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Justice Breaker  作者: 狼狽 騒
第三章
98/292

空戦 07

    ◆




 正義(ジャスティス)を破壊する――


 その言葉が耳に入ってきた次の瞬間、ヨモツは相手機がこちらに向かってくるのを視認した。

 刀を振りかぶってきた相手の武器を、自分の剣で受け止める。

 武器同士にほとんど差はない。

 剣も刀も欠けることもなく、お互い反動で若干下がる。


(――これはどうだ!?)


 ヨモツは機体を下に急激に移動させる。

 空中戦と地上戦の一つの違いとして、下方からの攻撃が増えるということがある。

 左右と上部は空間があるために地上でも認識は出来るが、下は普段攻撃時に意識が向かない。

 故に対処が難しい。

 避けようと思っても左右に動いたり、足で受けたりしてしまうのが一般的である。それは地上での戦いが慣れている者ほどそうしがちではあるが、しかしその対処をしてしまうと距離がほとんど取れないために攻撃を受けてしまう可能性が高い。

 そのような状況の中。


 相手機は――上昇した。


(これも駄目かっ!?)


 空中戦の回避方法は、攻撃の前行動の機体の動きに対して逆方向に動くこと。

 なので相手の対処は大正解であった。


 と。

 距離が少し離れたと思ったら、相手機は機体の上半身を完全に下に――ひっくり返るような形になったと思うと――急激に下降してきた。


「マジかよっ!?」


 空中戦での下降はかなり恐怖心が煽られる。

 だが相手は躊躇なくこちらへと――真下へと機体の頭を向けて降下してきた。


「ありえねえっつーのっ!?」


 下降しながら攻撃してくる相手の刃を、機体を回転させながら衝撃を受け流す。

 くるりと一回転し、何とか頭を上に持ってくる。


 ――しかし。


「どこだ!?」


 相手の姿を見失う。

 目の前の視点のどこにもいない。


「っ!」


 咄嗟にヨモツは機体を前方に急発進させる。

 数秒後、ヒュン、という背部に何かが通るのを感じた。

 振り向きながら上部を見ると、相手機がそこに悠然とした様子で存在していた。


 つまり、相手は下方から勢いよく攻撃を仕掛けたということだった。


「あぶねえな、おい!」


 恐らく下を見ながらであったら避けようが無かったであろう。何も見ずに前方に全速力で発進させたことが功を奏したようだ。


 しかし相手の攻撃はここで終わらない。

 すぐに上部から再びこちらへと向かってくる。


「ぐ、ぬううううううううう!」


 地面を背にして相手の攻撃を受ける。

 一撃、二撃、三撃――

 相手の雨あられの攻撃を受ける。

 刀の切っ先に注視しないと受けきれない。

 集中して裁く。

 だけど、受けているだけではない。


「ぬううん!」


 受け戻し、その勢いで上へと移動する。

 相手もさながら、移動するヨモツのジャスティスに合わせて機体を回転させ、背を見せないようにする。

 今度はこちらが上になって攻撃する。

 相手も攻撃を上手く受け流してくる。


「……って、うぉ!」


 更にどんどん機体を気付かぬ範囲で微小に身体を起こしてきて、いつの間にか頭が上を向いた状態で対峙していた。

 ギン。

 ギィン。


 金属がぶつかり合う鈍い音が響く。

 どちらも決定打を持たぬまま、一分ほど経過した。

 故にどちらの機体にも異常はなかった。



 ――()()()()()()()()



(――そろそろだな)


 鍔迫り合いをしながら、ヨモツは口の端を歪める。

 そして力で相手を押し出した後、急激に上昇を始める。

 当然の如く、相手機も追ってくる。


 ――だが。


『なっ!』


 唐突に、相手の焦った声が聞こえて来た。


(よっしゃあっ!)


 相手の焦った声にヨモツは内心で喝采を上げた。


 ヨモツが仕掛けた作戦は時限式だ。

 戦いが長引けばその効果を発揮する。


(案外長かったな……いや、本来はもっとこっちが持つはずだったと考えれば妥当か)


 ヨモツは上昇を止めながら相手に向かって告げる。


「ようやく毒が効いてきたかぁ! ゲヒャヒャ!」

『毒、だと?』

「そうだ毒だぁ! 教えてやろう!」


 相手の憔悴した声に気をよくしたヨモツは言葉を跳ね上げる。


「この可翔翼ユニット最大の弱点は――()()()()()なんだよぉ!」


 可翔翼ユニットはジャスティスと異なって燃料を必要とする。

 しかも大量の。

 故に安易に出撃は不可能であり、かつ、短期決戦の必要があるのも理由である。


「お前にわざと奪わせた可翔翼ユニットの燃料はあらかじめある程度減らしておいた! 気持ちよくお空を飛んでここまで上空に来た所でガス欠になるようによぉ!」

『なんだとっ!』


 ヨモツの作戦は功を奏した。

 可翔翼ユニットの燃料が無くなれば、相手はただのジャスティスだ。

 流石にかなりの上空からの落下ダメージに耐えられる構造ではない。

 加えて自由落下している間は、ただの無力な存在となる。手足をじたばたするだけであろう。

 そんな状態の相手に対して、まだ十分な燃料を積んでいるヨモツの機体が負けるはずがない。


「既に勝負は決してんだよ! ゲヒャヒャ!」


 相手の機体が徐々に推進力を失い、スピードが無くなっていくのを確認したヨモツは、自分の機体を下に向け、相手の機体と同じ高さまで向かう。


 ここまでやり合って来て実感した。

 相手はかなり強い。

 きっとこのまま戦闘したらどちらが勝つか分からなかっただろう。

 だが、準備の差で最初は負けたが。


 最後は――準備の差で勝った。


 卑怯な手だと罵るがいい。

 それでも『正義の破壊者』のエリートパイロットを撃破した。

 これで目的の相手に敗北を与え、勢いを止めることが出来た。

 それが重要だ。


 その一撃を、今、叩き込もう。


 ヨモツは剣を振りかぶり、既に可翔翼ユニットからの出力が無くなって仰向けとなっている相手機に向かって振り降ろす。


「俺の勝ちだあああああああっ!」

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