕がそう聞くと、タンさんも周囲を確認して声を潜めたうえで、白状した。
「いや、今度はまた不安になってきちゃってさ。宇宙エレベーターって、ずっと赤道上の一点にいて、停まったまんまだろう?そしたら無数にある人工衛星とぶつかったりしないのかな、って。もう不安で不安で夜も眠れないんですよ」
この人は、実はクレイマーなんじゃないか?どうでもいいことで難癖をつけて、お金とかをたかる人……。
「こんなことを言ってるけど、夜になったら誰よりも早くあっという間に寝てしまうんですよ。騙されちゃいけません」
ガスパールさんはタンさんには容赦がない。それはともかく、確かに人工衛星は1周回るごとに2回は赤道を通過するはずだ。膨大な数の人工衛星が地球の周りをいろんな角度で回っているとすると、そのうちのいくつかは宇宙エレベーターのテザーに衝突してもおかしくはない。いったいどうしているんだろう?
「あ、そういえば……」
パーリャが珍しく意見を言った。
「宇宙エレベーターって動かせるらしいですよ。ねえ、お兄ちゃん」
「え、あ、ああ。そう聞いた」
「そうなんですか?」
タンさんもガスパールさんも興味津々でこちらに注目している。
「僕が調べた限りですけど、この『ターサ」は、もともとはもっと東の方にあったのを動かして現在の位置に持ってきたらしいですよ。だけど、それは1年もかけて周到な準備をして行ったんだそうです。人工衛星がぶつかるからと言って、すぐにひょいひょい動かせるというものではないはずですよ」
うーん、と3人とも首をかしげて考えるポーズになった。その時、パーリャが何かを思いついたようにテーブルに話しかけた。
「『ギルバートさん、お茶のお代わりを頂けませんか?4人分』」
「かしこまりました。すぐに参ります」
答えたのはテーブルのアシスタントだ。だが即座にギルバートさんに伝わっているんだろう。パーリャはテーブルの応答を聞いた後でこう言った。
「わからないことはギルバートさんに聞いてみよう」
そうして、お茶を持ってきたギルバートさんに、まさに今の疑問をぶつけたのだった。
「ねえ、ギルバートさん。この宇宙エレベーターって、人工衛星にぶつかったりしないんですか?ささっとよけられたりするんですか?それが不安で眠れないって人がいるんですよ。どうなるんでしょう?」
ギルバートさんは、一瞬硬直して、「え。ええーっと……」と考えた末、
「ち、ちょっとお待ちください。お茶を飲まれている間に少し調べて、すぐに戻ります」
そういって、厨房の奥に消えたのだった。
しばしみんなは茫然としたのだが、これはやっぱり僕が言ってやらなければならない。
「パーリャ、仕事中の人を捕まえて無理なお願いしているんじゃない。ギルバートさん、困ってたじゃないか。今のはちょっと失礼にもほどがあるぞ。ギルバートさんが戻ってきたら謝りなさい!」
「えー、そんなにいけないことかなあ?お客さんが不安に思ってるんだったら、従業員全体が一丸となってきちんと解決しなきゃ。そう思うんだけど……」
パーリャの言うことももっともだけど、それは裏を返せば……
「そういうけど、文字通り従業員の人たちが一丸となってその問題を解決しに来たらどうなるんだ?昨日のアリシアさんの二の舞どころか、それ以上のことになるぞ!?」
昨日の光景がまじまじと思い出されたらしいタンさんとパーリャは、ちょっと青ざめた顔をした。ガスパールさんは、わからない顔をしている。その時、不満げな顔をしてギルバートさんが戻ってきた。僕はすかさず、謝った。
「す、すいません、ギルバートさん。こいつが無理なことお尋ねして。今度またアリシアさんの講義の時にでも聞いてみます。わざわざここで回答いただかなくても……」
そんなことを言ってると、ギルバートさんは心底いやそうな顔をして、しかし丁寧に答え始めたのだ。
「宇宙エレベーターと人工衛星の関係をお尋ねですよね。静止衛星や赤道上を周回する特殊なものは除いて、一般的な人工衛星は、1周する間にかならず2回、赤道上空を通過します。しかも赤道と交差する位置はほぼ毎回変わります。ですから、いつかは必ず宇宙エレベーターの位置で赤道と交差することになります。おっしゃる通り、人工衛星は何周も地球を周回しているうちに、いずれ必ず宇宙エレベーターとぶつかることになります」
そんな説明で始まったので、タンさんは「ほら、やっぱりだ」という顔でギルバートさんを見上げた。しかしギルバートさんは落ち着き払って話を続けた。
「しかし、少なくとも現在稼働している人工衛星は地上の基地から常に場所を把握され、どんな軌道を飛ぶかが完全にわかっており、またその軌道にずれなどがあれば、それは必ずコントロールセンターの知るところとなります。したがって、仮に何回かの周回後テザーに衝突する可能性があるということが判明すれば、それは事前に通達されます。」
なるほど、人工衛星は人工物なのだから、どんな軌道でどこを回っているかというのは把握されている。したがって衝突の恐れがあれば、必ず事前に把握できるはずだ。しかし、把握してどうする?
