海戦 09
◆
カズマを乗せたジャスティスの動きは俊敏だった。
まず海辺に入ると、近くのジャスティスを切り捨てる。
あまりにも早い動作だったのか、そのジャスティスはなすすべもなく崩れ去る。
そこでようやく相手も本気になったのだろう、カズマが乗っているジャスティスのことを敵とみなして攻撃を仕掛けてくる。
しかし、ジャスティス相手に普通の銃弾は効かない。
「はあああああぁぁぁっ!」
カズマの乗ったジャスティスは近くのジャスティスに飛び乗ると、素早くその足元を一閃する。
そして崩壊する前に今度は違うジャスティスに乗る。
それを繰り返し、途中の艦上のジャスティスの群れも蹴散らし、どんどんと中心部へと快進撃を進めていく。
初めて乗ったにも関わらず、まるで自分の手足のような――むしろ生身の自分よりも軽快に動くことが出来る。
これがジャスティスの力か。
――などと感慨深く思っている暇などなく。
「邪魔だあああああああああああぁぁぁぁっ!」
カズマは叫びながらも、冷静に処理していく。
目指す場所はもう検討を付けている。
斬り進めていくうちに見えてきた。
中央部に、一際大きな戦艦があった。
その艦上に立つ、一つだけ他のジャスティスとは大きく異なった立派なジャスティス。
どう見てもあれは、敵大将のモノだろう。
――見つけた。
カズマの視界の先には、そのジャスティスしか見えていなかった。
彼は一直線に、最短コースでそのジャスティスに向かっていく。
絶対、そこにいるのは――
「ブラッドォォォォォォッ!」
咆哮しながら、カズマは阻んでくる敵を薙ぎ倒す。
その勢いは留まることなく、みるみる間にその距離を詰めていく。
一対多数。
押しているのはカズマの方に見えた。
◆ルード国 軍本部
「くっはー。おっさんもえげつねえな」
ヨモツが豪快に声を上げる。
反面、怪訝な表情でコンテニューは訊ねる。
「どういうことですか? 敵のジャスティスが攻めているように見えますが」
「あれはわざとだよ。わーざーと」
「わざと、ですか?」
「あのおっさんの凄いとこで、俺が真似できないとこだよ」
ヨモツは、いいか、と説明する。
「今、倒されたジャスティスは全て――囮だ」
「囮、ですか?」
「ああ。相手ジャスティスの動きがかなり良いのは認めるが、それでもあのおっさんの範疇だろうよ。っていうか作戦な」
「あれだけジャスティスを破壊されてしまっているのが、ですか?」
「そうだ。本当は魔王相手に使うつもりだったんだろうけどな。見ろよ」
映像には相手ジャスティスが相変わらず無双をしている様子が映し出されている。
相手の目的は十中八九、中心に立つブラッドの乗るジャスティス。
「おかしいと思わないか? 何でこんなに直線的におっさんの所まで行けるのかって」
「……そうですね。相手ジャスティスはジャアハン国のモノですから『サムライブレード』のオプションはありますが、普通のジャスティスですからね」
「そういや、何で奪われてんだ、ジャスティス。陸軍のもんだろ、一応」
「いつものアレですよ」
「ああ……アリエッタ派の単独行動か。お前も苦労しているな……」
「いえいえ。――さて話を戻しましょう」
コンテニューは一つ手を打って続ける。
「直線的にブラッド元帥のもとまで行けることがおかしいというのは、確かにそうですね。陸軍のジャスティスでも耐水性はありますが、水中移動は普通に泳ぐしか出来ないですからね。人間と同じように」
「そうだ。だからわざわざ地続きにする必要なんかないんだよ」
「そういう誘い方ですか」
コンテニューの眉間に少し皺が寄る。
「……あまり好きな作戦ではないですね」
「俺もそう思う。だが、俺は嫌いっつーか、さっき言ったけど出来ない、ってやつだな。アリエッタの奴だったら出来たかもな」
だってよお、とヨモツは鼻を鳴らす。
「部下を捨て駒にすることを前提にした作戦を立てて支持されるなんてこたぁ、俺には出来ねえよ」
この作戦は端的に言えば、見えているジャスティスは囮で、本命は別にある。
その囮となるジャスティスが逃げてしまえば、成り立たない作戦である。
「しかも、本命はブラッド元帥のジャスティス、ではないですよね?」
「ああ、その通りだ。今の状態じゃ、ただの艦隊に乗ったジャスティスだ」
にやり、とヨモツは笑みを浮かべる。
「あのおっさんが率いる軍が海軍と呼ばれる理由が、そろそろ分かるはずだ」
◆カズマ
カズマの乗ったジャスティスが無双をしている。
前へ進み。
斬り。
前へ進み。
斬り。
刃こぼれもせずに切れ味が衰えない刀にも驚く所だが、カズマの的確な動作にも目を見張るものがある。
致命的な攻撃一つ貰わず、効率的な動きで直進していっている。
そしてついに、ブラッドが乗っている戦艦まで辿り着いた。
その間には何の障害物もない。
あとは戦艦の上を駆け抜けるのみ。
「ブラッドォォォォォォッ!」
雄叫びを上げながらカズマは突撃する。
ジャスティスの足も、彼の気迫とリンクした様に前への推進力を大いにつける。
――だが、その瞬間だった。
バシャアアアン
水しぶきを上げながら海から大剣を携えた四体のジャスティスが出現し、スピードに乗っているカズマのジャスティスの軌道を先読みした位置に向かって襲いかかった。
◆
「かかった!」
ブラッドは会心の声を上げた。
ブラッドの作戦は、自身のジャスティスを配置した上で、その艦隊に辿り着いた相手を奇襲する。
そこで破壊できればいいが、出来なくても足場を破壊することで海に落とすところまで行う。その為に足場を破壊してもいいような戦艦にしてある。奇襲攻撃に怯んだ相手を巻き込むことが出来る程の広い範囲で分離できる戦艦に。
そこからは海の中に配置している水中オプションをふんだんにつけたジャスティス達が、海底へと引きずり落としていく。
流石のクロードでも海底に叩きこめば死ぬだろう。
それがブラッドの狙いだった。
ジャスティスに乗ろうが関係ない、と。
――だが、ブラッドはここで二つのミスを犯す。
一つは、ジャスティスに乗っているのがクロードだと思い込んだこと。
クロードに関してきちんと調べていれば、彼がジャスティスに乗ることなど有り得ないことだと分かったはずなのに。なので、この攻撃が成功したとしても、次に同じ作戦を、仮に生身で単身戦いを挑んできた場合でもクロードには使えない。
そしてもう一つ。
それは結果的に――目の前のジャスティスを海に落とせなかったことだ。
◆
「――知っていますよ、こうなることは」
一転、冷静な口調。
同時に、カズマのジャスティスは、その場でブレーキを掛ける。
故に、最高スピードで突撃することを予測していた四体のジャスティスは遥か前方に攻撃をする。
ドゴォォォン、と大きな音がして、足場が崩れる。
――だが。
その前にカズマは再び前方に走り出し、相手の攻撃が地面に当たる前に跳躍をする。
それでも足りなさそうだったので、相手の内の一体を踏み台にして跳躍距離を稼ぐ。
その際に斬りつけることも忘れずに。