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Justice Breaker  作者: 狼狽 騒
第三章
62/292

分散 01

 ――話は海戦直後まで遡る。


 コズエを弔った後、『正義の破壊者』は、彼女を殺されたという大義名分を抱え、ジャスティスへの破壊活動を驚くべきスピードで実行していった。

 続々と領土侵攻していたルード国の足を止めるどころか解放すら行っており、今や正確な所は誰も知らないが、ルード国の領土はジャスティス導入開始時とほぼ同等と見られていた。

 かといって、その分だけもう一つの大国、ウルジスが拡大しているかと言えば、そういうことではない。

 誰の領土でもない、自立国。

 公式上はそうなっている。

 だが、実情は違う。


『正義の破壊者』の領土。


 彼らが占拠したというわけではないが、ジャスティスを破壊尽くした後、ほぼその国の国民全員が『正義の破壊者』に入っていた。勿論、その際には儀式として赤い液体を飲むという行為は続けられていた。それ故に犯罪思想を持っていた場合や、犯罪を起こす人間が絶命する仕組みも継続してあったため、治安の良さにも一役買っていた。

 もっとも、ジャスティスに対して恨みを持つ者、という縛りは実質無くなっているに等しいモノではあったが。

 そのような経緯もあって『正義の破壊者』の所属人数は右肩上がりだった。



 そしてそこから幾ばくかの時が過ぎ――


 今やその正確な人数は誰も把握していなかった。



    ◆



「……はぁ」


 溜め息を吐く音。

 移動型コテージの一室にて、額に手を当てている一人の少年が発したモノだ。


 魔王 クロード・ディエル、その人である。


 黒髪という世間で謂われている魔王の特徴そのものの恰好ではあるが、その哀愁漂う背中は管理職を髣髴とさせる。もう一つの特徴であるコートは、傍にある椅子に掛けられていた。

 実際、彼は管理するうえでの悩みを抱えていた。


(ここまで多人数にするつもりはなかったんだが……どう管理したらいいんだ?)


 肥大化した組織の運営。

 彼が抱えていた問題は、従来であれば普通の高校生であった彼には重い案件だった。


 組織運営自体はカズマが作ってくれていた土台があるので、今のところはうまく回っている。しばらくはその基礎のおかげで大丈夫だろう。


 しかし問題は、そのカズマが組織運営を行うような精神状態にはもうならないということだ。

 更に彼は前衛のエースへと役割が変わったので、代わりとなる人物を探さなくてはいけない。

 そのことについて、クロードは悩んでいた。


 クロード自体が望んだとはいえ、カズマが戦闘特化の存在になってしまった影響を今もろに受けている状態だ。

 不満。不平。不公平。

 下からつぎ上がってくる声に対応する。

 このことをカズマはやっていたのかと驚くと共に、心労を今更ながら知る。


(せめてこのことについて誰かに相談出来れば――)


 そう思考した時に真っ先に思いついた顔。

 幼い少女の顔。

 夜、いつも会話をしていた、あの少女のこと。


(……もうあれからかなり経っているのに、まだ振り切れていないのか?)


 自分に問う。

 答えはない。

 彼女の死によって、非情になることは出来た。

 だが、彼女自体の死を振り切ったわけではないことが、今の思考で分かった。


 コズエ。


 彼女のアドバイスはかなり有効だった。


(赤い液体を飲ませることを所属の条件にさせるのも、その赤い液体を作り続けることも、こんな風に組織が肥大化する中での想定だったのか……)


 今更ながら、彼女の有能さに驚かされる。

 彼女が提案したこと、意見を聞いたこと――恐らくは兄であるカズマにも色々言っていたのだろう。それらが今、上手く向いていることに後ほど気が付く。

 同時に知る。

 彼女を失った大きさに。


「……まあ、いいや」


 クロードは頭を振る。

 コズエを振り切るために。

 そして、この案件について振り切るために。


「組織はミューズに任せよう。よく考えたらどうでもいいしな」


 どうでもいい。

 彼の本心であった。

 真面目ゆえに、そしてコズエの意志を反映させて少し考えてしまったことで余計な思考をしてしまっていたが、クロードは別に単独でもよいのだ。

 ジャスティスを破壊できれば。


「――それより、こっちだ」


 クロードは目の前にある二つの情報をどのようにするかを思考する為に、天井を睨み付ける。


 一つはジャスティスの出現情報。

 もう一つは、とある国からの親書。


 クロードの心情としては当然、前者の方に自らの身を置きたかった。

 だが、二つ目の方を無視するには、あまりにも相手の存在が大きかった。


「……どうしようかな」


 問うまでもなく、答えは決まっていた。

 流石のクロードでも理解は出来ていた。


「……仕方ない。あとは気合だ。頑張ろうか」


 誰にも見せないよう、配慮した部屋の中。

 弱気な発言も愚痴も全て落として。


「なめられないよう、利用されないよう、気を付けよう」


 彼は椅子に掛けてあった黒いマントを羽織る。

 そうすることによって姿も気持ちも切り替える。



 完璧な魔王クロードという虚像へと。

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