「2078年に制定された『地球周回軌道利用原則』以降に計画され打ち上げられた人工衛星は、宇宙エレベーターとの衝突が回避できるよう、自身の軌道を変更するスラスター等の装備が義務付けられています。それ以前の衛星で軌道変更ができない衛星は、役割を終え次第ほとんどが落下処理、または回収済みですが、未だに回収されていないものもないわけではありません。主に軍事衛星として機密にされていたものですが、これはまだ数機程度軌道に残されているはずで、これらに関しては公には軌道要素が明らかになっていません。他にも故意に隠されている衛星がないとは言えませんし、『利用原則』制定以降の衛星でも、装置の故障や誤作動などを含めれば、万全とは言えないでしょう」
確かにこのような故意に秘匿されてきた衛星などがあれば、不安要素は未だに多いことになる。
「ひとつ救いがあるとすれば、現在秘密にされている軍事衛星があって、それがいずれかの宇宙エレベーターに衝突する可能性があった場合、その衛星を保有し管理している国は、その可能性にいち早く気づくはずです。そうすればその国が衝突の危険を察知した時点で、自力で衝突を回避しようとするか、またはそのことを公表して、何らかの方策をとれるように手配すると思われることです。」
「すでに軍事衛星の打ち上げ能力を保有するすべての国は、現在稼働している4基の宇宙エレベーターの保有勢力のいずれかに属しています。そして、衝突の対象がたとえ自勢力のエレベーターでないとしても、今後起こりうる同様の事態を避けるために、積極的に協調の態度を示すはずです。万が一、衝突した衛星が自国が秘匿していた衛星だということが露見すれば、他の3勢力のすべてから責任を追及されるのは目に見えていますから」
なるほど、衝突するとわかった時点でその衛星はいずれにしても使用不能になるわけだし、そこでしらを切ったとしても、その後の事故調査の段階で、いつ衛星を管理していた事実が露見するかわからない。そんな危険を冒す国はないと考えられる、というのは一定の説得力があるだろう。
「これら軍事衛星を含めて、とにかく衝突の可能性が発見された場合、事前に軌道が判明して危険性がある程度明らかになれば、その時点でデブリとして処理できるよう国際法が整備できています。しかし一般的には、そう簡単に軌道が判明するとは思えませんし、いろんな対策や処理の手段が間に合うとも限りません。最悪の時には、衝突の可能性が判明し次第、こちらから避けなければ回避できないと思われます」
だがどうやって避けるというのか。アースポートをそう急には動かせないし、仮に動かしたとしても、うまくよけることができるのか。
「テザーを動かして、能動的に衝突を避ける方法はいくつかあります。ひとつは稼働中のクライマーを適切に上下運動させ、クライマーにかかるコリオリ力を利用してテザーを揺らし、超長波の波を起こしてその振幅によって避ける方法です。このやり方ですと、クライマーの位置と衝突の高度にもよりますが、数時間……5~6時間程度から半日の時間的余裕があれば実施することができるとシミュレーションされています。まずはこれで衝突を避けるのが、次善のシナリオです。」
「もう一つは最後の手段になりますが、アースポート、またはGEOステーションを動かしてテザーの位置を変え、避ける方法です。これは衝突が予想される高度によって、どちらが有効かが変わります。衝突高度がGEO付近であれば、GEOステーションを動かす方が正確に効果的に避けられると考えられますし、逆に高度が地球に近ければ、アースポートを動かした方が効果的でしょう。そしてGEOよりも高い高度の場合は、アースポートとGEOステーションを同時に動かすやり方が、最も効果的と思われます。」
「もちろん、いずれの場合もGEOをはさんでの上下の重量バランスやテザーの張力バランスを完全に把握しながらコントロールしなければなりませんし、そもそも稼働中のクライマーが存在した場合は、まず退避させなければなりません。その上で、テザーの動きを完全にシミュレーションし、確実に避けて、他に支障が生じないように配慮しなければなりません。正直言って、現在はまだ、さまざまなシミュレーションでAIに経験値を積み上げている状況で、誰も、他の宇宙エレベーターも、まだ経験したことのない難事業だと思われます」
「いずれにしましても、アースポートやGEOステーションを動かすというのは最悪の事態です。もし本当にアースポートを緊急に動かしたりしたら、おそらく周辺の海洋環境がかなり悪化するはずです。燃料も使いますし、アンカーや海上施設もパージしなくてはなりません。そしてスクリューで海水をかなりかき回すことになりますから。」
「ということで、そんな決断をしなくてはならなくなる前に、電波や光学による衛星、地上からの監視、果ては目視観測まであらゆる方法を使ってイレギュラーを検知することが、最も重要なのは言うまでもありません。現在はそのための組織、宇宙環境監視機構が24時間365日の観測体制をとっています」
