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Justice Breaker  作者: 狼狽 騒
第一章
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自覚 02

    ◆




 翌朝。

 と言っても既に太陽は昇り切っており、時計の短針が完全に左を差そうとする時間。


「……遅刻だ」


 学校に行くつもりが無いにも関わらず、起きて目覚まし時計を見た彼の第一声はそれだった。

 焦る様子もなく、かといって寝ぼけているわけでもない、平坦な声。


「とりあえず、襲撃はされていないようだな」


 周囲を見回しながら、ベッドに放り出していたシャツを羽織って窓の外を見る。


「やっぱり夢じゃなかったか」


 緑がふんだんに使われていた景色はくすんだ茶色が多くなり、開けた森は寂しさを感じた。その眼の端には、崩れて元の形を失ったジャスティスだったものが映っている。


「まだあるってことは……軍の奴ら、来ていないのか」


 動きが遅い……いや、慎重なのか?

 クロードはテレビを付ける。あれだけの破壊をされていたが、地下に埋めてある電線は無事だったようで、液晶に映像が映り出す。


『……今日の主なニュースは以上です』


 アナウンサーがそう告げ、画面にいくつかのトピックスが表示される。


「……やはり、報道規制されているか」


 トップニュースはアリエッタの来訪が近付いているということで、他には強盗未遂事件や政府が打ち出した政策などが羅列され、それらよりも余程の重大である、ジャスティスがクロードの家を襲ったことはおろか、ジャスティスのジャの字も映っていなかった。


「未だ正確な被害を確認できていない、ってことか。ジャスティスが一機少なくなっているのはすぐに判るだろうけど、その用途は言えないからな。……となるとそろそろ、軍上層部から内密に、誰かが俺の家に派遣される頃合だ」


 警戒を強め、クロードは半身になって窓から外を見張り続ける。

 だが、一時間、二時間が過ぎても、一行に人の来る気配がしない。三時間が過ぎても、誰もクロードの家に近付く者はいなかった。


「……おかしい」


 窓の傍に椅子を寄せてコーヒーを啜っていたクロードは、眉間に皺を寄せる。


「慎重に様子を見ているとはいえ、流石に昼を過ぎるまでに来ないのは遅すぎる。一般兵にもジャスティスがないことが露見して、もう既に騒ぎにはなっているだろうに……」


 ずっと張りつめていた緊張が切れたのか、確認もせず不意に玄関から外に出る。


「ああ、うっかりしていた」


 外に出てからそう呟くクロードは、頬を掻いた。

 もし籠城作戦であれば、外に出た瞬間にクロードは蜂の巣になっていたかもしれない。完全に気を抜いていた。


「静かだ」


 自分の胸の鼓動しか聞こえないような空間で、クロードは空気を目一杯吸う。気のせいかも知れないが、以前よりも美味しくなかった。

 クロードは視線を上に向ける。

 どうやら上空から監視されている訳でもなさそうだ。


(じゃあ……もう来たのか?)


 首を捻りながら、昨夜と変わらず崩壊しているジャスティスへと足を向ける。


「……調べた様子もないな」


 ジャスティスの頭部を軽く叩く。それだけでボロボロと剥がれ落ちる。


「えい」


 唐突に、近くにあった瓦礫の山を蹴り飛ばす。

 その中から、あの軍人の蒼白な顔が曝け出される。


「回収もしていない、と……じゃあ、やっぱ誰もここに来ていないな」


 もしクロードが寝ている間にルード軍の人間が来たのならば、ジャスティスの回収はできなくとも、少なくともそのパイロットの捜索はするだろう。その際、一番可能性があるジャスティス周りを捜索しないということは有りえない。また見つけた場合、その場に放置するのも考えにくい。仮に死体を見つけて逃げ出したから、ということであれば、前日と同じように埋まっていたということと矛盾している。それ以前の話で、一瞥しただけで逃げ帰った場合は、援軍を連れて戻って来るであろう。それこそ、クロードを危険視して。

 故に、多種多様な推測に合わない現在の状況に、クロードは混乱していた。


「……とりあえず待つか」


 じっくりと腰を据えて考える必要がある。それしかないとクロードは判断し、再び家へと身体を翻した。



 しかし、何時間経っても、誰一人として来訪者はいなかった。

 四六時中気を張っていた訳ではないので断定はできないが、襲撃などの大幅なアクションは夜になっても起こされなかった。


 そして、再び月が昇り始めた頃になって、クロードはある結論に至った。


「何もなかった――そういう扱いにするってことか」


 夕飯として作成したハンバーグの最後の一切れを口にしながら、彼はそう言葉を落とす。


(ルード軍は、ジャスティスが帰ろうが帰らまいが関係なく、こちらを視察するつもりはなかったのだろう。その帰還の是非で判断できるから)


 頭を()(むし)るクロード。


「あー、阿呆だな俺は。死体の回収なんかする訳がないのに。むしろ、これ以上の汚点を重ねないために、こちらに来るはずなんてない」


 となると、ルード軍が市民の反感を買うことが確実ではなくなる。

まだ露見していないから。

 この事件が露見していないということは、つまり、誤魔化せるということ。

 ここでルード軍がクロードの家に出張ってきたら、誤魔化さずに晒すこととなる。


(ま、俺に直接交渉するという手段の方を選ばなかったということは……殺すつもりなんだろうな)


 当然、この惨状を知っているクロードは、本来ならルード軍に文句を言うはずであろう。

 さすれば、わざわざ向かわずに呼び寄せることができるのだ。

 そこで殺せば、露見はしない。

 殺しても問題ない。

 彼が文句を言いに行けば、反逆罪でも無理矢理付けられるから。


「あっちもこっちも誘い待ち……そりゃ来る訳ないな」


 立ち上がり、食器を水に浸しながらクロードは呟く。


「こうなったら文句を敢えて言いにいかない。普通の生活をしながら、この惨状を広めるだけ広めてやる」


 洗い物をしながらクロードは強い決意を込めた声で、こう放った。


「よし。明日は学校に行こう」


 いつも通りの生活をする。

 それが相手にとって一番嫌な選択肢。

 何食わぬ顔をして、何事もなかったように振る舞う。

 ルード軍は手を出せないし、恐怖感も与えられる。

 そうすれば、流石にあちらからアクションがあるだろう。

 和解交渉に持ち込んでくるのならば、それでよし。

 殺すつもりならば――


「……その時に考えよう」


 その言葉と共にちょうど最後の食器を洗い終わる。

 そこでクロードは再び考えるのを止め、寝床へと向かった。


 だが、クロードは気が付くべきであった。



 今日一日、誰一人としてクロードの家に来ていないことに。


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