プロローグ
第三章の開始です
テーマは「頭脳戦」です
クロード・ディエル。
ルード国が所有する二足歩行ロボット『ジャスティス』のみを破壊する、魔王。
そのクロードが長となっている組織――『正義の破壊者』。
組織名ともども、今や世界中で知らない人間がいない程に、その名声は轟いていた。
ジャスティスを破壊する。
それに付随すること以外は害ある行動を取らない。
故に、ジャスティスと関係ない一般市民にとって、ある意味ヒーロー的な存在にもなってきている。大国故に、そのやり方に反意を覚えても実行に移せる人はいなかったのだろう。
だが、そんな人達も疑念を抱いていただろう。
本当に力があるのだろうか?
希望を持たれているだけで、本人達はそんな力はないのでは?
――そのような疑念は、とある事実で払拭された。
海軍元帥、ブラッド。
多くの戦果を自ら上げていた軍師で、一般庶民にも名の知れた、いわば軍部の顔とも言い得る人物であった。
有名、かつ、強者であった彼を『正義の破壊者』が撃破したのだ。
その様子はルード国側がクロード撃破の様子を見せようと生中継していたことが裏目に出て、全国に知れ渡ってしまっていた。
そして何よりも、あの戦いで知れ渡った。
クロードだけではない。
『正義の破壊者』の強さを。
ブラッド元帥を倒したのはクロードではない。
実際に撃破したのはカズマという少年だったのだ。
彼は奪ったジャスティスを乗りこなし、正面からブラッド元帥のジャスティスを切った。
カズマ、という名前までは流石に広まらなかったが、そのような人材が『正義の破壊者』にいるという事実は世界中に回った。
故に世界はこう認識した。
クロード・ディエル。
ならびに『正義の破壊者』。
この二つはルードを脅かす最大の脅威である、と。
世界の人々の今までの認識は違った。
ルード。
彼の国は大国だ。ジャスティスという二足歩行兵器を有し、その領土を急速に増やしていっている。
そして、それに比肩しうる大国がもう一つ。
ウルジス。
国土はルードよりも大きくあり、また資源も多々あった。
しかしそれは過去の話。
平和協定を結んでいたアドアニアにルードが侵略した際、即座に平和協定を破棄したことから他国の信用を失い、またジャスティスによって兵力を格段に増強させたルードに攻められたこともあり、国力を確実に落としていった。
故に人々の対立の認識はこのように変遷して行った。
【ルード VS ウルジス】から。
【ルード VS 『正義の破壊者』】へと。
だからこそ、ウルジスの立場になって考えれば、この国が取るべき行動は分かるだろう。
「――いかがですかな?」
派手な椅子に腰掛けた男性が、蓄えた髭に触れながら問いを投げる。
彼の名は、ウルジス・オ・クルー。
王政を敷いているウルジス国の代表――王である。
通常であれば王は表舞台には出ず、象徴たる証として数ある儀式に出るのが役割である。
だが、現国王のウルジス・オ・クルーは歴代の王とは異なり、何事も前に出て自ら判断をする、いわば『現場型の王』という特殊な王族であった。彼は自らの判断を自らで行い、自らで責任を負う。
上に立つ者として当たり前のことを当たり前のように行う、珍しい王。
彼がいるからこそ、この国はまだ存続しているといっても過言ではない。
実際、アドアニアを見捨てた前国王を真っ先に王座から叩き落としたのは彼だ。それだけでも他の国王候補者を押しのけて圧倒的な支持を得たのは言うまでもないだろう。
そこからの彼の判断は、全て最適だった。
どんなに難しい局面でも。
どんなに非情な場面でも。
そんな彼は、また、難しい判断をしなくてはいけない状況に立たされていた。
「……」
彼の前に座る、黒衣を纏った黒髪の少年。
まだ齢二〇にも満ちていない。
にも関わらず、圧倒的なオーラを放っている。
クロード・ディエル。
魔王と呼ばれた少年。
王を目の前にしているにも関わらず、彼は瞠目していた。
「あの……クロード殿?」
「……」
王は困惑したと同時に不安になってきた。
目の前の少年は話を訊いているのだろうか。
「聞いているよ、きちんと」
「ッ!」
少年のこの返答に含まれた二つのことについて、王は困惑した。
一つは、聞いていたのに瞠目していたという事実。これは悩んでいたという好意的な解釈も出来るのでそこまで気にはしていない。
もう一つは馴れ馴れしい口調で話し掛けてきたこと。
同じことを側近の人々も思ったが、大半は、相手に敬意を払っている様子を全く見せていないという所に怒りを覚えつつの困惑だ。
だが、王は別の観点で困惑していた。
(――この少年、何故に委縮しないのだ?)
仮にも自身は王だ。それなりに威厳もある。言葉一つで処刑することも容易な権限もある。
ここはウルジスの領地内。
それどころか、ここはウルジス国の首都――ザハルなのだ。
ウルジス国最大の戦力も集まっている。数だっている。
アウェーの真っただ中なのに――
――と、そこまで思考して王は心の中で頭を振った。
(何を馬鹿なことを……彼はあのジャスティスを倒し続けていて、かつ、自らこの国へ来たんだ。そんなのは理解した上での行動に決まっている)
相手の少年に対しての評価を見誤っていたと、王は認識し直す。
心のどこかで若造であるという、見た目に沿った評価を下してしまっていた、と。
目の前にいるのは魔王なのだ。
「……決めた」
唐突に。
少年から言葉が放たれる。
そして。
次の句を告げられた時――
王は自分の選択を後悔した。