空戦 02
◆
「――来たか」
ヨモツは森林が動いたのを見て、敵の襲来を悟った。
相手は十中八九『正義の破壊者』だろう。ウルジス国の可能性もあったが、彼らは表だって戦闘でルード国に刃向ってはこない。上の方で何か交渉事があるのか、ヨモツ自身がウルジス国と戦闘したことは無かった。今回も『正義の破壊者』という存在がある中で、サポートはしているかもしれないが、表立ってルード国に対抗してくることは無いと判断した。
ハッキリ言って、ヨモツは政治に疎い。
空軍元帥でいるのも、ハッキリ言って周りが持ち上げてここまで来ただけだ。
実力はある。
だが、政治力はない。
それが自分で分かっているからこそ、同立場の人間に対しては傲慢な態度を見せているのだ。
傲慢さはその裏返しなのだ。
故にヨモツの本性は――臆病。
ただ、臆病さは弱さではない。
慎重さはむしろ強さだ。
ヨモツは臆病で慎重を期す。
故に考える。
(……『正義の破壊者』の所有しているジャスティスは一体と聞いている。となればどの方向から来るのか……?)
ヨモツは瞠目し、音に耳を集中させる。
ガサリ、という音は東から聞こえる。
東ならば予定通り。
一番隠れやすく、一番、襲撃しやすいポイントにしておいた。
だったらこのままで――
……ガサリ。
「――違う!」
ヨモツの目が開く。
彼の耳には確かに聞こえた。
東とは逆――西方向の木々のさざめきを。
認識した瞬間、思考を切り替える。
前提が違った。
思い込みだった。
咄嗟に通信を開き、全パイロットに告げた。
「気を付けろ! 『正義の破壊者』はジャスティスを――複数所持していやがる!」