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Justice Breaker  作者: 狼狽 騒
第二章
59/292

エピローグ 02

    ◆





 クロードも予想外だった。

 ジャスティスを破壊すれば操縦者だけが命を奪われる者だと思っていたのだから、まさかコクピット内にいるだけで同じような目に合うとは思わなかった。

 それを知っていたら、別の方法を取っていた。


 あの時、カズマにトドメを差すブラッドの攻撃を止めたのは、クロードだ。

 正確に言えば、ブラッドの身体を動けない様に硬直させたのだ。


 どうやって?

 方法は、簡単。

 クロードの能力で止めた。

 クロードの能力。

 それはクロードの【五メートル以内のモノを変化させる】能力だ。

 しかし、あの時のクロードはブラッドのジャスティスの五メートル以内にはいなかった。

 いなかったにも関わらず、能力が発動できた。

 それは、五メートル以内にいたある人物がキーである。

 ブラッドの近くにいた人間。


 コズエ。


 彼女を介して、能力を発動させた。

 クロードの能力の種明かしをしよう。

 能力は先も述べた通り、クロードの【五メートル以内のモノを変化させる】ことだ。

 五メートル以内とは制限ではない。

 むしろどこまで制限を伸ばせる制約であった。

【クロードの五メートル以内】。

 それはクロード自身だけではない。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。


 髪の毛でも。

 垢でも。

 何でも。


 最初に飲ませた赤い液体。

 あの中にはクロードの髪の毛が一本、かなり薄く混ぜられていた。

 そしてその要素は彼らの身体を巡り、やがて極わずかとなるが身体の一部になる。消化されたりしない様には能力で変化させていたが、これが成功しているかはクロードにも分からなかった。しかし結果的にコズエをキーに能力が発動できたので、成功したのだろう。

 これの応用が、敵意を持った人間が飲んだり、後に悪いことを行ったりすると体内で毒性になる赤い液体である。

 クロードが近くに居なくてもこの能力は発動できる。

 まさに無敵の能力といっても過言ではないだろう。

 だからこそ、コズエは嘘つきと言ったのだ。

 本当はコズエと離れた場所でも会話出来た。

 だが、ずっと無視して伝えられないふりをしていた。


(……本当はずっと急いで向かっていた、なんて信じないだろうがな)


 あくまで冷徹な自分でいなくてはいけないクロードは、言い訳などしない。


 息をしていない彼女にすがる四人と共に泣くことも出来ない。

 してはいけない。


(しかしコズエは……本当に覚悟を決めていたな……)


 クロードは感心した。

 あの時。

 コズエはクロードを裏切ると言った。

 もし本当に裏切っていたならば、コズエの身体は爆発していただろう。

 ブラッドもあの至近距離ならば巻き込まれていた。

 それがコズエの狙いだった。


(だが、本心から裏切るつもりがない人間には能力は発動しないから、不発に終わったんだけどな)


 口だけで発動するような形では、スパイ活動すら出来ない。それはデメリットであるがゆえにそのような設定にしていたのだが、結果的に彼女の勇気に水を差すこととなった。

 そこは反省すべきだ。

 彼女という大きな犠牲。


 だが、代わりに――()()()()()()()()


「悔しいか?」


 クロードは、既に躯となったコズエの身体を抱くカズマに問う。

 カズマは顔を上げ、頷く。

 虚ろだが、その瞳の奥には強い復讐心が宿っている。

 良い目だ。

 どこか諦めの表情が多かったカズマが、ようやく他の者と同じ目になったとクロードは感じていた。

 ならば、カズマ自身がコズエを殺したのだという真相を伝えてその復讐心を萎えさせる必要性はどこにもない。


「復讐すべき相手はもういないぞ? お前が殺した。そんなお前にこれから何が出来る?」

「……僕の復讐はまだ終わっていません」


 カズマは乾いた声でそう返す。


「コズエはブラッドに殺されました。ですが、そもそもコズエがこのような状況に陥ることになったのは、僕達の施設が空を飛ぶジャスティスに破壊されたからです」


 空を飛ぶジャスティス。

 空軍。


「ヨモツ・サラヒカ。――空軍元帥という復讐対象がまだ残っています」

「そうか。空軍元帥を討てたらそれで終わりか?」

「いいえ。全く違います」


 強い否定。

 カズマはギリ、と歯を鳴らす。


「ジャスティスがある限り同じようなことが起きます。だから僕は全てのジャスティスを破壊します」

「お前もジャスティスに乗っているが?」

「勿論、自分も含めて、です」

「ジャスティスの操縦者は死ぬ確率が非常に高いぞ?」

「覚悟の上です」


 カズマは力強く頷く。


「僕の命を使って、コズエを殺した、くそったれな『正義ジャスティス』を破壊します」


 その強固たる言葉に、クロードは大きく頷く。

 カズマの決意は揺るがない。

 妹を失った悲しみを、全て憎悪としてジャスティスにぶつける。


 復讐の獣が今、誕生した。


「――聞いたか? 『正義の破壊者』に属する者達よ」


 クロードは芝居がかった口調で、周囲の人々に声を放つ。


「コズエはルード軍に殺された。あんないたいけな少女が、無慈悲に殺害された。正義はどっちにある?」


 口々に人々がルード軍に対して恨みつらみを口にする。


「そうだ。コズエが改めて気付かせてくれた。俺達は偽りの『正義』を破壊する者だ。みんなでもう一度胸に刻もう」


 クロードは告げる。




「俺達は――『正義の(Justice)破壊者(Breaker)』だ」




 コズエが命名した、自分達の組織の名を。

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