ギルバートさんは、そこでひと呼吸区切って、最後にこう言った。
「このような説明でご安心頂けますでしょうか?」
僕たちは、ギルバートさんの説明に聞き入っていた。もちろん結論として、手放しで安心できるというような情報ではなかった。が、考えられる限りの想定をし、また考えられる最悪のシナリオを全力を使っても避けるべく、不断の努力がなされているということに対しては納得させられる報告だった。僕たちはこの不安を訴え始めた張本人であるタンさんの意見を視線で求めた。タンさんは大きくうなづいてこう言った。
「ギルバートさん、ありがとう。あなたの説明に大いに納得しました。もちろん衛星との衝突という可能性が解消されたわけではないです。でも、考えてみれば地上で歩いていても、隕石が上から降ってくる可能性は決してゼロではない。そしてむしろそれ以外の事故に会う可能性の方がはるかに高い。私も、いたずらに不安を増幅して思い悩むのではなく、その不安を払しょくするためになされている多くの努力について報いることを考えることにします。この短い時間にわざわざ調べてくださって、ありがとうございました。あなたのプロ意識に、私は敬意を表します。本当にありがとう」
そしてギルバートさんに対して拍手を送ったのだ。僕たちもなんだかつられて拍手をしてしまった。ギルバートさんは、少し面食らったような顔で、ぺこりと頭を下げて、そのまま厨房の中に戻っていった。すこし赤面しているように見えた。
「ああ、私は久々に感動したね。昨日のアリシアさんの熱弁もすごかったけど、今日のギルバートさんもすごかった。彼らに限らず、このツアーのスタッフたちのプロ意識は、鬼気迫るものがあるね。我々も見習わなくては、とつくづく思ったよ。ねえ、君たち」
タンさんは、素直な感想を披露してくれた。もちろん僕らも同じような感想を持った。
「ほんとうに、素敵な人たちですね。私も仲間にしてほしいと真剣に思いました」
パーリャは、インターンシップ、いや就職を真剣に考えるようになったようだ。僕も、この人たちを何とかして応援したいと、素直に考えた。しかしそのあと、ガスパールさんは何か腑に落ちないような顔でこんなことを言い残したのだ。
「前に彼に自己紹介されたときは、確か『フェルデンと申します』、と言ってたような気がしたんだが、同じ人だよな?姓がフェルデンなのかな?それともギルバートが姓?」
* * *
「ねえ、どういうことだと思う?やっぱり二重人格?」
部屋に戻ると、パーリャはガスパールさんの最後の言葉が妙に納得がいくように僕に確認する。僕もその意見には賛成だ。たぶんこれは……
「たぶん、彼らは別人だね。双子の兄弟ってとこじゃないか?」
「やっぱり!私もそう思ったんだ。なんで隠してるんだろ?」
「聞かれもしないのに、わざわざ説明はしないだろ」
そう思うのも本当だが、たぶん彼らにも悪意、とまでは言わないまでも、いたずら心のようなものはあるのだろう。我々が気づかなかったり、不思議に思ったりするのを楽しんでいるのではないかな?しかしパーリャは性善説支持者のようだ。
「そうだよね。わざわざ双子ですって言い出したりしないよね。こっちが勝手に勘違いしているだけだろうしね」
「まあ、僕らも気が付かないふりをしておこう。でも、確実に見分けがつくように観察は怠らないようにしよう。僕はそうすることにするよ。パーリャはどうする?」
「うん、私もちゃんと説明されるとか、名乗られるまでは知らないふりをしておく。わざわざ言いたくないのかもしれないし……」
ということで、この件は保留に決まった。まあギルバートさんのあの性格だと、わざわざ言い出したりしないだろうし、もう一人の……フェルデンさんだっけ?この人は、むしろギルバートさんに対するいたずら心で黙ってるような気がする。さっきの解説も、実はギルバートさんがフェルデンさんにハメられたんじゃないか?まあ、しばらくは付き合ってあげることにしよう。
そんな風に、僕は心の中で納得をしたのだった。さて、午後の予定はなんだったかな?僕は手元のPCでスケジュールを確認した。
ツアー4日目のお昼 現在地点:高度2万5800km もうすぐ地表からGEOまでの4分の3に達する 重力は0.02G
そう、マエークの推理通り二人は一卵性双生児で、あまり親しくない人には見分けられないほど似ています。そのことを、ギルバートは特に隠しているつもりはないですが、フェルデンはその状況を楽しんでいる節があります。フェルデンはどちらかというと今回のような説明は苦手で、逆に接客などを得意としていますし、一方ギルバートは、この手の知識が豊富で、この列車の中ではメインオペレーターの役割を果たしています。ただし人見知りで、接客業務は大の苦手です。ということで、プロ意識、というよりはフェルデンの罠にはまって、説明要員として送り込まれることになったギルバートでした。
次回は、宇宙太陽光発電所を観測する話です。