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Justice Breaker  作者: 狼狽 騒
第二章
53/292

海戦 11

    ◆



「くっ……」


 カズマは苦戦していた。

 ブラッドのジャスティスと対峙している。

 あのジャスティスの中にはコズエがいる。

 もう手を伸ばせば届く距離にいる。

 だが、相手は強い。

 まるで歯が立たない。

 二刀流を捌いて防御するだけで手いっぱいだった。

 もしこれがライトウだったら、捌いた上で攻撃に転じ得ただろう。

 もしこれがアレインだったら、回避した上で相手の意表を突く手を本能で実施しているだろう。

 もしこれがミューズならば、相手の情報を吸い上げて適切な動きをしているだろう。

 だが、自分には何もない。

 少し、相手を薙ぎ倒しただけで強い気になっていた。


 ――しかし。

 彼は決して諦めない。


 諦めればコズエの命がない。

 自分の命などどうでもいい。


 コズエ。

 可愛い妹。


 施設が襲撃される前から、色々と不幸な環境であったカズマがこれまで生きて来れたのは、コズエが傍にいたからだ。

 コズエが――兄と呼んでくれたからだった。


 だから諦める訳にはいかない。

 今まではすぐに諦めていた。

 どうせ才能には勝てない。

 その思考が全てを支配していた。


「――そんな考えは捨て去れ!」


 吐き出す様に考えを口に出す。


「コズエを助ける為に全神経を集中させろ!」


 鼓舞する。

 逃げ出さない。

 集中しろ。

 集中しろ。


「コズエ……コズエェエエエエエエエエエエエエ!」




    ◆





 コズエは静かに息を吸う。

 所々が痛む。

 だが、それは生きているから、痛いんだ。

 痛みは死んだら感じられない。

 死んだことがないから分からないけど。


「どうでもいいですね。そんな戯言」


 コズエは呟く。

 そんな呟きは当然、ブラッドは気にもしていない。ここで返されれば思考がぶれていたかもしれないので、その無視は彼女の決意を後押しした。

 もう迷いはない。

 後悔はある。

 クロードのためにと思って取った行動。

 結果的にその行動で、多くの人々を巻き込んでしまった。

 自分が何もしなければ、ここまでこじれなかっただろう。


(クロードさん)


 コズエはテレパシー能力でクロードに語り掛ける。


(私の勝手な行動で迷惑を掛けてしまい、申し訳ありませんでした。この度の失態は私が対処します。幸い、私は海軍元帥ブラッドのジャスティスの中にいて、ブラッドも傍にいますから)


 だから出来る。

 自分の予想が正しければ、やれる。

 ブラッドを道連れにすることが。


(……だけど一つだけ、伝えたいことがあります)


 コズエは絞り出すように告げる。

 一つだけのお願い。


(それは……)


 そこで彼女は言葉を止める。

 自分は何をお願いしようとしたのか。

 それは明確だった。

 これから死にゆく自分が伝えたいこと。


 クロードへの思い。

 好きだと。

 好きだったと。

 それを彼に伝えたかった。


 最後だからいいじゃないか。

 どうせ死んじゃうんだから恥ずかしいもへったくれもない。

 そう考えていたのだが――


 ――……やはり駄目です。


 コズエの目が潤む。

 だが泣かない。

 それは彼女の心の中の決心のようだった。

 ――ここまで迷惑を掛けておいて、自分の気持ちを一方的にぶつけるなんて意味のないことをしたら、更に迷惑をかけることじゃないですか。

 それは嫌だ。

 何故ならば、コズエはこれ以上クロードに――


 ――これ以上嫌われたくない!


 自分のわがままで、最大限の自分の我慢。

 伝えなければ唯一通るわがまま。

 ――ならば、これくらいは持っていかせてほしい。

 彼女はもう一度息を吸い。

 そして、二番目に伝えたいことをテレパシー能力に載せた。


(この戦いが終わったら兄を……どうか、よろしくお願いいたします)





(――()()()

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